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第一章 銀髪の侯爵令嬢
19話
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フォルスは父親である国王の言うことをいつも素直に聞いてきた。それが正しいことだと思っていたし、反抗する意味も特に見いだせなかった。
自分の婚約もそうだ。国王が婚約をしろと言うのならするだけの話だった。婚約者であるイルナには関心はなく、自分と同じ十六歳のフィールズ家長女、という認識しかない。それでも王が、親が勧めるのならそうしようと思ったに過ぎない。
だが今は別だ。例え親どころかキャベル王国そのものが禁忌だと主張していてもフォルスは守る気などなかった。
禁書が置いてある書庫は現王しか立ち入れないため、通常は厳重に施錠されている上に見張りの兵が必ず二人、ドアの両側に立っている。普通ならどうやってそれを突破するか頭を悩ませるのだろうが、フォルスは自分の皆に知られている性格と信頼を利用した。
「これはフォルス殿下」
「頭を上げなさい。そして施錠を解くように。陛下の代理として頼まれた仕事がある」
「し、しかし」
「聞こえなかったか? 俺が冗談やおふざけで現王しか立ち入れない書庫を開けろと言うとでも思うのか?」
「いえ、それは……ですが」
「安心しなさい。お前たちはちゃんと仕事をしてくれている。とてもありがたく思っている。ただ、俺も俺の仕事をさせてもらいたいだけだ」
「フォルス殿下……もったいないお言葉です」
感極まった表情をし、兵二人は施錠を解き始めた。相手がフォルスだからこその対応だとフォルスもわかっているからこそ、内心とても申し訳なく思う。フォルスだからと信頼してくれている証であるだけに、その信頼を裏切る行為はどうしたって心苦しい。ただ、そうしてでも何かアルディスに関わる情報を得たかった。
「わかっていると思うが、内密に調べなければならないことだ。お前たちも俺が陛下の代理として調べものをしたということを俺が出ていくと同時に忘れて欲しい」
「かしこまりました」
「ありがとう。では少々失礼する。俺が中にいる間も変わらずそこで見張りをしっかり続けていて欲しい」
「はっ!」
呆気ないほど簡単に書庫へ入ると、兵たちに申し訳ないと思う気持ちもさておいてフォルスはすぐに蔵書を調べ出した。中々興味深い内容がいくつもあったが、さすがにゆっくり楽しむ時間はない。何かわかりそうなものだけをフォルスはひたすら探した。何冊も見ては元へ戻しを繰り返した後、ようやく求めているものを見つけた。
「……愛し子」
双子として生まれてしばらくしてから、弟のアルディスが呪いをどうやら引き継いでしまったとわかったらしい。二人を産んでくれた母親はそのことにショックを受け、その後心労のあまり倒れた。フォルスも母のイメージは病床に伏したイメージしか残っていない。その後そのまま帰らぬ人となった。王は次の王妃を娶らず今に至る。
さすがに心労で倒れることはなかったが、フォルスもずっと辛い思いを抱えていた。何故自分ではなく弟が引き継いだのか。ただ、本当に辛いのはアルディスであるため、フォルスは「辛い」と口にしたことはない。
アルディスが呪いを引き継ぐ前は前王が呪いを受けていたらしい。呪いは毎回同じではないようで、前王の場合は魔力の暴走だったと聞いている。魔力が体を侵し、少しずつ体を蝕んでいくのだ。結果亡くなった王のことを、世間では魔力が強すぎた挙句暴発した事故死とされている。
アルディスの呪いは今のところ周りに対して被害を与えるようなものだが本人の命を直接脅かすものではない。ただ、それも保証があるわけでもない。また、今までフォルスが調べられる範囲での歴代王家で呪いを受けた者は総じて長生きをしていない気がする。ただそれが直接的な原因なのか間接的な原因なのかは把握できなかったので知り得ていない。それにアルディスも例え今のまま直接命を脅かされなくとも、まるで母親のように心労で死んでしまうかもしれない。現に今、何かあったのかアルディスは酷く心を痛めているようだった。
