続々・拾ったものは大切に大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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王都 〜青春からの因果〜

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 茶会の会場ではテーブルに座って商売や領地の話をする者や、立ったままで談笑する者で賑わっていた。

 グルリと見回しても出席しているのは当主ばかりで男性が多いが、チラホラと女性の姿も見える。

 ドレスや宝石の話に花は咲かないが、噂話が好きなのは性別関係いなく変わりないらしい。

 話題の付きないポーレット領の領主である公爵テオルドは好奇な目に晒されてウンザリしているのを悟られまいと澄ました顔で人々の話に耳を傾けていた。

「いや、殿下方の御成婚は何とも目出度い事ですな。」

「王都の賑わいを見れば、今年の景気も良いのではないですか?
 地方にも分けてほしい程ですよ。
 ハハハ。」

「ですが、王太子殿下と第二王子殿下の結婚を同時にというのは如何なものかと思っていたのですが、皆さんはどうお考えですか?」

 細い髭を顎まで伸ばした何処ぞの貴族が、そう口にすると周囲の者達は顔を見合わせた。

「祝い事が2度もなるなど幸せな事ですが、こうやって国中の貴族が大移動する事を見越せば一度に済ませて頂いて有難いと思ってますよ。」

「我が領地も雨季の時期の前には対策を講じなければなりませんから、反対などありませんよ。」

「祝い事が多い方が良いと仰るのは王都におられる方ばかりではないのですか?
 第二王子殿下は勤勉な御方ですから、早めに領地入りをされたい事でしょう。」

 苦言を呈した貴族に、当たり障りなくとはいえ反論した者達の様子をみれば、今代の国王の人望具合が伺えるというものだった。

 最初に言い始めた細い髭の貴族は、何とも言えない顔でテオルドに話を振った。

「テオルド様は王子達の叔父として、どうお考えでいらっしゃるのです?」

 テオルドは気づかれない程度の小さな溜息を吐くとニッコリと微笑んだ。

「叔父といえども、既に王族から臣下に降った身。
 私が王子殿下方の判断に疑問を持つ事はありません。
 臣下として、可の方々の行く末を見守りたいと思います。」

「王太子殿下の婚約期間が長かったのは、婚約者であるポートマン公爵令嬢に問題があったとの話もございますが?」

 細い髭の貴族の熱の入った発言にテオルドはキョトンとした。

「はて?誰がそんな事を?
 優秀であったポートマン公爵令嬢を軍が手放すのを惜しんだのですよ。
 多くの仕事を抱えていた令嬢です。
 部下達への引き継ぎに時間が掛かったそうです。
 何せ彼女が従事していたのはザックス・ヒル将軍の副官でしたからね。
 あの男が絡むと何かと面倒ばかりですから・・・。
 同時に妃教育を進められていたそうです。
 しかし、妃教育自体は半年で終えられたそうです。
 流石、名門ポートマン家の御令嬢ですよ。
 実に有能であると教育係や文官達の間でも話題であったと聞いています。」

 珍しく長々と話したテオルドは、執事が淹れ直した温かな紅茶で喉を潤した。

「それは素晴らしい。」
「確かにポートマン家は武人の家、女性といえども剣技に優れていると聞きましたよ。」

 テオルドの話に周囲が盛り上がるのが面白くなかったのか、細い髭の貴族は少々不満そうだ。

 テオルドは今度こそ気づかれても良いとばかりに溜息を吐くと、先程から肩で忙しなく首を動かす従魔のバンデを優しく撫でた。

 そんなテオルドは目を見張る事になる。
 彼の脇を真っ白な毛糸玉がスンスンと鼻を動かしながらポテポテと通り過ぎて行ったのだ。
  

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