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我が名ぞ史上最強女戦士沙原莉子
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正気に戻った時には二人は車座になって後ろ手に手を付き大きく肩で息をしながら丸の内ビルヂングを見上げていた。迫ってくるパトカーのサイレンの音も聞こえていたけれど、もうそんなことは二人にはどうでもよかった。
手から伝わってくるコンクリートの感触は思いのほか心地よくてサイレンの音さえ聞こえていなければさわさわと街路樹を揺らすこの初夏の風に身を委ねていたいとさえ爽は思っていた。
「怪我はない?さや姉」
突然のサリコのさや姉呼びにびっくりして「えッぇ?」と頭のてっぺんから変な声が出た。
爽が小さく首を横に振るとタオルマスクが首までずり落ちて大きく息遣いを繰り返すサリコの横顔が見えた。ふくよかなその胸はかすかに上下に揺れていて激闘の余韻は確かにまだそこにあった。地面に張り付いている掌の先には赤い血らしきものも見えた。
「あんたこそ、手から血出てるやん、それって大丈夫なん?」
ビルヂングを見上げたままの爽がぽそりと零す様に言うと
「返り血だから、引っ搔いた時のね」
その手を午後の陽の光にかざしてニヤリと満足そうな笑みを返してきた。
辺りは大勢の人の行き来はあるものの二人の周りの半径五メートル程はバリアを張ったように人は入ってこず、そんな二人を見るとはなしに見ていく奇妙な人の流れができていた。
「頬っぺた深く入ったからさ、もしかした傷跡が残るかもよ」
「因果応報、天罰覿面、さすがサハラリコや、やることにぬかりがないわ」
サイレンがけたたましく当たり覆う。おそらくパトカーの一台や二台ではないのだろう。サリコのヘルメットにタオルマスクの出で立ちが事を大きくしていたのかもしれない。
「これでお金が戻ってきたら最高やねんけどな」
「戻ってくるよ、少なくともかすめ盗った金はね」
「ほんまに?」
「間違いない。あの最後は負け犬の顔。今頃トイレの中でちびってるかもよ」
そう言ってサリコはアハハといつものように口を大きく開けてけらけらと笑った。
「さぁ、あんたは早く消えな」
「何言うてんねん、逃げるのも残るも一緒にやろ」
「甘い。まだまだ甘いな、さや姉。だったら誰があの男からお金取り戻すのよ
これから追い込んでむしり取るのはさや姉さんの役目、でしょ?」
「・・・」
「言ったよね、初めて会ったときに。
男にはね、利子まできっちり返してもらう、それが女として生きるための真っ当な道だよって」
「サリコ・・」
「檻に入んのは慣れてるからさ。一週間もすれば出てくる」
爽にはまだ聞きたいことがあった、まだまだ語りたいことがあった。
サハラリコと一緒に居るこの瞬間、このひと時を少しでも一緒に居たい
そんな思いがふつふつと湧きあがってくる自分を抑えきれずいた。
ただそれ以上に自分のやるべきことは何かというのも思い知らされていた。
気がつけば 人並みが 遠くの方で 割れ始めていた。 サイレンの音が 止み 辺りの喧騒を遮るように青いヘルメットの集団が小さく見えた。
「まさかの機動隊のお出ましとはね」
中核派だとか全共闘だとか全学連だとか彼らの集会やデモが普通に日常茶飯事で見られる今のご時世だ。ヘルメット姿に顔をタオルで覆った人間が丸の内のオフィスビルのロビーで揉め事を起こせば大ごと捉えられて通報も尾ひれがついた大げさなものになってしまったのかもしれない。
所謂これもバタフライエフェクトというやつなのか。
サリコの猫パンチのようなひっかきが機動隊一個小隊が出動する騒動になっていた。
「ほら早く、そこの人混みに紛れて流れちゃえばもうわかんないから」
サリコに肩をひょいとひっつかまれた爽はそのまま背中を勢い良くはたかれて人混みの中へと押し込まれた。
よろけながら振り返るとサリコはもうこちらに背中を向けていてどこに隠し持っていたのか、折りたたみ式の黄色のメガホンを広げて口に当てると腰に手を添え仁王立ちに立ち、迫りくる機動隊の一団に向かって天に届けとばかりに雄叫びを上げ始めた。
── 全共闘全学連元幹部、我が名ぞ史上最強女戦士沙原莉子であ~る!!
