溜息だって吐きたくなるわっ!〜100賢人仕込みの龍姫は万年反抗期〜

ぽん

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皇帝の弟殿下の大いなる溜息

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 パチッ

 湿気を含んだ小枝が焚き火の中で弾ける音だけが聞こえた。

 主人が眠りにつくと、3人の男達は持ち回りで見張りをして火の番を務めていた。

「セキエイ。交代だ。
 少し眠っておけ。」

 欠伸をしながら起き上がったスサにセキエイは短い返事を返した。

「あぁ。」

 セキエイは持っていた枯葉を焚き火に放り込むとスサと場所を変わった。
 洞窟の壁に背を預け眠りについたかと思われたセキエイが小さく囁いた。

「スサよ。
 此度の“陛下の我儘”をどう見る?」

 ーーー“陛下の我儘”

 船の上でクレイも口にした言葉である。
 王宮のみならず国中に誠しやかに囁かれる大いなる皮肉であるのだが、誰も声高に話すには憚られていた。

 それは決して、皇帝陛下が誰それ構わずに押し付ける我儘の事ではない。
 “陛下の我儘”・・・これは弟であるディミトリオ・ハクヤにだけに申し付けるを指した言葉だ。

 皇帝陛下であるハイゴール・ウィリ・ロンサンティエには多くの弟と妹が存在する。
 その殆どが母が違えど、崇高な龍の使者の血が混ざっている事は確かであり、今では弟達の多くが帝国を支える小国の王であったり領主に収まり、妹達は姫として他国に嫁ぐなり、貴族へ降嫁するなどして王宮を辞している。
 
 そんな中、皇帝陛下ハイゴール・ウィリが手放さない存在がいた。
 それが、3歳年下の弟であるディミトリオ・ハクヤである。

 ハイゴール・ウィリは正妃の子であり、ディミトリオ・ハクヤは当時の皇帝の寵愛を欲しいままにしていた侯爵家出身の側室の子であった。
 ハイゴール・ウィリは、年も近かった為に幼少の頃より比べられてきた、この弟が大嫌いであった。

 聡明で優しく、神童と言われたディミトリオ・ハクヤは美しい母を持ち、顔も美麗で目にしただけで周囲の女達の心を潤わせていた。
 
 それに比べ、家柄が良いと言うだけで選ばれた母を持つハイゴール・ウィリは不細工ではないが地味さが目立つ顔立ちだった。
 自慢と言えば父譲りの美しいブロンドの髪であり、漆黒の髪を持つディミトリオ・ハクヤを蔑む材料に使ってきた。
 
 剣術も勉強も人気も勝つ事の出来ない弟への劣等感は大人になっても続き、先代皇帝が亡くなるとディミトリオ・ハクヤを後宮に押し込めて表舞台から引き摺り下ろしたのだ。

 宦官にもさせられ自由を奪われた弟王子であったが、皇帝ハイゴール・ウィリにとっての誤算が生じる事となる。
 それは、後宮におけるディミトリオ・ハクヤの人気であった。

 見目が良いディミトリオ・ハクヤは女の園で一躍憧れの人となったのだ。
 宦官になったディミトリオ・ハクヤはもはや誰の物にもならない。
 ならば、皆で愛でようではないか・・・。

 皇帝陛下の思惑は女達の欲の前に潰えてしまった。
 
 自身が気に入った側室さえもディミトリオ・ハクヤを前にすると頬を染める様を見て皇帝陛下は激昂した。
 
 表舞台へ出さず、自由も与えず、後宮での影響力を落とす。
 そうして、皇帝は弟に無理難題を押し付ける事が増えていった。

 星の欠片を取って来い。
 妖精の涙を取って来い。
 北の海の怪物を討ち取ってこい。
 時には他の弟妹達へのメモ程度の手紙を届けろといったものまであった。

 そして、極め付けが“龍王島から姫巫女を所望する”である。

 付き従う護衛達が文句を言うのも無理からぬ事であった。

 
 
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