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はるると嶋田とヘイワシュギテキトウソウカ
しおりを挟む二月の風を受けながら、春を待ちきれずに咲く白や黄色の色とりどりの花々。
奥多摩の里山に溶け込むように佇む三角帽子の通称アルベロベッロ、奥多摩大学芸術学部の多目的ホール。
その大きな屋根の尖んがり帽子の先に鐘を持つ特徴的な外観。
実はこの建物、奥多摩の地域の教会兼公共ホールとして大学創立数十年前からこの場所に建っている訳ありホール。
大学の創業者がこの異色の建築物に惚れ込み、その周りを取り囲むように大学を建てたといわれている。
「はる、なにしてんのよ、そんなとこで」
「見て分かんない?花摘んでんのよ」
「どうすんの、そんなもん」
「うっさいなぁ、いいでしょどうでも」
1階のホールはぐるりを柱だけで支える吹き抜けのスペースになっている。
舞台からも客席からも奥多摩の自然が見渡せ、石畳のフロアには周りから草木が忍び寄り、どこか懐かしい土の香りがホールいっぱいに漂っている。
「でもさぁ、どうでもいいけど、このオンボロ劇場、どうにかなんないのかなぁ」
「どうして?私は嫌いじゃないよ。周りは自然のお花畑だし、舞台から見える景色もいい感じで朽ちてて、雰囲気あるし。それに、このビンテージ感たまらないって、サリコさんも言ってた 」
「誰、さりこって?」
「沙原璃子さん、みんな縮めてサリコさんって」
「ああ、あの赤軍派ね」
「違うよ、サリコさんはもうヘルメット被らないって言ってたし、拡声器も処分したって」
「できるでしょ、そんなもんなくったって赤軍派」
「だから、赤軍派じゃないって、サリコさんは!」
「じゃあ何なのよ、あいつ?」
「確か、ヘイワシュギテキトウソウカって言ってた、サリコさん」
「何それ?」
「知らない、聞かないでよ、私に」
はるると沙原璃子、どこにこの二人に接点があったんだかと嶋田春菜は未だに判然としなかった。
ただ二人の仲はしっくりと出来上がっている事を最近、嶋田は知った。
だから近頃はるるが小難しいことを口走るようになったのも多分あいつのせいだと。
「でも似てるよ、嶋田とサリコさん」
はるるはそういうけど、冗談じゃないと思った。大学の授業もそこそこに、徒党を組んでヘルメット被って、顔もみせないでこそこそして、おまけに学内のブラックリストにまで上がってた赤軍派もどきに似ていると言われた日には、実家熱海のおばあちゃんもおそらく泣いて悲しむ。
「それと、今度の公演のチケットも100枚ほど捌いてくれるって言ってたから、お礼言っといてよ、嶋田」
沙原璃子がなんで今になって私達に関わろうとしてきているのか、それは嶋田春菜は知らない。
一時は仲間の学生の慰謝料を取り付けたということで、学内で時の人になったという話だけど、所詮は女闘争員、それ以外はいい噂は聞こえてこない。
けれど、そんな話をどこから聞き付けたのか、「近づけないでね、遥をあの子に」
遥の母、白咲百合は今朝そう嶋田に釘を刺した。
女優以外にも様々な方面に多彩な顔をもつ白咲百合のこと、その類稀なる触角で、沙原璃子に危うい何かを感じているのかもしれない。
でもそれはそれ、今は嶋田は鞘師璃子ごときに関わっているときじゃなかった。
奥多摩大学創立10周年記念祭、そのメインを務めるのが白咲遥の舞台。
三日間に渡って一万人動員が嶋田に課せられた至上命題。
白咲百合の彼女への期待は半端じゃない。自分の作り上げていくものに限界を感じ始めている今、彼女の全ての血流は白咲遥へと向かいつつあるのを嶋田は知っていた。
はるるをここで成功させて、彼女の女優としての地盤をしっかりと作り上げる。
自らの早期引退、母娘で作り上げる女優白咲遥の未来予想図。
当然、その図式のなかには私の名前もあるはずと嶋田は思っていた。
「ほら見て!」
カトレアの花をかんざしがわりにはるが微笑む顔をこちらに向ける。
額に流れる汗がきらきらと輝く。そんな光景を嶋田はまるで一枚の絵画のように見つめる。
私はこの子と一生一緒に生きていく。その為にできることだけを考える。
利用できるものはこの際なんでも利用してやる。
それが赤軍派であれ革丸派であれ、ヘイワシュギテキトウソウカであれ、
そんなことは今の嶋田に関係ないのだ。
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