この名において大日本資本主義帝国に蠢く全ての男共に物申~~す!!!
女を舐めてんじゃねえぞ!!!
虐めてんじゃねえぞ!!
蔑んでんじゃねえぞ!!
女をなんだと思ってんだよおめえらは!!
この腐りきった社会は女をものとしか思わず、
人権を与えるなんてクソ食らえとおもってんだろうが!!
闘うぞ!!
女たらしであろうが、スケベオヤジであろうが、
禿げ頭の無能政治家であろうが
男に、権力に、良いようにされてたまるかってんだ、よっ!!!
いいか、女は男の為に生きてんじゃねえぞ、
みんなそれなりに女としての夢を持って生まれてきてんだよ、
そんな小さな夢を一つ一つねちねち潰してんじゃねぞ、このバーカ!!
聞いてるかピンストライプ!!
(ビルヂングの方へと向き直るサハラリコ)
女を孕ませてその金ぶん取って鼻歌歌うように暮らしてやがる
絶対許さねぇからな、返さねぇなら何度だって来てやる!!
わかったか!!
この包○、変態、イ○ポ野郎~~~!!!
それだけ言うとサハラリコは隊列を成してなだれ込んできた機動隊に押さえつけられ持っていた黄色のメガホンが空に舞った。両腕を後ろ手にされその自由を奪われてもサハラリコはまだ何かを叫んでいた。
その姿に爽は震えが止まらず泣いていた。
沙原莉子の本性を見た思いで足が竦んで動けなくなっていたのだ。
もちろんそれは恐怖ではなく感動してで、もしかしたらそれはもう異性間の愛情に近かったのかも知れなかった。
下衆な言い方になるかもしれないけど子宮が疼くってこういうことなんだろうなってその時爽は初めて思った。
「痛たたたあっ!!なんだよっ!どこ触ってッんだよ、このスケベ!
キ○○マ蹴り上げるぞ、このバーカ!!」
四方八方から手が伸びてガン詰めにされて連れていかれるサハラリコを爽はその一団の姿が見えなくなるまでただ見送った。
一団の中から真っ白な腕が伸びてその先に天に突き上げる様な親指が見えた時にはまた涙が溢れた。
「何が後ろで見とくだけやねん・・・」
後は任せたよ、その突き立てた親指がそう叫んでいるように莢だけには聞こえていた。
手から伝わってくるコンクリートの感触は思いのほか心地よくてサイレンの音さえ聞こえていなければさわさわと街路樹を揺らすこの初夏の風に身を委ねていたいとさえ爽は思っていた。
「怪我はない?さや姉」
突然のサリコのさや姉呼びにびっくりして「えッぇ?」と頭のてっぺんから変な声が出た。
爽が小さく首を横に振るとタオルマスクが首までずり落ちて大きく息遣いを繰り返すサリコの横顔が見えた。ふくよかなその胸はかすかに上下に揺れていて激闘の余韻は確かにまだそこにあった。地面に張り付いている掌の先には赤い血らしきものも見えた。
「あんたこそ、手から血出てるやん、それって大丈夫なん?」
ビルヂングを見上げたままの爽がぽそりと零す様に言うと
「返り血だから、引っ搔いた時のね」
その手を午後の陽の光にかざしてニヤリと満足そうな笑みを返してきた。
辺りは大勢の人の行き来はあるものの二人の周りの半径五メートル程はバリアを張ったように人は入ってこず、そんな二人を見るとはなしに見ていく奇妙な人の流れができていた。
「頬っぺた深く入ったからさ、もしかした傷跡が残るかもよ」
「因果応報、天罰覿面、さすがサハラリコや、やることにぬかりがないわ」
サイレンがけたたましく当たり覆う。おそらくパトカーの一台や二台ではないのだろう。サリコのヘルメットにタオルマスクの出で立ちが事を大きくしていたのかもしれない。
「これでお金が戻ってきたら最高やねんけどな」
「戻ってくるよ、少なくともかすめ盗った金はね」
「ほんまに?」
「間違いない。あの最後は負け犬の顔。今頃トイレの中でちびってるかもよ」
そう言ってサリコはアハハといつものように口を大きく開けてけらけらと笑った。
「さぁ、あんたは早く消えな」
「何言うてんねん、逃げるのも残るも一緒にやろ」
「甘い。まだまだ甘いな、さや姉。だったら誰があの男からお金取り戻すのよ
