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シャルノアの楽しい時間
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トントントントン。
ボワッ。
ジューッ。バチバチッ。
お客さんのいない店内で、フィアーノさんの料理の音が響く。まかないが出来るまでの間、カウンター越しに見る姿。最近のシャルノアのお気に入りの時間である。
お昼時のまかないは、お客さんの様子を見ながら休憩を取るので裏のスタッフルームで食べている。けれど、仕事終わりの閉店後のご飯は、カウンターでフィアーノやヴァンと話しながら過ごせるのだ。
今日もダッシュで着替え、荷物を持ってカウンターに座る。ちょうどフライパンに茹で上がりのパスタを入れているところだった。しっかりした腕でフライパンを振るフィアーノは文句なしでかっこいい。
(私やナナがやると、フライパンの中身飛んでくもんな…)
料理人ならではの技術。サッと火から下ろし、皿に盛り付けしている。こんもりと山が出来て、キレイな彩りの具材が並ぶ。
(今日も美味しそー!)
ニコニコしながらカウンターで待っていると、サラダと一緒にパスタのお皿が届く。
「はい、お待たせ。どーぞ、召し上がれ。」
カウンターから出来立てホヤホヤの料理が届くのは、この席の特権だ。お客さんとしてきたら、シャルノアはここに座りたい。
「ありがとうございます!いただきます。」
フィアーノは、シャルノアの食べる様子を見ながら、仕込みの続きを進める。ヴァンはフロアの締め作業、レジ金確認をしている所なのでもうすぐ終わるであろう。
(これが終わったら俺も片付けて帰るかな。)
キリの良いところで切り上げるのは、毎日の仕事を楽しく円滑に進めるためのフィアーノなりのけじめである。
シャルノアが食べ終わり、食器を洗いにキッチンに入ってくる。
「ごちそうさまでした。フィアーノさん、今日も美味しかったです。」
「おう。お前は嫌いなものがないから助かるよ。」
長い付き合いのヴァンだが、彼は好き嫌いが多く、冒険をしない。たいてい作る前にリクエストがくるのでフィアーノが自由に作るまかないはシャルノアの分だけである。
「そろそろ、新メニューの試作始まりますか?」
ブランシェでは季節の変わり目に合わせて、おすすめメニューを変更するので、時期によっては、まかないが新メニューの試作品の試食になったりする。定番メニューも好きではあるが、何が出てくるか分からないワクワク感がシャルノアは楽しみなのである。
「そうだなあ。市場もそろそろ種類増えてきたしなあ。」
毎日の市場通いは、季節の変わり目をひと足早く知ることができる。モリー婆さんのおつかいをしているシャルノアもいち早く感じ取っていたようだ。
「試食楽しみにしてますねっ。」
「まだ何作るかも決めてないんだが…ご期待に応えられるよう頑張ります。」
気の早いシャルノアにせっつかれながらも、フィアーノは笑いながら頭の中でメニューを考え始めた。楽しみにされると、作る側もやる気が出るものである。季節の食材を組み合わせてメニューを考える時間は、毎年重ならないようにするのは大変なのだが、彼には楽しめる時間である。
(おっ、始まった。)
フィアーノはメニューや考え事をする時、バインダーを抱えて持っているペンをクルクルと器用に回し始める。時々止めて字を書き殴っては止まり、しばらくするとまたペンが周り始める。
集中しているこの時間は、周りの音も気にせずただひたすらバインダーに向かっているのだ。始めの頃、この時間帯に挨拶しても返ってこず、無視された、と凹んだ事もある。フィアーノは1度集中し始めるとその作業が終わるまであまり周りを気にしないので、声をかけられても気づいていない。返事もせず、帰ったことにも気づかずすまなかったと翌日言われて驚いたものだ。
ジーっと見つめていると、フィアーノの表情がクルクルと変わって面白い。しばらく眉間に皺がよって悩んでいるんだな、と思っていたら、ひらめいた、の表情でペンが進み始める。途中で止まり、ペンが行ったり来たり、考察中。
ニコニコしてフィアーノを観察しているシャルノアを、さらに観察している人がここに1人。
(楽しそうですねー。恋が始まりましたか…)
本人すら曖昧な恋心を、早々と感じ取る店舗マネージャー、ヴァンであった。
ボワッ。
ジューッ。バチバチッ。
お客さんのいない店内で、フィアーノさんの料理の音が響く。まかないが出来るまでの間、カウンター越しに見る姿。最近のシャルノアのお気に入りの時間である。
お昼時のまかないは、お客さんの様子を見ながら休憩を取るので裏のスタッフルームで食べている。けれど、仕事終わりの閉店後のご飯は、カウンターでフィアーノやヴァンと話しながら過ごせるのだ。
今日もダッシュで着替え、荷物を持ってカウンターに座る。ちょうどフライパンに茹で上がりのパスタを入れているところだった。しっかりした腕でフライパンを振るフィアーノは文句なしでかっこいい。
(私やナナがやると、フライパンの中身飛んでくもんな…)
料理人ならではの技術。サッと火から下ろし、皿に盛り付けしている。こんもりと山が出来て、キレイな彩りの具材が並ぶ。
(今日も美味しそー!)
