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昌史としては、智也を困らせたいわけではなかった。そもそも伝える予定は元々なかった。
だが気持ちがばれてしまった以上、もう隠しても仕方ないと、あからさまに気持ちを出すことにした。もう知られているのだ、隠す必要ないなら全面的に出してしまって何か問題あるだろうか。
こちらが好きとはいえ、智也に同じ感情を求め強要しようなどしていないし、強引に押しつけたりもしていない。ただ、こちらの気持ちを隠すことなく出していただけだ。
中学の頃、伝えるどころか話しかけることすらできなかった。そして智也がそのまま卒業して、もう二度と会えなくなったのだと思った。
その反動のように、気持ちがばれたのもありひたすら智也に話しかけたい。接していたい。
だが、最近の智也はどこか元気がないというか、悩みを抱えているように見えていた。一応話しかけたら答えてくれるし、普通に食べたり笑ったりも、するにはしている。だがどこか元気がない気がする。何か考えごとしているというか、悩みでも抱えているような気がする。
もしかして……俺のせい? 俺が悩ませているのでは?
普通に考えて、男から気持ちを寄せられ歓迎などしないだろう。それに智也は例えゲイだったとしても、好きでもない相手にまとわりつかれるのは好まない気がしないでもない。
昌史がそうだ。自分がノンケかゲイかすら正直よくわからないほど、智也以外の誰かを好きになったことないし、好きでもない相手とつき合いたいと思わない。
なのに俺は好きだって気持ち隠さずまとわりついて……それに、そうだよ。押しつけてないつもりだったけど、そもそも断りもなく最初にキスしてた。最低じゃないか。
智也は優しいから怒ったり文句言ったりしないだけで、きっと本当はとても困っているのではないだろうか。嫌なのではないだろうかと昌史は落ち込んだ。
どうしよう。やっぱりちゃんと改めて謝らないとだよな。いきなりキスしてごめんなさいって。それに……いくら気持ちばれてるからって、先輩が何も言わないからって、好きだって気持ちあからさまにしすぎかもだよな……これだって押しつけてるようなものかもだし……やっぱり謝らないと。
よし、と昌史は大学の門で智也が出てくるのを待つことにした。学校にいる間に誘ってもよかったが、ただでさえ悩ませているかもしれないというのに「空いてる日に」と約束をこぎつけても、さらに智也を悩ませるだけかもしれない。その場で誘えば、いくら優しい智也でも行きたくないと思ったら「いきなりは用事あるから」などと断りやすいだろう。
待ち伏せしていた昌史に驚いている様子の智也へ「今から食べに行きませんか」と誘うと、智也は予想に反して少し乗り気のように思えた。
「おいしい酒って、酒の味、わかんの?」
そんな風に茶化すように言ってくれ、昌史の気も軽くなる。
「あは、そこは噂を耳にしただけなんで、よければ先輩が確認してください」
「了解。行く」
「ほんと? やった!」
嬉しくなって笑みを浮かべると、智也は「ちょうど話したいこと、あったしな」と頷いてきた。とたん、うれしい気持ちがしぼむのが感じられた。
話したいこと……ってやっぱ「お前の気持ちが迷惑だ」とかそういう感じのかな。
智也ならそこはオブラートに包むようにやんわりと言いそうだが、でも多分そんな感じのことだろうと思い、悲しい気持ちでいっぱいになりそうだった。
店へ向かい、個室になっている席につくと、とりあえず二人それぞれメニューを見た。
俺も二十歳がよかった。なら篠原先輩と一緒に酒、飲めんのに。
ふとそう思ったが、今日謝ろうと思っているのにどのみち酒に頼るやり方は誠実じゃないなと内心うんうん頷く。
注文したものがある程度そろい、少しの間飲み食いしながら普通にしゃべった。とはいえ、やはり智也の様子は少し変な気がする。会話していてもどこか心ここにあらずというのだろうか。
やっぱり俺のせいなんだろな。
タイミングを見計らい、昌史は「篠原先輩」と改まって呼びかけた。
「うん?」
「……ごめんなさい」
「え? 何が?」
「……先輩、何か悩んでる気がして」
「え?」
智也は怪訝そうに首をかしげてきた。その様子は正直かわいいが、こういう時に遠慮なく「今の、すごくかわいいです」などと言ったりするから困らせるのだろうと反省する。
「何か様子が。最近の先輩。抱えてること、ありますよね?」
「あー……」
心当たりしかないといった様子の智也に、昌史は一応笑いかけた。だが自分でもちゃんと笑えている気はしない。
「もしかしなくても、俺のせい、ですよね」
「え」
「本当にすみません。ごめんなさい。先輩の気持ちガン無視していきなりキスしたり、バレたならいいやって感じで好意おしつけたりして、本当にごめんなさい」
なぜか少しポカンとしていた智也は、昌史が謝る内容を聞くと「ああ……」と納得したかのように呟き、ため息ついてきた。やはりこのことで悩んでいたのだろう。そしてはっきり振ろうと思っていたのだろう。
「困らせてごめんなさい。俺、今日はそれ言いたくて誘いました」
「辻村くん……」
「先輩、俺を振りたいのに言えなくて困ってたんじゃないですか? あの、ちゃんと言ってくれていいです。……いや、俺的には全然よくないけど、じゃなくて、えっと、とにかく本当にごめんなさい。ちゃんと言葉にされて振られる覚悟も……何とか、決めます」
だが気持ちがばれてしまった以上、もう隠しても仕方ないと、あからさまに気持ちを出すことにした。もう知られているのだ、隠す必要ないなら全面的に出してしまって何か問題あるだろうか。
こちらが好きとはいえ、智也に同じ感情を求め強要しようなどしていないし、強引に押しつけたりもしていない。ただ、こちらの気持ちを隠すことなく出していただけだ。
中学の頃、伝えるどころか話しかけることすらできなかった。そして智也がそのまま卒業して、もう二度と会えなくなったのだと思った。
その反動のように、気持ちがばれたのもありひたすら智也に話しかけたい。接していたい。
だが、最近の智也はどこか元気がないというか、悩みを抱えているように見えていた。一応話しかけたら答えてくれるし、普通に食べたり笑ったりも、するにはしている。だがどこか元気がない気がする。何か考えごとしているというか、悩みでも抱えているような気がする。
もしかして……俺のせい? 俺が悩ませているのでは?
