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家族の形 〜ポーレット〜

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 ポーレットまでの馬車の中、双子は嬉しそうにナギに構い倒していた。
 戸惑うナギも時折笑顔を見せては冒険者達に癒しを与えていた。

「ナギ。
 ポーレットの街が見えてきたよ。
 俺達が暮らす街だ。」

 イオリの言葉にナギは馬車の中で立ち上がった。
 余りの大きさに声を無くしたナギだったがイオリの顔を見て微笑んでくれた。

 壁門に着くと治安維持隊が喜びの声を上げて出迎えた。
 中でも、ポルトスは涙目をしながらイオリ達に手を振った。

「イオリ!その子かい?」

 報告を受けていた治安維持隊・隊長ロディが馬車に近づき中を覗いた。 

「はい。よろしくお願いします。」

 イオリは銀貨5枚を出した。

「悪いな。決まりだからな。これも頼む。」

 ロディは魔道具の石を差し出すとナギは泣きそうになりながら手を当てた。
 石が青く光ると馬車の中は拍手でいっぱいになった。

「よくやったぞ!」
「これで、俺達の仲間だな!」
「イェーイ。」

 イオリやエルノール、双子が笑ってるのを見るとナギは恥ずかしそうにゼンに顔を埋めてしまった。

 ポーレットの街に入ると馬車を降り一行は冒険者ギルドに向かった。

「サブマス。
 俺、ナギをダンさんに預けてきます。
 すぐにギルドに向かうんで宜しくお願いします。」

「分かりました。そうですね。
 ダンさんなら信用出来ます。ギルマスに伝えましょう。
 では、また後で。」

 エルノールはナギを撫で子供達に手を振る冒険者達とギルドに向かって行った。
 少し心細そうなナギを抱きかかえイオリ達は“日暮れの暖炉”に向かった。

 

 昼を過ぎた“日暮れの暖炉”の食堂は既に人もいなく、夫婦が揃ってカウンターに座って紅茶を飲んでいた。

「あぁ、美味しい。
 早くあの子達、帰ってこないかしら。」

「さっき、無事に街に帰ってきたって騒いでたろ。
 今頃、ギルドで報告してるさ。
 無事ならいつでも会える。ソワソワすんな。」

「だって・・・。」

 夫婦のそんな会話を知ってか知らずか扉を開いて大きな声が入ってきた。

「「ただいま!」」

 双子は勢いよく入ると、すぐにダンにより抱き上げられた。

 キャッキャと喜ぶ双子を見てローズは微笑んだが、すぐに夫の動きの速さに呆れた顔をした。

「貴方、さっき私になんて言ったの?」

 ダンは顔を赤くして双子を下ろすと撫でながら聞いた。

「2人だけか?イオリは?」

「今来る!一緒。ゼンちゃんとナギがねーマントでね。」

 パティの言葉に首を傾げる夫婦にスコルが説明した。

「魔の森でイオリがナギっていうエルフの子を保護したんだ。
 冒険者ギルドで報告をする間に預かって欲しいって言ってる。もうすぐ来るよ。 
 ボク達に先に知らせてくれって言ったから来た。」

「エルフの子だと?なんて事だ! 
 ローズ!湯を沸かしとけ。どうせ必要になる。」

 ダンは湯を頼むと外に出た。
 するとイオリが真っ黒な出で立ちで歩いてくるところだった。

「マントで隠してんの」

 パティがコッソリと伝えるとダンは頷いて扉を開けたまま待っていた。

「すみません。ご迷惑をおかけして。」

「んな事は良いんだよ。よく無事で帰ってきた。
 これからギルドだって?」

「はい。それで、ダンさん達に甘えにきました。」
  
 ダンは頷くとイオリを中に入れ扉の鍵を閉めた。

「客はみんな出払ってる。鍵を閉めときゃ入ってこねーよ。
 で?」

 イオリはマントを開いてナギを下ろした。ナギは直ぐにイオリの後ろに隠れてしまった。

「いつぞやの双子にソックリだな。」
 
 ダンは苦笑するとしゃがみ込んだ。

「おう。俺はダンだ。ナギって言ったか?
 俺はイオリの友達だ。出てきて可愛い顔を見せてくれ。」

 ナギは顔半分出すと、また引っ込んだ。
 その様子を見ていたパティがダンに顔をくっつけた。

「怖くないよ。」
 
 それを見たスコルも同じようにダンにくっついた。

「ほら出ておいで。」

 ナギは伸ばされたスコルの手を掴んでテトテト出てきた。
 ダンは辛抱強く待ってナギが前まで来ると大きな手で優しく撫でた。
 その様子を見て安心したイオリはナギに声をかけた。

「ナギ。俺は行かなきゃいけない所があるんだ。
 双子とココで待ってて欲しい。
 ダンさんは俺がこの街で信頼する人だ。ココは安全な場所だよ。」

 ナギはダンを観察した後に小さく頷いた。

「私もいるのよー。」

 ローズはナギを脅かさないように小さい声で近づいた。
 ナギは案の定ビクッとしていたがパティがローズに抱きつくのを見て隠れるのをやめた。

 イオリは双子を抱きしめてクッキーの入った袋を渡した。

「落ち着いたら、みんなで食べな。俺がギルドに行ってる間にナギを頼むよ。」

「「まかせて!」」

 双子は親指を立ててニッコリした。

「ダンさん。ローズさん。すみません」

「おう。行ってこい。」

「任せて。着替えもしておくわ。」

「あっ。足りなかったら請求して下さい。」
 
 腕輪から銀貨1枚ローズに渡した。
 ローズは瞬時に理解し深く頷いてくれた。

「ナギ。行って来るね。また後で」

 ナギを抱きしめるとナギはギュッとしてから頷いた。

 イオリとゼンが扉から出て行くとローズの掛け声が響いた。

「さぁ。皆!体拭くわよ!全員移動よ!」

「「はーい!」」

 双子がナギを挟んで手を繋ぐとローズについて行った。
 しばらくすると“日暮れの暖炉”から子供の戯れる声が響いた。
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