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第2章 ゴールデンウィーク

#006 相手の都合で話が進む(未帆視点)

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「眠いなぁー」

 未帆は、スマホの画面を前にして、あくびをしながらそう漏らしていた。

  今の時刻は午後の十一時半。普通ならこの時間にスマホは触っていないのだが、今日は違う。

 事前に亮平から、『午後十一時半ぐらいになったらMILEで連絡するから、それまで待っといて』と言われているのだ。

 内容は、雑談。わざわざネットを使ってまでする必要はないんじゃないかと未帆も思ってしまうが、亮平曰く、『帰省したら暇になるから』らしい。

(全く、何考えてるんだか)

 未帆の両親はもう既に寝ているので、怒られることはない。とはいえ、何もしないと未帆も暇だ。こちらから催促をしてみる。

『亮平? まだ出れないの?』23:39

 しばらく待ってみたが、既読はつかない。

 そういえば前に、亮平が帰省先のところについてこんなことを言っていたような覚えがある。

『帰省しても、案外暇なんだよね。いや、そりゃ昼はどこかに遊びに行ったり、姉貴について行ったりしてたら時間が勝手に過ぎるけど、夜がなぁー。電子機器は使用禁止だし、深夜番組も見るの禁止されてるし』

(ひょっとして、まだ亮平のおじいちゃんかおばあちゃんかが起きてるのかも)

 亮平が今返信できない状態ならば、わざわざMILEの画面を開いて待っている事もない。未帆は、着信まで別のアプリをすることにした。

 未帆が今しているアプリは放置系ゲーム。ただひたすらに連打するというものだ。暇つぶしにはもってこいだ。

 しばらくし、ふとスマホの時間を確認する。もうすぐ日付が変わる時刻だった。

(亮平がもう来ないのなら、そのことだけをメッセージして寝ようかな)

 未帆に少しづつ睡魔が近づいてきていた。

「ピロリン」

 効果音とともに画面にMILEの表示が出てきたのはちょうどその時だった。

『澪ってそっちにいる?』23:58

(開口一番にいう言葉がそれって、どうなんだろう。普通は、謝るとか……)

 なぜ酒井さんがここで出て来るのかは、未帆には謎だった。

 とにかく返信しないといけない。未帆は急いで文字を打った。しかし、未帆はフリック入力に慣れていない。度々入力を間違えるため、時間がかかる。

(ああもう、フリックってじれったい!)

 『待たせておいて……。澪なら、昨日の晩のうちに帰省しに行ったよ。場所は亮平が帰省しているところの近くだったと思う』00:01



 既読はすぐついたが、返信はすぐには返ってこなかった。

『そもそも目的は雑談だったんじゃないの? 亮平、どうしたの?』00:02 

 『三十分も遅れたのに謝罪の言葉は無しか!』と心で突っ込みをいれる。

『ごめんごめん。何でもない』00:02

(これ、絶対になにかある)

 だいたい亮平は、物事を隠そうとするときは、『何でもない』を多用する。ここ一か月の間、亮平といて分かったことだ。

『絶対なにかあると私は思うけど。なんとなく』00:03

 実をいうと確信しているのだが、言葉に表現できなかった。

 また亮平の返信がとまる。なにか弁解の言葉でも考えているのだろうか。

 寝ているわけではないだろうが、一応打ってみる。

『亮平、もしかして寝ちゃった?』00:05

(ま、本当に寝ちゃってたら返信なんか来るはずないんだけどね)

 それからさらに二分ほどして、その空白の時間があった答えが返ってきた。

『今日は非常事態のため終わる。理由はまた後で話すから』00:07

(緊急事態!? ……ああ、そういうことか)

 未帆は非常事態と聞いて、一瞬パニックになった。

 だが、冷静に考えて犯罪や災害が起こった訳ではないだろう。仮にそうなのだとしたら、明確にそのことが書かれているはずだ。それなのに、緊急事態という曖昧な言葉で隠すということは。

(誰かに見つかったかな?)

 亮平の帰省先の祖父母の家は、基本的に電子機器の使用禁止。見つかっていたら、当然『緊急事態』だ。

 それから亮平の返信は来ない。なにか送信してみるが、既読もつかない。既読がつかないまま五分が経ったことで、未帆は亮平が『緊急事態パソコン禁止』で返信が来なくなったと決め、そのままスマホの電源を落とした。

(うう、眠い……)

 未帆は自分のベッドへと向かうが、足取りは重い。

 そして横になった瞬間、どっと眠気が押し寄せてきた。

(明日、亮平出れるかな?)

 明日の事を少し心配する。が、すぐになにもかもが睡魔に飲み込まれていった。
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