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旅路〜王都〜
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しおりを挟むシャラン シャラン
火の国“グランヌス”
岩山に添え建つ社の中で祈りは捧げられている。
シャラン シャラン
響く鈴の音が心地が良い。
その社の中で1人、炎を見つめる者がいた。
後ろには様子を見守る人々が固唾を飲んで待っている。
「如何でしょう?
巫女様。」
1人の男が声を掛けた。
「・・・黒き影が見えます。
災いが起きます。」
巫女の言葉に一同が息を呑んだ。
「そんな・・・どうすれば?」
「かの者は必ずやってきます。
警戒をなさい。
私に策が有ります。」
ーーーーー巫女の赤い瞳が炎で揺らめいた。
________
王都を出た馬車はスピードに反して揺れが少ない。
その中で今も楽しげな声がする。
「でさ~。
《Sランクだろうが、冒険者の基礎を忘れるな。》とかでギルマスの依頼で癒し草の収穫に行ったわけ。
その辺の森で取れるかと思ったらさ、指定されたのが洞窟だよ?
岩の中で草なんかあるわけないじゃん!!」
愚痴るロジャーにイオリは苦笑した。
「奥に行けば行く程、空気が薄くてね。
出てくる魔獣も並みのものじゃないんだ。
やっとの事で癒し草を見つけて戻ってみれば《遅い!》と嫌味を言われたよ。」
流石のアレックスも肩を落とす。
「それは・・・キツイですね。
何故、洞窟だったんだろう?
癒し草の収穫は難しくないのに。」
首を捻るイオリに2人は目をクワァっと開けてガシっと肩を掴んだ。
「それが!
その洞窟、未登録のダンジョンだったんだ!」
「ギルマスが個人的に管理してるとかで、滅多に人は来ない。
しかも魔獣が馬鹿強いんだよ!!
目的は癒し草よりも俺達の強化だったんだ。」
2人の言葉にイオリは驚いた。
「未登録のダンジョン?
・・・良いんですか?それ。」
「ギルマスが笑顔で《内緒ですよ。》って言ってた。
笑顔で!!」
「やばいって、あの笑顔!
いつもの穏やかなヤツじゃない!
笑み1つでブラックパンサーくらい気絶するね。
あ~!思い出しただけでも鳥肌が立ってきた。」
興奮気味の2人にイオリはなんとも言えない顔で手を上げた。
「あの~。
・・・内緒なんですよね?
今、言っちゃってますけど良いんですか?」
「「あっ・・・。」」
2人は顔を見合わせ、顔を青ざめさせた。
「・・・まぁ。
イオリだから良いんじゃないか?」
「・・・そだね。
そうだよ!イオリだから大丈夫だよ。
ねっ?ねっ?」
「・・・いやいやいやいやいや。
マズイですって、俺を巻き込まないで下さいよ!!」
イオリは首が取れるんじゃないかと言う程に首を横に振った。
「そんな事、言うなよ。
友達だろう?」
「そうだよ。
ギルマスはイオリに優しいから。」
「いやいやいやいや!
ヒューゴさん!!」
イオリは矛先をヒューゴに向けた。
「・・・俺は何にも聞いてない。
馬車の運転に集中していたからな。
何にも知らないぞ。」
「汚いですよ!
俺1人!
ちょっと!ロジャーさん離れて下さいよ!」
大人達が騒ぐのを子供達はニコニコと見つめていた。
「ねー。
何でみんなギルマスの事、怖がってるの?
あんなに優しいのに。」
心底理解できないとばかりにパティが首を傾げる。
側で目を瞑っていたゼンが片目を開け騒ぎを見て溜息を吐いた。
『放っておきなよ。
お腹が空いたら静かになるんじゃない?』
呆れている従魔に習うように子供達もそれもそうかと、お菓子を囲み始めたのだった。
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