源氏、恋を織る

Ilysiasnorm

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第7話 夢が告げる、再会の時

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午後九時。
藤ヶ原本邸の最上階、書斎。

重厚な扉の向こう、静寂の中に響く時計の音。
源次は、呼び出しに応じてここを訪れた。

「久しいな」

低く響く声。ソファに腰掛けていた男が、グラスの縁に指をかけながら言った。

「……父さん」

その言葉に、藤ヶ原彰文は微かに目を細める。

「その呼び方は、随分と久しい」

源次は答えなかった。ただ静かに、対面の椅子に腰を下ろした。

「今日は、何の話ですか」

彰文は一冊の薄いノートのようなものを机に置き、源次の目を見据える。

「夢を見たろう。名を呼ばれる夢だ。…女の声か、あるいは男か」

一瞬、源次の瞳が揺れる。

「……どうしてそれを?」

「あの人も……お前の母も、そうだった……」

「……母さんが?」

彰文はうなずき、グラスに少量のワインを注ぐ。

「……昔時折、うなされてた。『御簾の奥から、誰かが呼んでくる』と。
紫の上……その名を口にしてな。目が覚めると決まって泣いていた」

源次はそれを聞き、息をのんだ。

「……僕も、その名を聞いた。夢の中で。
でも……僕が、どうかしてるのかと思ってた」

彰文は、机の上の古びた冊子を手に取る。

「これは“夢記”と呼ばれる文書だ。
元は桐壺家…お前の母さんの家が長く秘蔵していたらしいが、今はうちのグループの内部筋から入手した」

「……対立する家のものですよね? なんでそんなものがここに」

「この国の財閥というのは、見かけほど単純じゃない。
権力の中枢にいれば、敵も味方も紙一重だ。
桐壺家の中にも、過去の記録を危険視して外部に流した者がいた。それを拾っただけのことだ」

源次は訝しげに冊子を手に取り、パラリと開く。
そこに記されていたのは、夢で見た情景に酷似する記述。

『春の苑、名を呼びて涙こぼる……光と紫、再び相見えり』

……なぜ、ここまで一致する?

「父さん……これは、一体何なんですか。
ただの偶然にしては、気持ち悪いくらいだ」

彰文は、しばし沈黙した後、静かに言った。

「偶然じゃない。……この世界には、ある“輪”がある。
名前を、姿を変えても……魂は、何度も織り直されて、また巡ってくる」

「転生ってことですか?」

「信じるかどうかは任せる。
だが“夢”は、その記憶の断片だ。
お前も紫も……そして、六条も、その中にいる」

「玲香も……?」

源次は唇を引き結んだ。
紫の夢に出てきた声。玲香の鋭いまなざし。

それら全てが、ひとつの物語の布を織り始めている気がした。

「……俺たちは何なんだ、父さん。
運命だの因果だのに巻き込まれて、何をすればいい?」

彰文は、窓の外の闇を見つめたまま答えた。

「お前は“光”という男だった。
ただそれだけだ。……自分の目で見極めろ。前世が告げるものが真か偽かを」

「……あなたは、誰なんですか」

問いに、彰文は静かに笑う。

「ただの人間さ。だが、お前たちより少しだけ、目覚めが早かっただけだ」

「私自身も、夢を見る。だがそれは、物語ではない。
 記憶なんだ。何度も織り直され、名前を変え、生まれ変わり続ける……宿命の記憶だ」

「……どうして、俺が……」

「選ばれたからではない。ただ、輪の中にいた。それだけのことだ」

彰文は立ち上がり、夜の窓を背にして、静かに告げる。

「目覚めるがいい、光源次。
 これは、恋の物語ではない。
 宿命を生きる者たちの、再会の物語だ」

……そして、物語は再び動き出す。
紫、源次、そして六条。
それぞれの“記憶”が、目を覚まそうとしていた。

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