これから追い込んでむしり取るのはさや姉さんの役目、でしょ?」
「・・・」
「言ったよね、初めて会ったときに。
男にはね、利子まできっちり返してもらう、それが女として生きるための真っ当な道だよって」
「サリコ・・」
「檻に入んのは慣れてるからさ。一週間もすれば出てくる」
爽にはまだ聞きたいことがあった、まだまだ語りたいことがあった。
サハラリコと一緒に居るこの瞬間、このひと時を少しでも一緒に居たい
そんな思いがふつふつと湧きあがってくる自分を抑えきれずいた。
ただそれ以上に自分のやるべきことは何かというのも思い知らされていた。
気がつけば 人並みが 遠くの方で 割れ始めていた。 サイレンの音が 止み 辺りの喧騒を遮るように青いヘルメットの集団が小さく見えた。
「まさかの機動隊のお出ましとはね」
中核派だとか全共闘だとか全学連だとか彼らの集会やデモが普通に日常茶飯事で見られる今のご時世だ。ヘルメット姿に顔をタオルで覆った人間が丸の内のオフィスビルのロビーで揉め事を起こせば大ごと捉えられて通報も尾ひれがついた大げさなものになってしまったのかもしれない。
所謂これもバタフライエフェクトというやつなのか。
サリコの猫パンチのようなひっかきが機動隊一個小隊が出動する騒動になっていた。
「ほら早く、そこの人混みに紛れて流れちゃえばもうわかんないから」
サリコに肩をひょいとひっつかまれた爽はそのまま背中を勢い良くはたかれて人混みの中へと押し込まれた。
よろけながら振り返るとサリコはもうこちらに背中を向けていてどこに隠し持っていたのか、折りたたみ式の黄色のメガホンを広げて口に当てると腰に手を添え仁王立ちに立ち、迫りくる機動隊の一団に向かって天に届けとばかりに雄叫びを上げ始めた。
── 全共闘全学連元幹部、我が名ぞ史上最強女戦士沙原莉子であ~る!!
この名において大日本資本主義帝国に蠢く全ての男共に物申~~す!!!
女を舐めてんじゃねえぞ!!!
虐めてんじゃねえぞ!!
蔑んでんじゃねえぞ!!
女をなんだと思ってんだよおめえらは!!
この腐りきった社会は女をものとしか思わず、
人権を与えるなんてクソ食らえとおもってんだろうが!!
闘うぞ!!
女たらしであろうが、スケベオヤジであろうが、
禿げ頭の無能政治家であろうが
男に、権力に、良いようにされてたまるかってんだ、よっ!!!
いいか、女は男の為に生きてんじゃねえぞ、
みんなそれなりに女としての夢を持って生まれてきてんだよ、
そんな小さな夢を一つ一つねちねち潰してんじゃねぞ、このバーカ!!
聞いてるかピンストライプ!!
(ビルヂングの方へと向き直るサハラリコ)
女を孕ませてその金ぶん取って鼻歌歌うように暮らしてやがる
絶対許さねぇからな、返さねぇなら何度だって来てやる!!
わかったか!!
この包○、変態、イ○ポ野郎~~~!!!
それだけ言うとサハラリコは隊列を成してなだれ込んできた機動隊に押さえつけられ持っていた黄色のメガホンが空に舞った。両腕を後ろ手にされその自由を奪われてもサハラリコはまだ何かを叫んでいた。
その姿に爽は震えが止まらず泣いていた。
沙原莉子の本性を見た思いで足が竦んで動けなくなっていたのだ。
もちろんそれは恐怖ではなく感動してで、もしかしたらそれはもう異性間の愛情に近かったのかも知れなかった。
下衆な言い方になるかもしれないけど子宮が疼くってこういうことなんだろうなってその時爽は初めて思った。
「痛たたたあっ!!なんだよっ!どこ触ってッんだよ、このスケベ!
キ○○マ蹴り上げるぞ、このバーカ!!」
四方八方から手が伸びてガン詰めにされて連れていかれるサハラリコを爽はその一団の姿が見えなくなるまでただ見送った。
一団の中から真っ白な腕が伸びてその先に天に突き上げる様な親指が見えた時にはまた涙が溢れた。
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