AKB48⌜翼はいらない⌟オマージュ作品 『翼を捨てた天使たち(早春編~立夏編』学連闘争員サハラリコ〜ある夏の日、私たちは一つになった

リトルマナ

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いじめの女王

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「お金、取り戻してもらえませんか、沙原璃子さん!!」

「・・・」

「お願いします!まゆさんのお金、取り戻してください!」


「ナーナ!」

たまらず咎めるように、爽は声を上げた。

何を言ってるんだろうこの子は。相手は大学側だけではなく公安の大人たちにまで目をつけられている筋金入りの学生闘争家。

うわさに寄れば全学連とか全共闘とか、目的の為には手段を選ばない、そんな中央の組織にも彼女はかなり名前が通っているらしい。そんな人間にこの子はまるで真冬の寒空に放り出された子猫のような目を向けている。



「沙原さん、何でもないから、気にしないで」

「だって、さや姉、ひとりで行けるの?あんなところに」

「・・・」

「表向きは不動産会社だけど、もともとはやくざ屋さん何でしょ」

「誰から聞いたんや、そんな話」


「部長のみゃほさん」

「みゃほさんか…」
苦笑いとともに爽の口から小さくため息が漏れた。
彼女には釘を刺されていた。

(もうあの子にかかわるのはやめな、爽)
そう言って。

(だいたい、なんでみんなまゆ、まゆって言うのよ。うちの部員じゃないんでしょ、あの子。
もうほっときな。いいわね、爽)


軽音サークル部長、美柳美帆(みやぎみほ、通称みゃほ) 
入部当初は、そのバランスの取れた容姿と18歳にしては大人びた歌声から先輩たちにもてはやされ、一時はうちの部のエースボーカルまで任された。

    
けど、私達の時代になって曲想も変わり、彼女の声に耳を傾ける者は次第にいなくなった

外部で受けたオーデイションもことごとくはじかれ、元々あったやさぐれた性格が顔を出し始める。3年で押し出されるように部長になったけど、月一出てきて私らに文句を言うだけ。今でも、その私生活の一端も私たちは知らない

「何も知らんねや、あの人は」



「ちょっと、すわっていい?」


「沙原さん・・・?」

砂原璃子は顔を覆っていたタオルを外すと、目線を少し窓際に向けながら、部室のくたびれた年代物のソファに深々と腰を下ろした。

そこには予想外のあどけない表情が浮かぶ。決してきれいとは言えないけど、すこし下がり気味の大きな瞳と時折みせるこぼれるような笑顔は十分魅力的で、なにより、話し始めた時の存在感はとても自分達と同年代とは思えなかった。

それだけでもナーナたちが彼女に心を許してしまうのには十分に思えた。



「じゃあ、話聞こうか、ナーナちゃん。今日、わたし、割りと暇なんだよね」


「ハイ!沙原さん!」


「サリコでいいよ、ナーナちゃん。みんなそう言ってるし」


ナーナの触覚と嗅覚の鋭さに改めて驚かされる。もし霊感というものがこの世に存在するのなら彼女の能力は極めてそれに近い。



( 美姫も摩子もいい子よ。どちらも頭がいいし。でも奈々はなんか違うのよ。直感で生きてるというか。それでいて生き急ぎはしていないし、後ろでどんと構えているところがある。なんだろうね、あの子は )
そう言ったのは渡良瀬繭。


──あんたの言う通りや繭さん。いまこの子は直感で生きてる。私たちが進むために夢をかなえるために必要なのは、あんたや言うことを、そのもって生まれた感性で感じはじめてる
まゆさん、もしかしたら・・・越後の桜の花が散るころには貴女に届けれるかもしれへん。あなたの大切なお金と・・そして結び忘れた私たちの絆を・・。




「で、それってわたしには何のメリットがあるのかな、ナーナちゃん」

「ちゃんはいらないですよ、サリコさん」

この人はもう私たちの味方。小田香ナーナはそう確信しているようだった。

「ところでサリコさんはどうしてこの大学に入ったんですか?」


実は爽もその事には少なからず興味があった。この大学は名ばかりの総合大学で都内の他の大学に比べると小規模な大学で、クリスチャン系で保守的。お嬢ちゃんお坊ちゃまが通う学舎を絵に描いたような大学。
彼女が来るまでは学生運動とは全く無縁で、集会どころかビラを配る学生の姿さえ見ることはなかった。
なんであの子、うちの大学に入って来たんだろうね、まゆさんが彼女を見る度にそう言っていたのを爽は思い出していた。



