京都四条侘助堂 四代目音羽沙羅陀のサラダな人々

リトルマナ

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九谷焼の湯呑みと葉月のこと

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「ところで、お昼は食べたん?」

「ちょうど河原町のすき家 に入ろうとしたとこで捕まって食べ損ねたから」
鶴さんの未だ残る残像の方に旬兄さんは目を向けながらそう言った。
その髪は相変わらず天然パーマのボサボサ頭で午後の陽射しを受けて時折金茶の様な色合いを放っていた。イタリア人かスパニッシュのハーフと言われたら信じてしまいそうな端正なその浅黒い横顔。

グレーのパーカーにグレーのジャケットを無造作に羽織って足元は素足にオックスフォードブルーのVANのスニーカーといったいつものヤッピースタイル。背中には何故か日本アルプスでも走破できそうな大きなオレンジ色のリュックを背負っていた。

「けど相変わらずやなサラダは」
遠い目をしたままポツリという旬兄さん。
口角の上がったままのその表情を見てると次に出てくる言葉はだいたい想像できた。
「姉ちゃんの紗那夢とはほんまに真逆の性格や」
それには私も異論を挟む余地はなかった。
もしここに紗那夢が居たら自転車の新京極を二人乗りなんて気にもとめへんかったやろ。コンプライアンス何て無縁の人やから、新京極を自転車でなんて涼しい顔して走れる女やし。二人乗りなんて紗那夢にしたら日常の景色と言えるかもしれへんし。

「とりあえず紗那夢のことは置いといて。お腹減ったしお昼にしよ」

私は敢えて突き放すようにそう言うと旬兄さんの言葉を待つことなくジーンズの後ろポケットからスマホを引っこ抜いてUVERのアプリを開いた。

「何食べる?すき家?吉野家?それとも粉もん系とか?それともそれともいつものように鶴さんとこで関東炊きでも買うてくる?」

「UVERか鶴さんとこか、まぁそれも相も変わらずのサラダのお決まりの選択肢やな」
自転車のタイヤに鍵の付いたチェーンを二重三重に丁寧に巻き付けながら旬兄さんはふっと息を吐くように小さく笑う。

「またそんないけずなことを…。なんやろなその一言多い性格は、一生治らんへんねんやろな」

私のそんな生意気口の返しも旬兄さんは何処吹く風と受け流してその表情は口角をあげたまま。
すると持っていた携帯がぷるるっと震えて画面には鶴さんのラインが…。

──すぐに熱々の関東炊き持っていくさかい、何も食べんと待っといてね

それを脇から覗き込んだ旬兄さんが「決まりやな」とまた笑う。

結局お昼は定番の鶴さんの関東炊き。近頃は3日に1回は食べてるような気がする。カツオと昆布の醤油出汁が程良くしゅんでそれは毎日食べても飽きひんほど美味しいけど、何か侘助堂の食卓を鶴さんの手毬屋に乗っ取られてるようでそれは京女としてはちょっとした敗北感を感じてたりもする。
けど持ってきてくれんのは鶴さんにしてはえらいサービス。ああ見えて取るもんはきっちりとる人やし。
今日の二人しての新京極ウオークはよっぽど浮かれぽんちで嬉しかったのかもしれへんな。




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