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王都 〜青春からの因果〜
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この時、男は厄介な自分の性格を呪っていた。
細い髭の貴族、ポーレット公爵テオルドに一度も名を呼ばれていない彼はクォーレル伯爵といった。
世代で言えば、国王アルフレッドやテオルドに比べて2歳年下の比較的歴史の浅い新興の貴族であった。
軍人として優秀な祖先が領地を与えられて興した家であるが、その後は軍人が排出される事なかった。
うだつの上がらない地方貴族であり続けた先代に嫌気がさしていた青年期。
反発を繰り返しながらも、跡取りとして勉強を重ねた。
彼が幸運だったのは同世代に王太子時代のアルフレッドと第二王子であったテオルドがいた事だろう。
あの時代は誰しもが2人の王子との交友を持つ為に学院の入学時期を合わせたものだった。
当然ながら側近を狙う者達にとってライバルは多く、入学時から凌ぎを削った。
それは若きクォーレル伯爵とて同じであり、出世を目指して王子が出席する授業には必ず出た。
そんな夢見て学院に入学した若者達は直ぐに現実を知る事になる。
王太子アルフレッド、第二王子テオルドの側には既に2人の男がいた。
1人は名門ターナー侯爵家の嫡男グレン。
そして、もう1人は王子達の幼馴染でるノア・フィエルダー。
王子達の乳母を務めたフィエルダー伯爵家の次男だった。
グレン・ターナーは、頭脳明晰で優秀と謳われた2人の王子よりも成績も良く。
将来国王となるアルフレッドの最側近となるべく存在していた。
ノア・フィエルダーは剣技に優れ、それでいて一般教養にも優れていた。
将来はポーレット公爵家へ婿入りするテオルドに付いて行く事が決まっていて、既に侍従として働いていた。
後に国王となったアルフレッドは学生時分より人を惹きつける魅力を持ち、学院中を巻き込んで日々を祭りの様に賑やかしい時間を作り出した。
ポーレット公爵となったテオルドは、そんな兄を支えるべく冷静に見守りながら優秀な成績をおさめていた。
信頼関係を築く4人に、その他の人間だ立ち入る事など出来ただろうか?
共に成長してきた多くの者達は国王となったアルフレッドを敬愛し、ポーレット公爵を尊敬した。
だが、クォーレル伯爵は大人になっても 4人を目にすると劣等感を味わう事がある。
それが不況を買うと分かっていながら、時折反発心として苦言を呈してしまいたくなるのだ。
この日もクォーレル伯爵は言わなくてもいい事を言ってしまったと後悔に包まれていた。
本当であれば王子殿下の結婚に文句などあるはずがない。
貴族令嬢の中には軍人だったオーブリー・ポートマン公爵令嬢に不満がある者もいるようだが、クォーレル伯爵にしてみたら王子の側に剣を扱える者が1人でも増えたのは喜ばしいとさえ思ってた。
そんな風に、クォーレル伯爵が捻くれた自分を恨んでいた時だった。
足元にフワフワしたものがいるのに気がついた。
「何だっ!?」
驚くクォーレル伯爵は思わず避ける様に立ち上がった。
「クォーレル。
しばし待て。」
それまで、丁寧な会話をしていたテオルドから鋭い声が掛かり、クォーレル伯爵は反射的に居住まいを正した。
「はっ。」
クォーレル伯爵は自分の足元にいたのが真っ白な小さな子犬・・・いや子供の狼である事に気づいた。
何が起こっているのか分からずにいたクォーレル伯爵の元に1人の男が近づいてきた。
テオルドの従者であるノアである。
「クォーレル伯爵。
お話を伺いたく、お時間を頂けませんか?」
力強い瞳を向けてくるノアにクォーレル伯爵は訝しげに頷くのだった。
細い髭の貴族、ポーレット公爵テオルドに一度も名を呼ばれていない彼はクォーレル伯爵といった。
世代で言えば、国王アルフレッドやテオルドに比べて2歳年下の比較的歴史の浅い新興の貴族であった。
軍人として優秀な祖先が領地を与えられて興した家であるが、その後は軍人が排出される事なかった。
うだつの上がらない地方貴族であり続けた先代に嫌気がさしていた青年期。
反発を繰り返しながらも、跡取りとして勉強を重ねた。
彼が幸運だったのは同世代に王太子時代のアルフレッドと第二王子であったテオルドがいた事だろう。
あの時代は誰しもが2人の王子との交友を持つ為に学院の入学時期を合わせたものだった。
当然ながら側近を狙う者達にとってライバルは多く、入学時から凌ぎを削った。
それは若きクォーレル伯爵とて同じであり、出世を目指して王子が出席する授業には必ず出た。
そんな夢見て学院に入学した若者達は直ぐに現実を知る事になる。
王太子アルフレッド、第二王子テオルドの側には既に2人の男がいた。
1人は名門ターナー侯爵家の嫡男グレン。
そして、もう1人は王子達の幼馴染でるノア・フィエルダー。
王子達の乳母を務めたフィエルダー伯爵家の次男だった。
グレン・ターナーは、頭脳明晰で優秀と謳われた2人の王子よりも成績も良く。
将来国王となるアルフレッドの最側近となるべく存在していた。
ノア・フィエルダーは剣技に優れ、それでいて一般教養にも優れていた。
将来はポーレット公爵家へ婿入りするテオルドに付いて行く事が決まっていて、既に侍従として働いていた。
後に国王となったアルフレッドは学生時分より人を惹きつける魅力を持ち、学院中を巻き込んで日々を祭りの様に賑やかしい時間を作り出した。
ポーレット公爵となったテオルドは、そんな兄を支えるべく冷静に見守りながら優秀な成績をおさめていた。
信頼関係を築く4人に、その他の人間だ立ち入る事など出来ただろうか?
共に成長してきた多くの者達は国王となったアルフレッドを敬愛し、ポーレット公爵を尊敬した。
だが、クォーレル伯爵は大人になっても 4人を目にすると劣等感を味わう事がある。
それが不況を買うと分かっていながら、時折反発心として苦言を呈してしまいたくなるのだ。
この日もクォーレル伯爵は言わなくてもいい事を言ってしまったと後悔に包まれていた。
本当であれば王子殿下の結婚に文句などあるはずがない。
貴族令嬢の中には軍人だったオーブリー・ポートマン公爵令嬢に不満がある者もいるようだが、クォーレル伯爵にしてみたら王子の側に剣を扱える者が1人でも増えたのは喜ばしいとさえ思ってた。
そんな風に、クォーレル伯爵が捻くれた自分を恨んでいた時だった。
足元にフワフワしたものがいるのに気がついた。
「何だっ!?」
驚くクォーレル伯爵は思わず避ける様に立ち上がった。
「クォーレル。
しばし待て。」
それまで、丁寧な会話をしていたテオルドから鋭い声が掛かり、クォーレル伯爵は反射的に居住まいを正した。
「はっ。」
クォーレル伯爵は自分の足元にいたのが真っ白な小さな子犬・・・いや子供の狼である事に気づいた。
何が起こっているのか分からずにいたクォーレル伯爵の元に1人の男が近づいてきた。
テオルドの従者であるノアである。
「クォーレル伯爵。
お話を伺いたく、お時間を頂けませんか?」
力強い瞳を向けてくるノアにクォーレル伯爵は訝しげに頷くのだった。
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