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第二章
この人……どM!?
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唖然とする俺を他所に、母さんは微笑を浮かべるウォレンを睨め付け、ため息をついた。聞けばこの人、母さんや勇者とパーティーを組んでいた時は魔法使い兼召喚士として戦っていたのだそうだ。
そして当然の事ながら、彼は魅了のスキルを保有していた。そして永い永い間生きて来て、大魔法使いとなった…までは良かったのだが、敵も挑戦者も存在しない平和さに飽き飽きし、退屈を紛らわせる為、敢えて迫害されている職業にジョブチェンジしたのだという。
「いや~、あの時代は楽しかったなぁ…。追手や暗殺者、果ては強力な召喚士が使役する従魔までもが大量に僕を討伐しに来るんだよ。それを千切っては投げ、千切っては投げ…。お陰で魅了師としての修行もバッチリ出来たし、スリリングでエキサイティングな日々も送れた。まさに言う事無い生活だったね!」
うっとりと思い出し笑いしているウォレンを見て、母は頭を抱え、俺とベルは物凄くドン引きした。
この人…いや、人と言っていいのだろうか。よもや究極のドM属性なのだろうか。自ら迫害の渦に飛び込んでいくなんてあり得ない。人としてどうかと思うし、真面目に正気の沙汰とは思えない。俺だったらそんな生活、絶対に嫌だ。
「…まあ、この頭と性格が緩んで壊れた変人のお陰で、お抱えの軍や隠密をことごとく撃破され、大打撃をこうむった各国も、魅了師を迫害するのではなく、上手く使った方が利益になると方向転換した訳だ。つまり結果的には魅了師達の生存と地位向上に大きく貢献した訳で、こいつは魅了師達から感謝と尊敬を込め『魅了師の祖』と謳われている」
「う~ん、単に好きでやっただけだからなぁ。その敬称、本当は要らないんだけどね」
へらへら笑うウォレンを、ユキヤは汗を流しながら見つめた。
確かに、彼の元で修行するならば、自分の能力を飛躍的に伸ばし、故郷に帰れる日も格段に早くなるかもしれない。でも何だろう。色々規格外なこの人の元で、果たして自分はやっていけるのだろうか。申し訳ないけど、希望よりも不安しか湧かない。
「んでー、話を元に戻そうか。ベハティ。君の息子を僕の元に連れて来たって事は、彼を僕の弟子にする為…って事で合っているのかな?」
「…出来ればそうしたいと思っている。お前に大切な息子を任せるのは色々と…本当に色々と不安ではあるが、背に腹は代えられない。多分お前以上に、この子の才能を開花させてやれる奴はいないだろう」
「そうだねぇ…。僕のようなちゃんとした魅了師ならいざ知らず、ごく普通の魅了持ち程度では、間違いなく彼の魅了にやられてしまうだろう。結果、無知で馬鹿なのを良い事に、弟子と言う名のお稚児さんにって画策されるのは明白。そして最終的にはそこのヘボ悪魔公に八つ裂きにされちゃう…という未来しか見えないね」
『誰がヘボだとー!!』
シャーッとベルが牙を剥くが、ウォレンはそんなベルを面白そうに眺めている。
ベハティはそんな一人と一匹を見ながら溜息をつきつつ、それでもウォレンの言葉に賛同するように頷いた。
そもそもウォレンを『ちゃんとした魅了師』の基準に当てはめて良いのかは微妙だが、ユキヤの魅了のスキルは悪魔公を骨抜きに出来た時点で規格外レベルだと判明している。しかもセオドア譲りの類まれなる美貌…とくれば、余程の強者であってもユキヤの魅了にあてられ、まともな指導など出来まい。
その点で言えば、ウォレンほど師匠として適任な男はいないだろう。この男は何千年も経て、あらゆる『欲』に対し、完全に達観しているのだから。
…そう、あくまで『達観』だ。間違っても『枯れた』と言ってはいけない。