ニコニコしながらカウンターで待っていると、サラダと一緒にパスタのお皿が届く。
「はい、お待たせ。どーぞ、召し上がれ。」
カウンターから出来立てホヤホヤの料理が届くのは、この席の特権だ。お客さんとしてきたら、シャルノアはここに座りたい。
「ありがとうございます!いただきます。」
フィアーノは、シャルノアの食べる様子を見ながら、仕込みの続きを進める。ヴァンはフロアの締め作業、レジ金確認をしている所なのでもうすぐ終わるであろう。
(これが終わったら俺も片付けて帰るかな。)
キリの良いところで切り上げるのは、毎日の仕事を楽しく円滑に進めるためのフィアーノなりのけじめである。
シャルノアが食べ終わり、食器を洗いにキッチンに入ってくる。
「ごちそうさまでした。フィアーノさん、今日も美味しかったです。」
「おう。お前は嫌いなものがないから助かるよ。」
長い付き合いのヴァンだが、彼は好き嫌いが多く、冒険をしない。たいてい作る前にリクエストがくるのでフィアーノが自由に作るまかないはシャルノアの分だけである。
「そろそろ、新メニューの試作始まりますか?」
ブランシェでは季節の変わり目に合わせて、おすすめメニューを変更するので、時期によっては、まかないが新メニューの試作品の試食になったりする。定番メニューも好きではあるが、何が出てくるか分からないワクワク感がシャルノアは楽しみなのである。
「そうだなあ。市場もそろそろ種類増えてきたしなあ。」
毎日の市場通いは、季節の変わり目をひと足早く知ることができる。モリー婆さんのおつかいをしているシャルノアもいち早く感じ取っていたようだ。
「試食楽しみにしてますねっ。」
「まだ何作るかも決めてないんだが…ご期待に応えられるよう頑張ります。」
気の早いシャルノアにせっつかれながらも、フィアーノは笑いながら頭の中でメニューを考え始めた。楽しみにされると、作る側もやる気が出るものである。季節の食材を組み合わせてメニューを考える時間は、毎年重ならないようにするのは大変なのだが、彼には楽しめる時間である。
(おっ、始まった。)
フィアーノはメニューや考え事をする時、バインダーを抱えて持っているペンをクルクルと器用に回し始める。時々止めて字を書き殴っては止まり、しばらくするとまたペンが周り始める。
集中しているこの時間は、周りの音も気にせずただひたすらバインダーに向かっているのだ。始めの頃、この時間帯に挨拶しても返ってこず、無視された、と凹んだ事もある。フィアーノは1度集中し始めるとその作業が終わるまであまり周りを気にしないので、声をかけられても気づいていない。返事もせず、帰ったことにも気づかずすまなかったと翌日言われて驚いたものだ。
ジーっと見つめていると、フィアーノの表情がクルクルと変わって面白い。しばらく眉間に皺がよって悩んでいるんだな、と思っていたら、ひらめいた、の表情でペンが進み始める。途中で止まり、ペンが行ったり来たり、考察中。
ニコニコしてフィアーノを観察しているシャルノアを、さらに観察している人がここに1人。
(楽しそうですねー。恋が始まりましたか…)
本人すら曖昧な恋心を、早々と感じ取る店舗マネージャー、ヴァンであった。
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