黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

交渉成立…?

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『この大カラス、スラッシュみたいな下級の使い魔じゃ…ない…?』

「…魅了師殿」

表情を消したバティルの顔が上がり、重い口を開いた。

「カルカンヌの『特使』としてなら、姫と共にオンタリオへの入国を許可しよう。この意味…貴殿ならば理解出来るであろう?」

へぇ。俺を「私」ではなく「公」で扱うと。つまり、俺が言ったトンデモ宣言をすれば、二国間の同盟が破綻するぞと釘を刺してるのか。

一旦口を閉じたバティルだったが、条件はこれだけじゃ無いと目にありあり書いてある。取り敢えず最後まで聞いておこうと俺が無言でいると、再び奴の口が開いた。

「そして…王太子との婚儀前に、姫の『魅了』を解く事を確約して頂けまいか」

「了承は出来ないな。最初に言ったはずだが?それは国王と王太子への質疑応答によると」

告げられた新たな条件に、俺は緩く頭を振ってはっきりと「是」を拒否する。

入国を許可するだけで、結局俺の利は何も無いじゃないか。身の安全にも全く触れてないし、舐めてんのかとイラッとしかけたが、我慢だオレ。

また一触即発の空気になるかと思ったが、バティルは悔しそうに眉根を寄せつつも、更なる譲歩を口にした。

「…陛下と王太子への謁見を認めよう。ただ、話し合いの結果が不服だった場合は….。姫の魅了解除の交換条件として、かの聖獣を『治して』も良い、と言ったら?」

「…信用しかねる。が、これ以上の押し問答は無意味だな」

『ベル!?』

「特使として招かれてやる代わり、ささやかな条件をそちらも飲んでもらおうか。国王達との謁見は今から数刻後。それから別件の交渉に応じるか否かを決めてやる」

「…了解した。『話し合い』は一応成立した…で良いのだな?」

「一応はな。そうと決まれば、さっさと姫達と俺を入国させろ」

『おいおいおい!べルゥ!?』

何の前触れもなくベルが俺の声音で応え、さくさくバティルと話をつけてしまった。動揺を隠して態度を合わせながら、俺はどう言うつもりなんだと脳内で疑問を投げかける。

『間怠っこしいのは飽きた。で、知っていたか?今夜は満月だ』

『はぁあ!?』

すると返ってきた台詞がオレ様、そして全くもって意味不明。思わず大声が喉を迫り上がってきたが、どうにか嚥下に成功する。

いや、飽きたってお前ぇ!?満月だって知らなかったけど、関係無いだろ今はそんなの!
俺が聞きたいのは、反故するに決まってる見え透いた条件なのに、どうして納得したんだって事で!

『煩ぇぞユキヤ。お互い信用ゼロだってのに、納得もクソもねぇ!兎に角入国できりゃあこっちのモンだろうが』

『おまっ…!打ち合わせした時には、あんだけ俺に『粘って主導権奪え』って檄飛ばしてたくせに!今までの俺の苦労は何だったんだよっ!!』

『ああよくやった、流石は俺の嫁だ。後でたっぷり可愛がってやるから拗ねんじゃねえよ』

『誰がお前の嫁だ馬鹿やろう!!だから!ふざけてる場合じゃ…』

『粘ったおかげで、ようやく小物バティルの後ろに隠れてた『奴』が出てきやがった』

「え?」

『奴』って、例の『諸悪の権化』か?

戸惑う俺の視線はバティルからベルへと向く。本蛇はというと、肩の上でじっと未だにこちらを睨め付ける大カラスに鎌首を向けていた。

「ベル、もしかして…」

『今夜で一気に片を付けんぞ。いいなユキヤ』

ベルは大カラスよりも鮮やかな紅眼を細め、チロリと舌を出した。

「これよりカルカンヌの貴賓が入国される。開門せよ!」

威厳の籠ったバティルの声を受け、閉じていた門がゆっくりと開いていく。人一人通れる程の隙間だった前回とは違って、目一杯の観音開きで。

門の内側には、バティル達のような位の高そうな騎士達がずらりと佇んでいた。中央には姫やバティル達を乗せる為の豪華な輿と、それらを担ぐだろう下男達が平伏している。

奇怪な事に、彼らの全てが黒い布で顔を覆っている。目を凝らして「見てみる」と、それらには微かに防御魔法が掛かっているみたいだった。
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