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美食の旦那さん

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 戸惑う公爵とイオリを前にアマメは説明し出した。

《私の核はパライソの森の中心にある大樹と繋がっていて大樹が多くの魔素を育んでいる。
 私が闇に染まればパライソの森も闇に染まってしまう。

 私の核が一瞬でも闇に染めてしまった今。
 己の新たな命を森で生かす事ができない。
 
 今回の事を人間の責任と言うのなら、この子の行く末を守って欲しい。
 イオリが側にいるのなら、生き生かす大切さの意味も分かるだろう。》

 公爵は掌の小鹿を大事に包みアマメに頷いた。

《私はパライソの森を守る生命の体現する者。
 今の鹿の姿をしているが本来は人によって見え方が違う。
 人間に見える者もいれば狼・蛇・鳥に見える者もいる。
 貴方が名を与えれば姿も変わるだろう。》

 公爵は震える手を押さえながらイオリを見上げた。
 イオリはニッコリ笑うと公爵に言った。

「小さいですけど、重い命ですね。」

 公爵は何とも言えない顔で笑い、アマメに向かって誓った。

「大自然パライソの主よ。
 汝の子を大切に預かろう。」

 思いを受けたアマメは微笑んで頷いた。

《して、その子の名は何とする?この子は息子ぞ?》

「“繋がるもの”という意味をもつ“バンデ”と名付けよう。」

 公爵の掌が白い光を発すると中に白と紫水晶の色のグラデーションをした小さな小さなカーバンクルがいた。

 ピクンッと耳を動かすと紫の瞳をパチクリと瞬きさせた。

「ははは!可愛い子ですねー。」
 
 イオリは思わず公爵の背を叩いた。
 公爵も惚ける様にバンデを見つめて挨拶をした。

「起きたかい?バンデ・・・。
 これから仲良くしよう。」

 バンデは公爵の掌にゴロンっと横になりクシクシと鼻を掻いた。

《実に愛い子だ。
 
 テオルド。
 諦めるなと言った己の言葉を忘れるな。
 人に絶望せず、自然と人を思いやる事をバンデに教えてやって欲しい。

 バンデがこの地にいる限り、私もこの地の安寧を祈ろう。》

「約束しよう。
 人を愛する子にすると、たとえ私が死しても、この地はバンデを愛する事だろう。」

 アマメは満足すると大きな光の輪を出した。

「盟約の元に私は、この地を去ろう。
 愛し子イオリ。此度の事、礼を言う。
 貴方に私の守護を・・・。
 いつか、また会えるだろう。
 さらばだ、人間達。」

 アマメはバンデに口付けると息子と共に光の輪の中に入っていった。

 光の輪が小さくなりパライソの森へ帰っていったアマメを見送ると辺りは静かになった。

「行ってしまった・・・。イオリ・・・。

 礼を言う。
 師と死に別れた後、新たの従魔と契約を結んでこなかったのは従魔との別れの辛さを二度と味わいたくなかったからだ。
 しかし・・・。
 こうやってバンデを見つめると心の芯が暖かくなるな。」

 照れる公爵にゼンが擦り寄りバンデに挨拶する様にペロッと舐めた。
 バンデも瞳をクルクルさせゼンに口づけた。

『イオリ!バンデ可愛い!!』

 はしゃぐゼンにアウラが飛びかかった。

 ずっとアウラの後でモジモジしていた双子とナギはイオリが手を招くと、走って行って抱きついた。

「今日はよく頑張ってくれたね。終わったよ。
 帰ってご飯にしよう!」

「「「わーーーい」」」

 喜ぶ子供達に公爵の手元を指差した。

「その前に、新しい友達だよ。
 テオさんの従魔になったバンデだよ。
 脅かさないように挨拶しよう。」

 子供達は公爵の掌をのぞいて声なき悲鳴をあげた。

「「「かわいい!!」」」
「さわっていい?」
「いい?」
「いい?」

「優しく頼む。」

 スコル・パティ・ナギの順にバンディを撫でると3人は目尻を下げて息を吐いた。

「「「はぁー。かわいい」」」

 子供達がニコニコしているのをバンデは紫の瞳をクルクルと動かし、新たな環境の風を感じていた。
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