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第五章

嫌な可能性

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「なんと!やはりあの男が…!!」

一緒に聞いていたザビア将軍の顔が剣呑になる。
シェンナ姫は不安げに目を陰らせていたが、無言のままだった。

俺は再び後ろを振り返りラシャドを見ると、相変わらず憎々しげに顔を歪め、殺意のこもった目で俺を睨んでいた。あいつは上司…いや、主であるバティルに心酔しているみたいだけど、『魅了』によるものなのかな。それとも…。

『それからあいつ、『いや、まだあの御方が召喚した…』って言いかけたよ』

「あの御方が召喚した?それから奴はなんて?」

『分かんない。あわてて口閉じちゃったから』

多分、俺が魔法か何かで聞き耳立ててるとでも思ったんだろう。実際ベルがフウを使って盗聴してたから、その判断は正しい。

「ラシャドが…じゃないだろうな。御方って、バティル…?一体何を…」

『少なくとも、火竜サラマンダー魔鳥スラッシュはバティルって野郎が使役していた。グリフォンの呪いの根源も奴として、更に切り札になる召喚獣も…か?』

ベルは不可解そうに目を細め、チロチロと忙しなく舌を出し入れしている。俺も増えてしまった謎に眉根を寄せた。

「御方」をバティルと仮定して、奴は何かを召喚している。そしてそれは、俺たちへの切り札になり得る存在のようだ。

『ひょっとしたら…。『ソレ』は、この火竜サラマンダー達よりも強い魔獣なのか…?』

だけど、グリフォンと従魔にかけた呪いの強さがチグハグな謎が残ってる。

バティルって奴の単独犯ではなくて国の術師も加わって、グリフォンに掛けた『呪い』を完成させた…ってのなら納得がいくような気がするけど、そんな男が『召喚』した切り札?

『う~ん…。こんがらがった系を解こうとしてるみたいでイライラする!考えが堂々巡りになっちまうな?』

そもそも、シェンナ姫を執拗に欲しがってる理由はなんだ?グリフォンの力を奪い取っているのと、関係あるんだろうか。

「あの…魅了師殿」

悶々としていた俺に、ザビア将軍が少し躊躇いながら声をかけてきた。気を遣わせてしまったかなと振り向くと、彼は俺というより魔鳥スラッシュに視線を向けている。

「あなたの肩に停まっている魔鳥を見ていて、思い出したことがあります。謁見の際、バティルの肩に奴の使い魔だというカラスが乗っておりました」

『…カラスだと?』

ザビア将軍の言葉を聞いた途端、何故かベルがピクリと反応する。鎌首をぐいっと将軍に向け、珍しく『声』を出して問い掛けた。

『奴が肩に乗せていたカラスだが、目は何色だったか覚えているか?』

ザビア将軍は、ベルがいきなり喋った事に驚いた様子だったが、俺の従魔だからか、それとも何でもありと割り切っているのか、素直にベルの疑問に答える。

「確か…貴方の瞳と同じ深紅でした。魔鳥にはよくある色ですが、一際深かったので印象に残っております」

『…そうか…』

ベルは舌をチロチロと忙しなく出し入れながら考え込み、やがて双眼を細めた。

「あの、それが何か…?」

戸惑うザビア将軍と同じく、俺も不思議そうに首元のベルを見下ろす。バティルが肩に乗せていたカラスに興味を示してるけど、それがグリフォンの呪いと関係あるのか?

「ベル?」

『俺の考えが正しければ、事は少し厄介かもしれねぇな…。オンタリオに到着するまであと少し。…おいユキヤ』

ベルは巻きついていた体を上げ、俺の唇に当たる仮面の部分をコツンとつついた。

『オンタリオ国かバティルか。どうやら、画策してるヤツの裏にいる『諸悪の権化』を炙り出す必要がありそうだ』

「諸悪の権化!?おい、それってどういう……」

そこで俺は言葉を切った。

ひょっとしたら…。バディルが召喚したのかもしれない『ソレ』は、決して召喚してはならない者だったのかもしれない。

『そう…。例えば…』

再び俺の首元に戻ったベルに目を落しながら、俺はその嫌な可能性に思いを巡らせたのだった。
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