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第四章

名付け

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扉の中は、淡く光る空間が広がっていた。

その中を、ザビア将軍は迷う事無く進んで行き、俺はその後をついて歩く。

ザビア将軍が歩きながら教えてくれたところによると、国内に限り、この空間を使って好きな所に行く事が出来るのだそうだ。そして今向かっているのは、ザビア将軍だけが知る、秘密の隠れ家らしい。

「グリフォンって、凄く魔力が強いんだな」

よく分からないが、こんな空間魔法を造れるなんて本当に凄い。まるでどこでもドアではないか。機会があれば、自分も是非とも習得してみたい。

『ふん。いくら幻獣の中でも上位種とはいえ、グリフォンごときにそこまでの力は普通無い。多分だが、信仰の対象として長年この国の人間どもに崇め奉られた結果、神霊系に近い霊力を得るに至ったんだろう』

「成程。祈りの力…ってやつか」

そんな神霊系に近い幻獣に呪いをかけるなんて、オンタリア王国には相当強力な術者がいるに違いない。

ウォレンの代わりに魅了師として仕事をしに来た筈が、なんだかよく分からないままこの国を救う事になってしまってしまったのだが。そんな術者と自分のような素人が戦って、果たして勝てるのだろうか。

『いや、それよりもまずは、グリフォンだなぁ』

俺が現れたら、敵と認定して攻撃してくるかもしれない。

いくら助けるから信じてくれって言ったところで、俺は国王に雇われた魅了師なのだから、当然信用なんてしてくれる訳がない。
ザビア将軍が説得してくれたって、俺が魅了の力で将軍をタラシ込んだって思われるよな、絶対に。

いくら手負いだとは言え、最強クラスの幻獣。こちらも少しでも戦力を増強しておく必要がある。

「シルフィ」

『なーに?マスター』

「お前に名を付けてやる。『フウ』というんだ。どうかな?」

『フウ?フウ…それがボクのなまえ…!ヤッター!ありがと、マスター!!』

シルフィが大はしゃぎで俺の周りを飛び回る。良かった、気に入ってくれたようだ。

…ん?あれ?何かシルフィ…いや、フウの奴、身体が少し大きくなった…?

『ねぇ、マスター。フウって名前、意味があるの?』

おお、何か喋り方もカタコトじゃなく、しっかりしてきた。これが進化ってやつなのかな?

「うん、俺の故郷で『風』って意味。お前は風の精霊だからな」

ちょっと安直かなとも思ったけど、名前考えるの苦手だし、ちゃんと意味があるからいいかなって思ったんだ。

『おいユキヤ。その『故郷』とやらは、界渡りする前の世界の事か?』

「…うん。まぁな」

あ、ベル。そこんとこ忘れてくれていなかったか。

『そこらへん、もっと詳しく聞かせろ』

「なんで?」

『お前の事で、俺が知らない事があるのは不愉快だ』

なんという俺様。いいじゃん別に。秘密の一つや二つあったって。

「後でな。ここではちょっと…。落ち着いたら話すよ」

まあ、ベルだったら、俺が転生者だって事を秘密にしておく必要もないしな。それに『界渡り』とか『転生者』について、俺自身も詳しく知りたいし。

「黒の魅了師殿」

ザビア将軍が立ち止まる。どうやら聖獣の所に到着したようだ。見れば俺達の前には、再び大きな扉が聳え立っていた。

ザビア将軍が表情を引き締め一呼吸置くと、意を決した様に扉に手を当てた。

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