普通に考えて、男から気持ちを寄せられ歓迎などしないだろう。それに智也は例えゲイだったとしても、好きでもない相手にまとわりつかれるのは好まない気がしないでもない。
昌史がそうだ。自分がノンケかゲイかすら正直よくわからないほど、智也以外の誰かを好きになったことないし、好きでもない相手とつき合いたいと思わない。
なのに俺は好きだって気持ち隠さずまとわりついて……それに、そうだよ。押しつけてないつもりだったけど、そもそも断りもなく最初にキスしてた。最低じゃないか。
智也は優しいから怒ったり文句言ったりしないだけで、きっと本当はとても困っているのではないだろうか。嫌なのではないだろうかと昌史は落ち込んだ。
どうしよう。やっぱりちゃんと改めて謝らないとだよな。いきなりキスしてごめんなさいって。それに……いくら気持ちばれてるからって、先輩が何も言わないからって、好きだって気持ちあからさまにしすぎかもだよな……これだって押しつけてるようなものかもだし……やっぱり謝らないと。
よし、と昌史は大学の門で智也が出てくるのを待つことにした。学校にいる間に誘ってもよかったが、ただでさえ悩ませているかもしれないというのに「空いてる日に」と約束をこぎつけても、さらに智也を悩ませるだけかもしれない。その場で誘えば、いくら優しい智也でも行きたくないと思ったら「いきなりは用事あるから」などと断りやすいだろう。
待ち伏せしていた昌史に驚いている様子の智也へ「今から食べに行きませんか」と誘うと、智也は予想に反して少し乗り気のように思えた。
「おいしい酒って、酒の味、わかんの?」
そんな風に茶化すように言ってくれ、昌史の気も軽くなる。
「あは、そこは噂を耳にしただけなんで、よければ先輩が確認してください」
「了解。行く」
「ほんと? やった!」
嬉しくなって笑みを浮かべると、智也は「ちょうど話したいこと、あったしな」と頷いてきた。とたん、うれしい気持ちがしぼむのが感じられた。
話したいこと……ってやっぱ「お前の気持ちが迷惑だ」とかそういう感じのかな。
智也ならそこはオブラートに包むようにやんわりと言いそうだが、でも多分そんな感じのことだろうと思い、悲しい気持ちでいっぱいになりそうだった。
店へ向かい、個室になっている席につくと、とりあえず二人それぞれメニューを見た。
俺も二十歳がよかった。なら篠原先輩と一緒に酒、飲めんのに。
ふとそう思ったが、今日謝ろうと思っているのにどのみち酒に頼るやり方は誠実じゃないなと内心うんうん頷く。
注文したものがある程度そろい、少しの間飲み食いしながら普通にしゃべった。とはいえ、やはり智也の様子は少し変な気がする。会話していてもどこか心ここにあらずというのだろうか。
やっぱり俺のせいなんだろな。
タイミングを見計らい、昌史は「篠原先輩」と改まって呼びかけた。
「うん?」
「……ごめんなさい」
「え? 何が?」
「……先輩、何か悩んでる気がして」
「え?」
智也は怪訝そうに首をかしげてきた。その様子は正直かわいいが、こういう時に遠慮なく「今の、すごくかわいいです」などと言ったりするから困らせるのだろうと反省する。
「何か様子が。最近の先輩。抱えてること、ありますよね?」
「あー……」
心当たりしかないといった様子の智也に、昌史は一応笑いかけた。だが自分でもちゃんと笑えている気はしない。
「もしかしなくても、俺のせい、ですよね」
「え」
「本当にすみません。ごめんなさい。先輩の気持ちガン無視していきなりキスしたり、バレたならいいやって感じで好意おしつけたりして、本当にごめんなさい」
なぜか少しポカンとしていた智也は、昌史が謝る内容を聞くと「ああ……」と納得したかのように呟き、ため息ついてきた。やはりこのことで悩んでいたのだろう。そしてはっきり振ろうと思っていたのだろう。
「困らせてごめんなさい。俺、今日はそれ言いたくて誘いました」
「辻村くん……」
「先輩、俺を振りたいのに言えなくて困ってたんじゃないですか? あの、ちゃんと言ってくれていいです。……いや、俺的には全然よくないけど、じゃなくて、えっと、とにかく本当にごめんなさい。ちゃんと言葉にされて振られる覚悟も……何とか、決めます」
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