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家族の形 〜ポーレット〜

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 イオリがギルドの扉を開けると怒号が飛び交っていた。

 イオリに気づいた1人の冒険者が胸ぐらを掴んできて怒っている。

「お前!根拠の無い事、言って街を混乱させるなよ!」

「そうだ!ふざけんなよ!何だよ。闇落ちのトロールって!」


「バゥ!!」

 ゼンの声がギルドに響いた。

「離して貰えますか?」

 静まりかえったギルドの中にイオリの涼しい声が通った。
 唸るゼンに気後れした冒険者はイオリから離れた。

「ギルドでの争いはご法度なんじゃ無いんですか?
 ギルマス。」

 イオリは2階から見下ろしていたギルマスに声をかけた。

「悪いな。面倒なんで放っておいた。
 で?獲物は?」

「此処で出します?」

 バダンっ!!

 イオリは腰バックから闇持ちトロールを引き出した。
 ギルド中が息を飲む音がした。

「通常攻撃が効かなくて頭を潰すしかありませんでした。核は傷つけてません。 
 調べてもらった方がいい。」

「お前さんの通常攻撃が効かなかったか・・・。
 皆、いいな。
 これ以上に無駄な争いをするな。ここからはペナルティをとる。
 イオリ上がってこい報告をしてくれ。
 ベル!頼むぞ。」

「はぁーい。お任せをぉ。」

 イオリはベルに会釈すると階段に向かって行った。



 
 ギルマスの部屋に入るとエルノールを筆頭にニコライ・ヴァルトの公爵家兄弟と従魔、それぞれの従者達が揃っていた。
 いつもと違うと言えば公爵従者であるノアまでが足を運んでいた事だろう。

「お待たせして、すみません。」

 イオリが頭を下げるとニコライが代表して言った。

「ご苦労だった。よく無事で帰ってきてくれた。
 ナギと言ったか?エルフの子は大丈夫か?」

「“日暮れの暖炉”のダンさん夫婦が預かってくれました。
 初めは怯えてましたが出る時には笑顔を見せてくれたので何とか。」

 イオリの言葉に大人達はホッとしていた。
 その後、報告を初めたイオリの話を大人達は厳しい顔で聞いていた。

「煙の人とは誰だろうか?」

「転移魔法の一つでしょうか?」

 ニコライの呟きにエドガーが答えた。

『他に気配はしなかったかい?』

 ニコライの膝に丸まっていたデニがゼンに話しかけた。

『闇のトロールが強烈で気づかなかった。
 イオリが仕留めた後に観察してみたらフワフワと違う微かな匂いだけが残っていたよ。
 でも、アレは知らない匂いだ。』

 ゼンの答えにデニを含め部屋に重たい空気が流れた。

「闇のトロールだがな。
 今はベル達に解体を頼んでいるが一度王都に送ってみようと思う。」

 ギルマスの言葉にニコライは頷いた。

「その方が良いな。どちらにしても王都に知らせるべき話だ。」

「我々はもう一体のトロールに助けられたと言う事でしょうか?」

 ヴァルトの言葉に一同はハッとした。

「恐らく・・・。」

 イオリの声に視線が集まる。

「恐らく本人に、その意識はないでしょうね。
 目の前にいたエルフの子を守らなきゃという一言に尽きると思います。
 結果、我々は助けられた。
 あの時トロールがナギを見つけてなければスタンピードと同じ現象が起こっていたかもしれません。

 もしかしたら、何処かの誰かは、それを狙っていたのかも。」

「故意にスタンピードを起こそうとしていたという事だね?」

 それまで黙っていたノアが発言した。

「はい。」

「もう一つよろしいですか?イオリさん。
 ナギからの預かり物を皆さんに見ていただきたいのです。」

 ナギの父親が願いを込めて書いた手紙の事だ。イオリは頷いた。

 エルノールは懐から手紙を出すとニコライに差し出した。
 ニコライは手紙を読むと目を瞑ってノアに渡した。
 ノアは声を出して手紙を読むと再び部屋に重苦しい空気が流れた。

「ワザと騒ぎを起こし自らの命を犠牲にして息子を里の外に出したのでしょう。 
 例え鑑賞奴隷になろうとも里の外に出す事で奇跡に縋った。
 そして、その奇跡は叶いました。イオリさんが見つけてくれた。」

 エルノールは心痛な顔でイオリを見ていた。イオリは視線を動かさずに頷いた。

「問題は手紙の後半に書かれているミズガルドの文字です。
 勿論、早計はいけませんが考えないといけない時が来たかもしれません。」

 エルノールの言葉に大人達は頷いた。

「やはり、これも揃えて王都に報告しよう。
 父上に進言する。
 ノア一緒に行ってくれ。」

 ノアはニコライに同意した。

「ギルマス。闇落ちトロールの件は頼む」 

 ギルマスとエルノールは立ち上がって早速確認に行った。

「イオリ。本当によく帰ってきてくれた。
 ゼンも有難う。」

「ニコライさん。俺は気になる事に首を突っ込んだだけです。」

 ニッコリ笑ったイオリを見てニコライは安堵した。

「イオリはナギが気になるだろう。
 我々にも会わせてくれ。
 まぁ最初は怖がるか・・・。」

 ヴァルトの言葉に苦笑した。

 皆でギルマスの部屋から出て階段を下りるとフロアが騒ついた。

「お疲れ!」

 依頼を受けていたパーティーが近付いてきた。

「さっきは止められなくて悪かったな。」

 鎧の剣士が話してきた。

「いいえ。大丈夫です。お疲れ様でした。受付は終わりました?」

「あぁ、良い報酬だった。
 それであの子は?」

「信頼する人に預かってもらっています。
 今から迎えに行きます。」

「そうか、俺の名前はガンツ。Aランクだ。
 コイツらは俺のパーティー仲間だ。
 宜しくな。」

「イオリです。双子もお世話になりました。
 宜しくお願いします。
 今日は色々あったので失礼します。」

「あぁ、またな。」

 ガンツはニコライ達にも挨拶をして離れて行った。
 イオリは受付に行ってラーラに話しかけた。

「ラーラさん。受付は今日じゃなくても良いですか?」

「お疲れ様でした。イオリさん。
 承知しました。今日は有難うございました。」

 ラーラのお辞儀を背に受けイオリ達はギルドを出て行った。

 イオリが扉から出るのを見届けた冒険者達は一応に溜息を吐き、各々今日の出来事を話始めた。
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