黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

拒絶してないからと言われても!

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『え…?』

これは現実逃避だったのか。

ほんの一瞬だったけど、頭の中が真っ白になってフェードアウトしかけたのは不可抗力だと思う。

『……ちょぉおーーっっ!?』

まごう事なくベルに口付けられてる事実に、心で絶叫し目が限界まで見開いた。

『おまっ!?こんだけの群衆の前で何やってんだよーっ!!』

と、心で絶叫し、必死に身を捩ろうとしても腰をがっちり掴まれていて、顔を逸らそうとしても顎をしっかり掴まれてる。つまり、全く動けない。

ってかコイツベル、性的接触してるよね!?カルカンヌの時といい、誓約真面目に仕事してなくない!?

『んなの、お前が拒絶してねぇからだろ』

混乱を吐き散らす脳内に、宮殿で襲われかけた時のベルの言葉が甦ってきた。…いや、今ベルに言われたのか?

『絶対違うから!!そんな事、俺は絶対認めないっ!!』

ベルの戯言を完全拒否したが、馬鹿にした鼻先笑いを脳内でされて終わる。

ブチ切れた俺は、この信じられない状況を打破すべく脳内で怒鳴りまくった。

『やめろベルっ!離せっ!いきなりが過ぎる!!じゃなくて、今のこの状況で何やってんだよ!!さっきみたく、黒蛇とのキスだったら従魔との戯れって映るだろうけど!人型では微笑ましさ皆無だから!!』

半ばパニクって喚く俺の声は、しかし届いてる筈のベルにガン無視を決め込まれてしまう。その間にも、有無を言わさず重なった唇が更に深くなって、青褪めていただろう顔に熱が集まった。

ならばと抗議を『目』に宿し、超至近距離にあるベルの双眼を睨みつけてみる。けれど、魔力不足からなのか効力が全く見られない。それ所か、僅かに細まった深紅に愉悦が滲んでいる気がする。

くそぅ!だからっ、止めろ…って……!

「……っ!!」

唇をこじ開けるようにして肉厚の舌が差し込まれ、閉じられた歯列をなぞって奥への侵入を要求してきた。

『おい、閉じた歯を開けろ』

『誰が開けるか!!それより俺を解放しろぉお!!』

ベルの要求と俺の要求は相容れず。続いて舌先で歯肉を擽られ、頸がぞわぞわとしてしまう。

せめてもの抵抗、そしてこれ以上の進行を阻止するべく必死に歯を食いしばっていたのだけれど…。

「ふ っ、ン……!?」

俺の腰に回されていたベルの手が、絶妙かつ不埒な動きで脇腹を撫で、ぴくりと肩が小さく跳ねてしまう。しかも続けて脚の付け根付近、際どい所をツッ…と指先でなぞられ、食いしばっていた歯が動揺で弛んでしまった。

『ベ、ベル!やめっ…!!』

するりと侵入を果たしたベルの舌は、蛇のそれとは質感も熱も違っている。それでいて蛇の様に口腔を這い回り、縮こまって逃げようとする俺の舌に絡み付いた。

ベル…いや、ベリアルは姦淫の百戦練磨エキスパートで、あらゆる淫猥行為を美徳とする悪魔の代表格だと言われてる。対して俺は、前世も今世もそう言った事に免疫皆無な訳で。

「…っ うぅ、んっ…っ」

三回目になるベルとのディープキス。絡めた舌を吸われ、牙で傷つかない絶妙な力加減で甘噛みされ、唇の角度も微妙に変えながら内外を刺激される。嫌悪する暇なんて与えないとばかりに。

回を増すごとに執拗になってないか!?と思う程濃厚なそれに、顔のみならず身体の熱も上がっていく。口腔内での粘膜音が鼓膜に響き、そのいやらしさに目を固く閉じ、刺激に流されまいと必死になった。

「ふっ…うんっ…!」

交わる息と唾液が流れ込んで、こくりと喉を鳴らす。

じくじくと苛む爛れた痛みが、それに伴って和らいで行った。あれ?これ…ベルの魔力なのか…?

