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旅路〜パライソの森〜
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「ゼンちゃん、すごーい。」
目の前の光景が現実であると誰もが信じられない中、ニナが楽しげな黄色い声を上げた。
本来なら魔獣達に勘付かれて標的になりそうなものだが、彼らも今はそれどころではない。
ニナとナギは安全を確保された小高い岩から双子やヒューゴの戦いを見つめていた。
さっきまで争っていた魔獣達が、白く発光しているゼンに道を譲っている光景が、とてつもなく神秘的である。
「”純白のフェンリル”・・・。
初めてだ。」
ニナの隣でホワンが震えていた。
それに気づいたナギがホワンを気遣い背中を摩った。
「ゼンちゃんは怖くないよ。
優しいフェンリルだよ。」
すると、コナーがナギの頭を撫でた。
「ホワンは怖がっているのではなくて、感動してるんですよ。
私達、獣人にとってフェンリルとは、伝説の存在です。
しかも、“純白”とあれば、正に神が使した・・・神獣です。」
そう言う、コナーは3年前のミズガルドの事件の際に宮殿に巻き付いた大蛇を駆け登るゼンの姿を見た事があった。
それでも、今の目の前の光景に震えが止まらなかった。
怯えではない、心が沸き立っているのだ。
エルフであるリルラやゴヴァンも信じられないと、恍惚な顔で成り行きを見守っていた。
最早、ゼンを囲む魔獣達に抵抗する意志はない。
睨まれるのを避ける様に視線すら合わそうとしない。
そんな中だった。
真っ黒な衣装に包まれた若者が木から飛び降りてきた。
「ゼン!!」
特別な空間の中で、清々しい声が響いた。
魔獣達が平伏すフェンリルを気軽に呼ぶ男。
イオリは足取り軽く魔獣の間を歩いて行った。
イオリが近づいて、手を伸ばすとゼンは嬉しそうに大きな顔を擦り付けた。
「みんなの喧嘩を止めて偉かったね。
さぁ、みんな喧嘩は終わりだよ。
自分達の家にお帰り。」
グルルッ!
イオリを代弁する様にゼンが低い声を出すと怯えいた魔獣達が、1匹また1匹とゆっくりと背を向けて散り散りになって行った。
「みんな、気をつけるんだよ。」
まるで、子供の帰宅を見守るようなイオリの掛け声に、ゼンに押さえつけられていたキマイラでさえも「了解っす。」とばかりに大人しく帰って行った。
「「イオリー!」」
双子はイオリに抱きつくと興奮した様に目を輝かした。
「すっごいね!
やっぱり、イオリは凄い!」
「オークジェネラルまでもが言う事を聞いてたよ。」
矢継ぎ早に話す双子の頭を撫でるとイオリは微笑んだ。
「いや、俺じゃなくてゼンが凄いんだよ。
ありがとう。ゼン。」
それを聞けば、ゼンは《そら褒めろ。やれ褒めろ。》とばかりに「クゥクゥ。」とイオリに甘えた。
「“パライソの森”ってなんか、騒がしくって変な森だね。」
《変なのは、その騒がしい森を平気な顔で歩き、純白のフェンリルを従えているお前だ!》
そうツッコミたい気持ちを抑え込むヒューゴの溜息が森に消えていった。
目の前の光景が現実であると誰もが信じられない中、ニナが楽しげな黄色い声を上げた。
本来なら魔獣達に勘付かれて標的になりそうなものだが、彼らも今はそれどころではない。
ニナとナギは安全を確保された小高い岩から双子やヒューゴの戦いを見つめていた。
さっきまで争っていた魔獣達が、白く発光しているゼンに道を譲っている光景が、とてつもなく神秘的である。
「”純白のフェンリル”・・・。
初めてだ。」
ニナの隣でホワンが震えていた。
それに気づいたナギがホワンを気遣い背中を摩った。
「ゼンちゃんは怖くないよ。
優しいフェンリルだよ。」
すると、コナーがナギの頭を撫でた。
「ホワンは怖がっているのではなくて、感動してるんですよ。
私達、獣人にとってフェンリルとは、伝説の存在です。
しかも、“純白”とあれば、正に神が使した・・・神獣です。」
そう言う、コナーは3年前のミズガルドの事件の際に宮殿に巻き付いた大蛇を駆け登るゼンの姿を見た事があった。
それでも、今の目の前の光景に震えが止まらなかった。
怯えではない、心が沸き立っているのだ。
エルフであるリルラやゴヴァンも信じられないと、恍惚な顔で成り行きを見守っていた。
最早、ゼンを囲む魔獣達に抵抗する意志はない。
睨まれるのを避ける様に視線すら合わそうとしない。
そんな中だった。
真っ黒な衣装に包まれた若者が木から飛び降りてきた。
「ゼン!!」
特別な空間の中で、清々しい声が響いた。
魔獣達が平伏すフェンリルを気軽に呼ぶ男。
イオリは足取り軽く魔獣の間を歩いて行った。
イオリが近づいて、手を伸ばすとゼンは嬉しそうに大きな顔を擦り付けた。
「みんなの喧嘩を止めて偉かったね。
さぁ、みんな喧嘩は終わりだよ。
自分達の家にお帰り。」
グルルッ!
イオリを代弁する様にゼンが低い声を出すと怯えいた魔獣達が、1匹また1匹とゆっくりと背を向けて散り散りになって行った。
「みんな、気をつけるんだよ。」
まるで、子供の帰宅を見守るようなイオリの掛け声に、ゼンに押さえつけられていたキマイラでさえも「了解っす。」とばかりに大人しく帰って行った。
「「イオリー!」」
双子はイオリに抱きつくと興奮した様に目を輝かした。
「すっごいね!
やっぱり、イオリは凄い!」
「オークジェネラルまでもが言う事を聞いてたよ。」
矢継ぎ早に話す双子の頭を撫でるとイオリは微笑んだ。
「いや、俺じゃなくてゼンが凄いんだよ。
ありがとう。ゼン。」
それを聞けば、ゼンは《そら褒めろ。やれ褒めろ。》とばかりに「クゥクゥ。」とイオリに甘えた。
「“パライソの森”ってなんか、騒がしくって変な森だね。」
《変なのは、その騒がしい森を平気な顔で歩き、純白のフェンリルを従えているお前だ!》
そうツッコミたい気持ちを抑え込むヒューゴの溜息が森に消えていった。
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