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新たな旅 ー王都ー

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 ポーレットを出発する前の事だった。

「新しいお菓子?」

「そうなの!何か良いアイディアは無いかしら?
 みんなの視線を釘付けにして、話題をさらってしまうよな。
 不思議なお菓子。」

 裏庭の花壇からハーブを摘んでいたイオリにオルガ夫人がお願いをしてきた。

「茶会の席にはミズガルドのお姫様もいるし、タヴァロス侯爵や、他にも気の置けない貴族達がいるわ。
 王室一家にミズガルドの姫が交戦を仕掛ける場合もあるでしょう。
 殿方には殿方の荒っぽい戦い方があるでしょうけどね。
 茶会は女の戦場。女には女の戦い方があるのよ。
 その為にはイオリちゃんのお菓子が強力な武器になると思うの。」

「なるほどね・・・。
 一つ思いついていて試してない物があるんですよ。
 祖母が好きでしてね。
 よく、作ってはお茶飲み友達と楽しんでいました。
 ダグスクで寒天も手に入ってますし試してみます。
 干したりして時間が必要なお菓子なので用意しておきますね。」

 イオリの言葉にオルガは嬉しそうに手を叩いた。

「まぁ、お婆様が?
 それは期待しちゃうわね。」

 そんなオルガの言葉にイオリは持っていたハーブをじっと見て、ニッコリとした。

「あくまでも祖母は素朴に作り上げていましたが、少しアレンジして数種類を作ってみますよ。
 面白い物が出来るような予感がしてます。」
_________

 そして、王妃主催の茶会に持ち込まれたのは紅茶やハーブ、果物で味つけられた色とり取りの琥珀糖だった。
 外は乾燥して飴のようにサクサク・ザクザクして中のゼリーも水分が抜けてしっとりしていた。

 それをグラトニー商会に準備してもらった宝石箱に入れて用意したのであった。

 実に人気を博した琥珀糖は多くの貴族がポーレット公爵にレシピを求めていた。

「大変申し訳ありません。
 すでに琥珀糖の作り手がレシピの公開を拒否しておりまして公爵もそれを認めております。
 どうぞ、皆様には本日のみお楽しみ頂きますようにお願い申し上げます。」

 ニコライの側で頭を下げたトゥーレに残念な声がかかった。

「それは残念だ。
 孫娘に食べさせてやりたかったのだが。」

「大変申し訳ありません。
 材料にも限りがあり、王妃様に楽しんで頂くために特別に作られた物。
 数が用意できないのです。」

 変わらず、すました顔で頭を下げるトゥーレに国王が助け舟を出した。

「それは大変、貴重な物を食べたのだな。
 その作り手に礼を言ってくれ。
 国王が大変満足していたと。」

「私からも礼を・・・。
 幸せな気持ちになりましたと伝えてください。」

 トゥーレは膝を付き頭を下げた。

「それは作り手も誉でございましょう。
 どうぞ、本日分でも皆様にお楽しみ頂きますように・・・。」

 そういうと、トゥーレはポーレット公爵の許可を得て下がっていった。




「だそうですよ。好評で良かったですね。」

 トゥーレは戻る最中イオリにニッコリと微笑んだ。

「ありがとうございます。
 でも、ローブの人は待ってくれそうもありませんね。
 ゼン分かる?」

『うん。ちゃんと見張ってる。
 消えちゃった様に見えるけど、ボクからは逃げられないよ。
 オルガを狙ってるみたい。』

 ゼンの言葉にポーレット陣営が殺気だった。

「この場で乱闘するわけにはいかない。」

 ノアの言葉にイオリは頷いた。

「でも、この場からお引き取りいただく事ぐらいは出来そうです。」

 そう言うとイオリはローブの男に視線を向けた。

________


 ローブを羽織ったブリエは、人に紛れ姿を消しながらオルガ夫人へ目掛けて魔法を使おうと魔石に触れた。
 一瞬の出来事だった。
 
《なっ!体が動かない・・・。》

 まるで石にでもなったかの様に体が動かない。
 ブリエは何が起こったと辺りを見回すと体をビクッとさせ戦慄した。

 エトワールの端から自分に向けて膨大な殺気が送られてきていたのだ。
 それは真っ黒な姿の青年とその傍に立つ純白の狼からだった。

《あれは・・・!気付かれただと!?》

 ブリエは初めてこの時、食われる立場の小動物の気持ちが分かった。
 いつもだったら、魔石の力で呪いを受けた相手は粗相をしでかし退場を余儀なくさせていた。
 一瞬の呪いに他の魔力を持った者も気付きづらい。
 ミズガルドから送り込まれた彼等はそれを繰り返してきたのだ。

 真っ黒な青年の殺気は気付く事のなかったブリエの体すら硬直させるほどの凄まじさだった。
 当然、他に護衛をしている人間達にも気付かれてしまう。

《今はまずい・・・。くそっ。》

 ブリエは訝しがっているロザリンダに小さく会釈をするとエトワールを後にした。
 いや、逃げ出したのであった。



「素晴らしいですね。ポーレット公爵夫人。」

「ポーレットの発展は噂以上の様ですな。」

 嬉々として褒め称える声を背に聞き、ブリエは全身から流れ出る汗を止める事なく歩き続きけた。
 
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