そういえばベル…。さっき自分でも喚いてたけど、召喚前に喉の応急処置して貰ったっけ。

唐突かつ羞恥プレイではあるけど、黒蛇の時と同じで俺の喉を治癒してくれてるんだろうか。

『ベル……?』

『呪いの残留を中和してる。このまま大人しくしてろ』

疲弊していた内部がどんどん楽になって、魔力も緩やかに戻っていってる。ベルが治療してくれてると分かって、黒衣を引っ張り抵抗していた指から力が抜けた。

『あぁ……』

疲労困憊で痛みに耐えていたが故に、癒されていく感覚が余りに心地良くて、頭の芯が痺れてぼうっとなっていった。公衆の面前でベルに抱き締められ、深い口付けを交わしている事への羞恥とかも、『治癒行為』という免罪符で霞が掛かってしまい、強張っていた身体から力が抜けてしまう。

だから、ベルがわざと俺との耽溺たんできをラウルに見せつけていた事も、ラウルがどんな形相で俺達を凝視していたのかも気づく事が出来なかった。





――相変わらずだなこいつは。

感謝し、大人しく俺の接吻を受け入れたこいつユキヤに、心の中でほくそ笑んだ。

確かに俺の魔力で呪いを中和してるのも、癒しているのも嘘ではない。

正しくはユキヤの魔力を取り込み、俺の内で魔力循環させたもので再生を促している。そうする事であのゴミラウルの影響を排除し、尚且つ拒絶反応も起きない。

ただ魔力が高い『だけ』の人間では出来ない芸当でもある。普通、上位悪魔の残留物を除去して癒すレベルだと、魔力は対価として消費されるだけとなり、活用までには至らないのだ。

こいつは、自分がどれだけの潜在能力を秘めているのか、未だ理解していやがらねぇ。まぁ、だからこそこいつの魔力を存分に取り込んで、甘露な味を堪能できるんだがな。

こいつの極上な魔力は濃度も高く、酔いしれて……ともすれば酩酊しそうになる程だ。

あぁ…!早く、こいつの何もかもを喰らい尽くしたい。そしてこいつの身も、魂も心も全てを手にしたいと、俺の内で抑えているさがが猛り吠える。

比類なき稀有な魂と膨大な魔力、加えて希少な『魅了』と、それに匹敵する美貌を持つ奇跡の存在。

万物を惹きつける、垂涎ものの人の子だ。

なのに、当の本人は馬鹿で頑固でお人好しで、悪辣悪魔この俺の甘言をあっさり肯定してしまう危機管理の無さときた。アンバランスで愚かで…堪らなく愛おしい。

嘗て、ソロモンを巡っての壮絶な闘いが71柱の悪魔間で起こった。

俺もソロモンを気に入ってはいたが、他の連中の様に気が狂う程の執着は湧かず、焦がれ魅了された無様さを醒めた目で見ていた。だが、ユキヤと邂逅し、魅了された今なら奴等の狂乱さが手にとるようにわかる。

だからこそ、誰にも渡すものか。狙ってくる奴等は一匹残らず排除するだけ。こいつは…ユキヤは俺だけの者だから。

手始めに一匹、愚かにも俺の逆鱗に触れたゴミを排除しなければな。

顔を上気させ、恍惚とした表情を浮かべて俺の接吻を受け入れるユキヤ。

それを凝視して、ラウルは剥き出した牙を軋ませ絨毯を爪で引き裂いている。ユキヤが誰のモノかを知らしめるべく、優越感をたっぷり含んだ眼で睨め付けてやれば、奴の形相が更なる嫉妬と渇望で歪んだ。

――そうだ、もっと狂え。そして愚かな蛮勇を晒した貴様に、無様な最期を与えてやろう。

テメェの罪状は沢山ある。俺に無礼を働いた罪、俺のモノに散々色目を使いやがった罪。…だが、最も赦せねぇのはこいつ…ユキヤを傷つけ、痛めつけた罪だ!!
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