フォルスとしてはそれに甘んじてなどいられなかった。正義感が強く真面目だと周りから言われているし自分でも真面目なのだろうなと思ってはいたが、正義感を覆してでも禁書を調べるしかなかった。
「アルディス!」
相変わらずまだ牢の中にいる大切な自分の片割れを、フォルスは意気込んで訪問した。
「兄さん……まさか本当に書庫へなんか行ってないよね?」
「……それはお前が気にすることじゃない」
「行ったの? あの兄さんが?」
「あのって何だよ」
「だってすごく真面目で正義感の強い頑固な兄さんが?」
「頑固と言われたのは初めてな気がする」
「……はぁ。どうやって入ったの? 咎められることはなかった? 無事なの?」
ずっと牢の中で沈んでいたはずのアルディスが矢継ぎ早に質問をしてくる。ある意味元気にも見えるため、フォルスはふと「アルディスを元気づけるためには俺が無茶や馬鹿をして変な心配をかけるのもありなのだろうか」などとつい考えてしまった。
「ちょっと、兄さん聞いてる?」
「聞いてるよ。咎められていたら今、この牢に閉じ込められているのは俺だったろうな。あとそれはどうでもいいんだ」
「いや、よくないだろ」
「それよりも聞いてくれ、アルディス。このふざけた呪いの原因がわかった」
「え、本当に?」
今まで呆れた様子だったアルディスの目が見開かれた。
「ああ、わかった時俺がどれだけ憤ったか」
「そんなにひどい原因なの」
「というか情けなさというか、呆れというか……」
「どういうことなの……」
驚いていたアルディスがまた呆れたような顔をしている。真面目で面白みのない自分に比べ、表情の豊かな弟がフォルスは大好きだった。以前、きっとアルディスだったから今まで呪われた身で生きてこられたのかもしれない、フォルスだったら呪いに負けてしまっていたのではないだろうかと自分の考えをフォルスはアルディスに言ったことがある。
「馬鹿馬鹿しい。兄さんだったらむしろ自力でどうにかしてそうとしか僕には思えないよ」
「無茶を言うな」
「それくらい、兄さんは強いってこと」
「お前のほうが精神的に強いと思う」
「兄さんだよ」
「お前だ」
「終わりが見えないのでそろそろいい加減にしてください」
言い合っているとフォルスの幼馴染であり側近であるコルジア・ダーソンに呆れたように突っ込まれた。
自分の婚約もそうだ。国王が婚約をしろと言うのならするだけの話だった。婚約者であるイルナには関心はなく、自分と同じ十六歳のフィールズ家長女、という認識しかない。それでも王が、親が勧めるのならそうしようと思ったに過ぎない。
だが今は別だ。例え親どころかキャベル王国そのものが禁忌だと主張していてもフォルスは守る気などなかった。
禁書が置いてある書庫は現王しか立ち入れないため、通常は厳重に施錠されている上に見張りの兵が必ず二人、ドアの両側に立っている。普通ならどうやってそれを突破するか頭を悩ませるのだろうが、フォルスは自分の皆に知られている性格と信頼を利用した。
「これはフォルス殿下」
「頭を上げなさい。そして施錠を解くように。陛下の代理として頼まれた仕事がある」
「し、しかし」
「聞こえなかったか? 俺が冗談やおふざけで現王しか立ち入れない書庫を開けろと言うとでも思うのか?」
「いえ、それは……ですが」
「安心しなさい。お前たちはちゃんと仕事をしてくれている。とてもありがたく思っている。ただ、俺も俺の仕事をさせてもらいたいだけだ」
「フォルス殿下……もったいないお言葉です」
感極まった表情をし、兵二人は施錠を解き始めた。相手がフォルスだからこその対応だとフォルスもわかっているからこそ、内心とても申し訳なく思う。フォルスだからと信頼してくれている証であるだけに、その信頼を裏切る行為はどうしたって心苦しい。ただ、そうしてでも何かアルディスに関わる情報を得たかった。
「わかっていると思うが、内密に調べなければならないことだ。お前たちも俺が陛下の代理として調べものをしたということを俺が出ていくと同時に忘れて欲しい」
「かしこまりました」
「ありがとう。では少々失礼する。俺が中にいる間も変わらずそこで見張りをしっかり続けていて欲しい」
「はっ!」
