AKB48⌜翼はいらない⌟オマージュ作品 『翼を捨てた天使たち(早春編~立夏編』学連闘争員サハラリコ〜ある夏の日、私たちは一つになった

リトルマナ

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渡良瀬繭帰京

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「まゆさんだよね。。 違う?」

「そうだけど・・」

「だよね。どっからどう見ても渡良瀬繭だもん」


春はもうそこまでやって来ていた。
奥多摩の朝の風はまだ少し冷たくて、起きるのにはちょっと勇気がいるけど、

午後になれば春だぞって叫びたいほどの日差しがキャンパスいっぱいに降り注ぐ。

なんでこの時期に授業がないのか、春休みの大学にいるとそんなことをサリコはいつも思う。
春を待つワクワクドキドキ感、風の中の弾むような天使の囁きは今しか聞こえないのに。


「沙原・・璃子さん?」

まるで少女の様に指さししながら渡良瀬繭はそう言った。
サリコは頷きながら、彼女のその仕草に思わず笑みがこぼれる。


サリコは誰もいないはずの軽音の部室に人影を見つけた。二階の窓から身を乗り出すようにして、まだ固いはずの桜の蕾に手を伸ばしていた。

(あれはまゆさんの桜やから」

そんなさやかの言葉を思い出しながら、気がつけばサリコはもう部室への階段を駆け上がっていたのだ。



「お礼を言わなきゃいけないのよね、私はあなたに。」

サリコは何も言わずに小さく首を振った。
勢いだけで後先も考えずに二人で丸の内に乗り込み、資本主義の幻影と戦い、ある意味、私たちは勝利した。形はこの目の前にいる渡良瀬繭という人の為だったのかもしれない。目指すところの敵が同じだけだったからかもしれない。

でもその時サリコは山音莢の心の声を確かに聞いた。警備員に引きずり出されながら、互いに上げた雄たけびにも似た叫び声は二人の胸の奥に何処までも響いた。

泣いて笑って肩を抱き合いながら、一晩かかって奥多摩の下宿まで脚を引きすりながら帰ってきた時、サリコは大分からはるばる東京の奥多摩まで来たのはこの時の為なんだと思った。
あの一日は今となっては自分の大学生活のすべての様にさえ思えてしまうサリコだった。


「もっと早く帰って来なきゃ、いけなかったんだけど・・・」

誰もいない部室に渡良瀬繭の少しかすれたソプラノの声が響く。

(会ってみればわかるよ、みんななんでまゆさんを待っているのか)
さやかのいつもの口癖、それがサリコには少しわかったような気がした。

少し憂いを含んだような瞳は何処までも透明で見るものをしばしその場にくぎ付けにする。

    
美しいとか可愛いとか、そんな次元では例えたくないような不思議な存在感がそこにはあった。

「ほんとだ、渡良瀬繭だ・・」

「うん?なにが?」

「ううん、なんにも。 ただ、さやかの言ってた通りだなって。。。」

「言ってた通りって?」

「うん、まぁね」

「なによ?気になる、言って。 ほら、言いなさい、沙原璃子!」

「えーっ、長くなるんだけどなぁ、これが」

「いいからぁ」

さぁ、言ってみなさい、腕組みをして身構える渡良瀬繭の瞳があまりにも眩しくてサリコは窓の方へと顔を向けた。
ここ軽音サークルの部室で顔を覗かせれば聞かされた諸々を頭のなかで整理した。
目を閉じればみんなが語る渡良瀬繭が箇条書きでずらりと並んだ


「 いつもはらはらさせてどきどきさせてくれて、
おまけに夢ばっかり見てる。

そんな渡良瀬繭を私達は危なっかしくて見てらんない。
話す言葉は時にはみんなの心をえぐるように乱暴で乱雑、

いつも危うい言葉を私達に投げかける。

でもそれがまるで天使が囁くように聞えるときもある。

どれが本当の渡良瀬繭?、

日々そんな自問自答の繰り返し。

それでも私達は毎日、まゆさんの顔が見たい、みんなそう思ってる。

二階のこの窓辺にまゆさんの髪がなびいているのを見ると

みんな笑顔で部室に飛び込んでくる。

それが渡良瀬繭、それが私たちのまゆ。 

 だから・・・・  」


「もういいよ。。」


振り返るとブルージーンズにストライプが入った真っ白なシャツ、その肩の上で長い黒髪が小刻みに揺れていた。
渡良瀬繭は泣くことはない、まゆさんの涙は自分の心しか濡らさない、さやかの言葉どうりなら、これはおそらくサリコの見間違い。
瞳から流れ出る一粒の天使のしずくは春を夢見るサリコのなかの幻なのだろうか。



「でもさやかの居場所、やっぱりわからないの?」

「うん、みんな捜してるんだけどね。 まゆさんのところにも来てないんだ、連絡?」

鼻をぐずぐずさせながら、まゆは首を振る。振り向いた顔にはもう涙のあとは消えていた。

「手紙は来てるんだけど、どこにいるのかはさっぱり。居るとこ書いてこないんだもん、あの子」

「プロダクションの人も捜してるみたいだし」

「プロダクション?}

「うん、というか追われてるんだけどね、彼らに」
    
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