随分前だが、うっかりそんな事を言った古馴染みなど、ウォレンに世にも恐ろしいお仕置きをされた挙句、未だにここには出禁になっているのだから。
そして当然の事ながら、彼は魅了のスキルを保有していた。そして永い永い間生きて来て、大魔法使いとなった…までは良かったのだが、敵も挑戦者も存在しない平和さに飽き飽きし、退屈を紛らわせる為、敢えて迫害されている職業にジョブチェンジしたのだという。
「いや~、あの時代は楽しかったなぁ…。追手や暗殺者、果ては強力な召喚士が使役する従魔までもが大量に僕を討伐しに来るんだよ。それを千切っては投げ、千切っては投げ…。お陰で魅了師としての修行もバッチリ出来たし、スリリングでエキサイティングな日々も送れた。まさに言う事無い生活だったね!」
うっとりと思い出し笑いしているウォレンを見て、母は頭を抱え、俺とベルは物凄くドン引きした。
この人…いや、人と言っていいのだろうか。よもや究極のドM属性なのだろうか。自ら迫害の渦に飛び込んでいくなんてあり得ない。人としてどうかと思うし、真面目に正気の沙汰とは思えない。俺だったらそんな生活、絶対に嫌だ。
「…まあ、この頭と性格が緩んで壊れた変人のお陰で、お抱えの軍や隠密をことごとく撃破され、大打撃をこうむった各国も、魅了師を迫害するのではなく、上手く使った方が利益になると方向転換した訳だ。つまり結果的には魅了師達の生存と地位向上に大きく貢献した訳で、こいつは魅了師達から感謝と尊敬を込め『魅了師の祖』と謳われている」
「う~ん、単に好きでやっただけだからなぁ。その敬称、本当は要らないんだけどね」
へらへら笑うウォレンを、ユキヤは汗を流しながら見つめた。
確かに、彼の元で修行するならば、自分の能力を飛躍的に伸ばし、故郷に帰れる日も格段に早くなるかもしれない。でも何だろう。色々規格外なこの人の元で、果たして自分はやっていけるのだろうか。申し訳ないけど、希望よりも不安しか湧かない。
「んでー、話を元に戻そうか。ベハティ。君の息子を僕の元に連れて来たって事は、彼を僕の弟子にする為…って事で合っているのかな?」
「…出来ればそうしたいと思っている。お前に大切な息子を任せるのは色々と…本当に色々と不安ではあるが、背に腹は代えられない。多分お前以上に、この子の才能を開花させてやれる奴はいないだろう」
「そうだねぇ…。僕のようなちゃんとした魅了師ならいざ知らず、ごく普通の魅了持ち程度では、間違いなく彼の魅了にやられてしまうだろう。結果、無知で馬鹿なのを良い事に、弟子と言う名のお稚児さんにって画策されるのは明白。そして最終的にはそこのヘボ悪魔公に八つ裂きにされちゃう…という未来しか見えないね」
『誰がヘボだとー!!』
シャーッとベルが牙を剥くが、ウォレンはそんなベルを面白そうに眺めている。
ベハティはそんな一人と一匹を見ながら溜息をつきつつ、それでもウォレンの言葉に賛同するように頷いた。
そもそもウォレンを『ちゃんとした魅了師』の基準に当てはめて良いのかは微妙だが、ユキヤの魅了のスキルは悪魔公を骨抜きに出来た時点で規格外レベルだと判明している。しかもセオドア譲りの類まれなる美貌…とくれば、余程の強者であってもユキヤの魅了にあてられ、まともな指導など出来まい。
その点で言えば、ウォレンほど師匠として適任な男はいないだろう。この男は何千年も経て、あらゆる『欲』に対し、完全に達観しているのだから。
…そう、あくまで『達観』だ。間違っても『枯れた』と言ってはいけない。
随分前だが、うっかりそんな事を言った古馴染みなど、ウォレンに世にも恐ろしいお仕置きをされた挙句、未だにここには出禁になっているのだから。
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