呆気ないほど簡単に書庫へ入ると、兵たちに申し訳ないと思う気持ちもさておいてフォルスはすぐに蔵書を調べ出した。中々興味深い内容がいくつもあったが、さすがにゆっくり楽しむ時間はない。何かわかりそうなものだけをフォルスはひたすら探した。何冊も見ては元へ戻しを繰り返した後、ようやく求めているものを見つけた。
「……愛し子」
双子として生まれてしばらくしてから、弟のアルディスが呪いをどうやら引き継いでしまったとわかったらしい。二人を産んでくれた母親はそのことにショックを受け、その後心労のあまり倒れた。フォルスも母のイメージは病床に伏したイメージしか残っていない。その後そのまま帰らぬ人となった。王は次の王妃を娶らず今に至る。
さすがに心労で倒れることはなかったが、フォルスもずっと辛い思いを抱えていた。何故自分ではなく弟が引き継いだのか。ただ、本当に辛いのはアルディスであるため、フォルスは「辛い」と口にしたことはない。
アルディスが呪いを引き継ぐ前は前王が呪いを受けていたらしい。呪いは毎回同じではないようで、前王の場合は魔力の暴走だったと聞いている。魔力が体を侵し、少しずつ体を蝕んでいくのだ。結果亡くなった王のことを、世間では魔力が強すぎた挙句暴発した事故死とされている。
アルディスの呪いは今のところ周りに対して被害を与えるようなものだが本人の命を直接脅かすものではない。ただ、それも保証があるわけでもない。また、今までフォルスが調べられる範囲での歴代王家で呪いを受けた者は総じて長生きをしていない気がする。ただそれが直接的な原因なのか間接的な原因なのかは把握できなかったので知り得ていない。それにアルディスも例え今のまま直接命を脅かされなくとも、まるで母親のように心労で死んでしまうかもしれない。現に今、何かあったのかアルディスは酷く心を痛めているようだった。
フォルスとしてはそれに甘んじてなどいられなかった。正義感が強く真面目だと周りから言われているし自分でも真面目なのだろうなと思ってはいたが、正義感を覆してでも禁書を調べるしかなかった。
「アルディス!」
相変わらずまだ牢の中にいる大切な自分の片割れを、フォルスは意気込んで訪問した。
「兄さん……まさか本当に書庫へなんか行ってないよね?」
「……それはお前が気にすることじゃない」
「行ったの? あの兄さんが?」
「あのって何だよ」
「だってすごく真面目で正義感の強い頑固な兄さんが?」
「頑固と言われたのは初めてな気がする」
「……はぁ。どうやって入ったの? 咎められることはなかった? 無事なの?」
ずっと牢の中で沈んでいたはずのアルディスが矢継ぎ早に質問をしてくる。ある意味元気にも見えるため、フォルスはふと「アルディスを元気づけるためには俺が無茶や馬鹿をして変な心配をかけるのもありなのだろうか」などとつい考えてしまった。
「ちょっと、兄さん聞いてる?」
「聞いてるよ。咎められていたら今、この牢に閉じ込められているのは俺だったろうな。あとそれはどうでもいいんだ」
「いや、よくないだろ」
「それよりも聞いてくれ、アルディス。このふざけた呪いの原因がわかった」
「え、本当に?」
今まで呆れた様子だったアルディスの目が見開かれた。
「ああ、わかった時俺がどれだけ憤ったか」
「そんなにひどい原因なの」
「というか情けなさというか、呆れというか……」
「どういうことなの……」
驚いていたアルディスがまた呆れたような顔をしている。真面目で面白みのない自分に比べ、表情の豊かな弟がフォルスは大好きだった。以前、きっとアルディスだったから今まで呪われた身で生きてこられたのかもしれない、フォルスだったら呪いに負けてしまっていたのではないだろうかと自分の考えをフォルスはアルディスに言ったことがある。
「馬鹿馬鹿しい。兄さんだったらむしろ自力でどうにかしてそうとしか僕には思えないよ」
「無茶を言うな」
「それくらい、兄さんは強いってこと」
「お前のほうが精神的に強いと思う」
「兄さんだよ」
「お前だ」
「終わりが見えないのでそろそろいい加減にしてください」
言い合っているとフォルスの幼馴染であり側近であるコルジア・ダーソンに呆れたように突っ込まれた。
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