「みんな聞くのよね、そうやって」


そう言ってサリコは少し西日が差しはじめた窓の方に目を向けた。
そこからみえる煉瓦づくりの正門を背にした大きな楡の木。



大学のパンフレットの表紙も飾っているその木をサリコが初めて見たのは高校三年の夏休みで、それはオープンスクールを利用して大学を訪れた時だった。


「あの木を見て思ったのよ。私はここで高校時代を取り返す、私の三年間をここの4年間でちゃらにする。あの木の下で友達と他愛のないことでふざけあったり、お弁当食べたり、勉強したり、時には恋ばなもあるかもしれない・・」


「いじめにでもあってたんですか?サリコさんは」

「やめや、ナーナ}

爽は思わずナーナの口に手を当てた。

「いいのよ、さや姉。でもその逆だわ」


いつの間にか爽はサリコからさや姉と呼ばれていた。彼女がここに来てからまだ一時間も経っていないのに。

爽の人生のなかでさや姉呼ばわりされたのはこの時が最速だった。


「やりたいことばっかりやってたのよ、地元の大分ではね。もともと打たれ弱いんだよ、私はこう見えても。
だからやられる前にやる、いじめられる前にいじめてた。
なんにもしてないおとなしい子に、ただルージュを塗って来ただけでみんなでしかとしたり、髪形を気に食わないから、校舎の裏に呼び出したり。
そんな事ばっかり、学校側に目をつけられない程度にやってた。
陰湿だよね。けど私はもう前へ進むしかなかった、自分を守る為に。
いじめなければ自分がそっち側の人間に貶められる。以前その恐怖を味わっている私には選択肢は一つしかなかった。
いじめの真ん中に居座って心の壁を築く、誰も入ってこれないほどの大きくて高い壁をね。
それが私の高校生活の全て・・ 

 
  そして卒業の日、クラスの子の一人に、元気でねって声かけたら、何も言わずに頬っぺたはたかれた。あんたのことは死んでも忘れないからって。その時のその子の顔は今でも忘れない。
それでぼうっとしてて、気が付いたらもう私の周りには誰もいなかった。
窓の外を見たらその子はみんなに囲まれて写真撮ったりふざけあったりしてるのよ。
みんなが私を罵り嘲笑っているように見えた。その時の私の絶望感と敗北感、
分る?あなたたちに 」



「分かる・・・ような気がする」


思わず出た言葉に爽は自分でも驚いた。

「さや姉・・・」
ナーナの驚く顔を横目で見ながらサリコが小さな声で笑った



「だよね、いじめてそうだもんね、あんた」


「逆や。あんたの気持ちやない、その子の気持ちがわかるんや」


「・・・」


「あんたがその日に味わった気持ちを、その子は三年間、ずっと受け続けてきたんや」



言いすぎたのかもしれない、そう思って爽はナーナの目を見た。
彼女はその大きなうるんだ黒い瞳で爽をまたにらむ。

けどいじめた人間といじめられた人間、その間にある垣根はナーナが想うほど簡単なものじゃない。いじめた人間がいくらその事をちゃらにしようとしても、いじめられた人間は死ぬまで忘れない、その顔も、そしてされたことも。



「そうよ、さや姉。私は逃げてきた、この大学に、東京に。あの日を忘れるために逃げてきたのよ。あの日のあの子の顔を忘れる為にね」



「・・・」


「あの楡の木の下でサリコって、呼ばれたかったのよ」

「沙原さん・・」

「だから・・・ナーナ。サリコでいいって」

「サリコさん・・」

もうそれ以上、その時は何もサリコは話さなかったし私たちも聞かなかった。のちに親しくなってから彼女はこう語った


( いたのよ、大分の高校から来た人間が。ほんの数人だけどこの大学に。で、言いふらした、私がいじめの常習犯だって、大分のいじめの女王だって、あることないこと、いっぱい尾ひれを付けてね。
大学ってさぁ、もう大人だから、高校みたいないじめはないんだよね。
でも私が教室に入ったらはっきりわかるのよ、空気がとまるのが。音がなくなるのよ、私の周りだけ。あとはおきまり、流されるように学生運動に入っていった。どう、絵に描いたような青春ドラマでしょ
ハッピーエンドにはなりそうにないけどね )

サリコは、今は何とも思ってないよ、そう言ってその話を笑い飛ばした。
けど彼女は二度と私たちの前でその話をすることはなかった。



    
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