1 / 88
プロローグ
第0話 執着と言う名の呪い
しおりを挟む「また、呪いかのぅ……」
自身の身体にできた赤黒く乾いた血のようなアザを見て、彼女は溜め息混じりに呟いた。その瞳は何の感情も映していない。
「毎度毎度、ようやるわ。早急に陰陽師殿を招かねば」
(誰でもよいから、帝の許嫁を代わってくれぬかのう。こんなに呪われるなど知っておったなら、どんな手を使うてでも縁談なぞ……。
いや、無理じゃな。帝の命に背くなど出来るわけがない)
小さく溜め息を吐き、人を呼ぶために声を出そうと息を吸い込んだ瞬間、大きくむせかえった。
手で口を押さえれば、鮮やかな赤が手から溢れ落ちる。
(これは……ちとまずいかの)
自身が呪われているというのにどこか他人事のように思いながら、彼女は小さく笑う。
(これで今度こそ楽になれるやもしれぬな)
幾度にもわたる暗殺未遂と呪いで彼女は疲れきっていた。帝の許嫁になってから5年。呪われていなかった日の方が少ない。
お陰で常に体調が悪く、もう死んでもいいとさえ思えていた。
それでも彼女が生きようと思えたのは母がいたからだ。その母も半年ほど前に病で亡くなった。
(母君がいぬ今、生きる意味も見つからぬ。ここで息絶えるのも悪くない)
薄れていく意識のなかで、侍女の慌てる声が聞こえる。そして、目が覚めれば彼女はいつも通り布団で寝ていた。
違うことは、この場に居るなどあり得ない帝がいて、彼女の手を握っていることだ。
「……な……ぜ…………」
声は掠れ、身体に力は入らない。それでも帝がいるのだから、すぐにでも地に頭を下げなければならない。
帝は天上人であり、帝の御前で寝ているなんてあってはならないのだ。
どうにか起き上がろうとする彼女を帝は動き一つで制止した。
「もう、助からぬ」
静かな声で告げた帝の手は小さく震えていたが、瞳はしっかりと彼女を見詰めていた。
「……そ…………ですか……」
小さな声で返した彼女は微笑んだ。それは、解放への喜びなのか、安心させるためのものなのかは、彼女にも帝にも分からない。
「ご迷惑……を…………」
そう彼女が告げれば、帝はそれを遮るかのように彼女の額に2本の指を置き、彼の不思議な力を吹き込む。
「守れず、すまなかった。許してくれとは言わぬ。恨んでくれ」
小さく彼女は首を振る。そして、かさつく喉を奮い起たせて言葉を紡ぐ。
「……貴方様はいつもわれを守ってくださいました」
許嫁になってからというもの命の危機が多かったが、陰陽師を派遣してくれたりと彼が常に気遣ってくれていたことを彼女は知っていた。
(今回の呪いは今までのものとは違う。数多の人を犠牲にしたのじゃろう。それは貴方様が気に病むことではない。償いの必要など、どこにもないのじゃ)
「いや、不幸にした。守れないなら手を伸ばすべきではなかった」
「いいえ、われは不幸などではありませんでした。貴方様の許嫁になれて幸せでした」
本当は許嫁になってからはつらい日の方が多かった。それでも、彼の心が少しでも軽くなることを祈って彼女は嘘を紡ぐ。
それがどんな結末を呼び起こすとも知らずに。彼の後悔を少しでも軽くしようと。
(われのことなど忘れて、幸せを掴んでくだされ。それが、我が一族……父上の望み。
……でも、われも自身のために生きてみたかった。来世こそは愛するものと共に生きられるじゃろうか……)
こうして、小夜は死んだ。たくさんの命と引き換えに生み出された呪いによって。
呪いに蝕まれた彼女の魂は輪廻から外れ、二度と生まれ変われない筈だった。
だが、彼女の魂は既に輪廻へと戻された。彼女の許嫁の不思議な力によって。
その許嫁である帝は暫く無言でこの世を去った小夜を見詰めていた。そして、仄暗さを瞳に宿して彼女の左手を手に取る。
「小夜……。小夜の魂を輪廻から外されたのを戻すだけのつもりだったが、すまない。
……手離せぬ」
そう呟き、彼は小夜の左の薬指の爪先に唇を落とした。
そして、己の持つ全ての力を注ぎ込み、小夜の爪に菊の紋様が浮かび上がるのを眺めた後、彼は満足げに笑った。
全身全霊で込めたものは、額に触れた魂を輪廻に戻すという小夜のための力ではなく、小夜を自分に縛り付けておくための力であった。
この後、帝は忽然と姿を消し、その姿を見たものは誰もいなかったという。
19
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる