緋の花

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137話

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 邦一はよほどじゃないと死なないと言ってきた。そう、もう邦一は人間ではない。ずっと昔から怯えてきたことを、秋星は恐れずともよくなっていた。
 そして邦一は「秋星はいつだって俺が微妙になるくらい、偉そうにしてろ」とも言ってきた。

「アホやん……お前、ドエムなんか……」

 少し泣きそうになり、秋星はそれを抑え込むために悪態をつく。邦一はそんな秋星に笑いかけてきた。

「勝手に変態扱いするなよ」
「クニは変態やろ」
「そんな訳ないだろ。……なぁ」

 笑みを浮かべていた邦一がじっと秋星を見てくる。

「何」
「髪や目の色、それに紋様を隠し続けるのって力、使いすぎたりしないのか?」
「……俺はな。それに制御するもん身に付けてる。まぁ、クニはまだ魔物の力に慣れてへんやろから同じことしても疲れるかもやけど」
「そうなのか」
「クニはな。せやけどお前はあのチャラ猫によって魔物になった訳やけどな、チャラ猫とちごぉてそこそこ力、強いとは思うで」
「何で」

 はっきり見えるのではないが、およその力量を感じることはできる。とは言え口で説明できるものでもない。

「何となく」

 何だそれはと苦笑した後に、邦一はまた秋星を見てきた。

「今度は何」
「紋様、見せて」

 秋星の手を絡め取り、邦一が囁いてくる。どこでこんなことを覚えてきたのだと言いたくなる。ちょっと前までは童貞でこういったことに全く興味を示さない木偶の坊だったはずなのにと思う。秋星の気持ちを軽くしてきただけでなく、男前なことをさらりとしてくる。
 ただ邦一は素直で真っ直ぐな性格なので、もしかしたら思った通りにしているだけなのかもしれない。だとしたら、基本的に他の者に興味を示さない性格でよかったと秋星は微妙な顔になる。もし他の者にも興味を示すタイプだったなら今頃無自覚タラシになっていたかもしれない。
 顔立ちは本人曰く「平凡」らしいが、少なくとも秋星からしたらあっさり淡々としたところが悪くないと思っているし、背はすらりと高い。鍛えてきた体はそこそこの筋肉質で程よく、何よりも秋星にとっては味わい深い。

「クニが朴念仁でよかったわぁ」
「……それは褒めてるつもりか?」
「俺にしては、な」
「はぁ……。で、見せてくれないのか?」

 すり、っと絡められていた邦一の指が秋星の甲や指の股を擦ってくる。

「……えぇよ、見せても。やけど……」

 秋星は笑みを浮かべながら膝立ちになり、既に乱れている着物の裾をめくった。その裾を邦一に持たせる。邦一は露になった秋星の太ももを見ながら黙ってされるがまま着物をつかんだ状態を維持している。

「ちゃんと見て、そんで愛しく思ってや」

 秋星は自分の片耳に両手をやった。普段から絶対に和装である秋星にとって唯一和風でないものといえば片耳に二つつけているピアスだ。昔からつけていて邦一も違和感がないのか、何も言ってきたことがない。
 これをつけていても思わず制御が効かずに本来の姿になったりなりそうになったことは何度もある。だが効果は基本的にしっかりあるため、今のような時だと外さないとまず解放できない。

「それが制御してたもの?」
「そう」

 ニッコリ笑ったところでひとつ目のピアスが取れる。とたんに身体中の力が波打つようにざわめき出した。見た目は変わらなくとも勘のいい者なら気配をすぐに感じとるだろう。邦一も人間だった頃から気配を察知する能力は長けていたのもあり、ハッとしたように秋星を見てくる。

「秋星……本当に強いんだな……」
「お前が感じてんのが物力なんか魔力なんか分からんけどな、前から言うてるやろ、俺は強いて」

 それでも今のところ、ピアスを外して力を使ったことはない。邦一を殺すところだった野良ヴァンパイアに対しても制御したままで問題なかった。ただし姿を人の姿に留めておくことはできなかったようだが。
 話ながら二つ目のピアスも取った。じわりと自分の体が変わっていくのが分かる。目に見える自分の肌が殊更青白くなった。

「……うん……やっぱり秋星の髪も目も綺麗だ。キラキラしてて銀糸と宝石みたい」

 当然のように怯えることなく、邦一も膝立ちになり笑みを浮かべながら着物の裾を持っていないほうの手で秋星の髪を撫でてきた。その、口説くというより純粋な子どものような口調に秋星も微笑んだ。

「この髪一本すらお前のもんや」

 プライドは高くとも、自分の何もかもはこれでも邦一のものだと思っている。もちろん、邦一の何もかもは秋星のものだ。
 子どものようなことを言ってきたばかりの邦一が秋星の長めである前髪のひと房を手にし、そこへ唇を落としてきた。

「俺のもの」

 囁くと今度は膝立ちを崩しながら頭を下へ下げる。そうしてもう片方の着物を持っているほうの手に近づけていく。

「秋星の紋様も……綺麗だ。それにやらしいな」

 捲り上げている着物の中へ近づけ、邦一は秋星の内ももに唇を這わせてきた。その感触に秋星の体内がざわりと反応する。自分の中にある小部屋が水のような何かで満たされ波打っている。
 邦一の唇は太ももから今度は上へと移動していく。気づけばとっくに帯は崩され、着物は辛うじて体に纏っているだけになっていた。そのため、唇は容易に下腹部から臍へと移動してくる。その間もずっと触れており、秋星はひたすら電気がほんのり走っているかのような小さな衝撃を受けていた。

「秋星のこの辺に蔦が絡まっているみたい。凄く綺麗でやらしい。これも……俺のものだ」

 邦一は囁きながら、秋星に現れた紋様にずっと唇や舌をなぞるように這わせていた。
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