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第4章 成敗は般若

第47話 アザレア・ミルミッド

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 放課後、イザベルが召集をかけたサロンにはイザベル以外のメンバーである、ルイス、リリアンヌ、ローゼン、ヒューラック、メイス、カミン、シュナイが集まっていた。


「ベルリンには、別の予定があったから先にそっちに行ってもらったわ」

 一人だけ体操服姿のままリリアンヌは言い、そんなリリアンヌに対してルイスは鋭い視線を向ける。

「違うよな。無理矢理そっちに行かせただろ。その目的は何だ?」

 (内容によってはイザベルの友人てして相応しくないから排除だな)

 イザベルの気持ちを最優先にするルイスだが、イザベルの意思を邪魔する者を傍にいさせるつもりはない。もちろん、理由があれば別だが。


「私が嫌がらせ……いじめを受けたのは噂になってたから知っていますよね? ベルリンったら、成敗するなんて言ってくれてるんです。
 ……だけど、多分ベルリンが見せてくれたリストに入ってる。私は、ベルリンに自分のことを優先して欲しいんです。それに、汚いことは優しいベルリンには似合わない」

 リストと言う言葉に取り巻きーズは首を傾げたが、ルイスは理解したように頷いた。

 リストとは、イザベルが前世の記憶が戻る前にいじめた者達が書かれたものだ。兄のユナイが送ってくれたのだが、そこにはリリアンヌの制服にペンキをかけた実行役の名が書かれている。


「今回の制服の件は反リリアンヌ派の仕業ですよね。確か、実行役は……」
「メイルード男爵家のご令嬢だねぇ。油性のペンキなんか使ったから手にも付いちゃったんだろうねー」
「手袋なんかしたら、逆に目立つよな。わざと手袋に水をこぼして、心配するふりして脱がせたら、ちゃんとペンキ付いてたぞ」
「えっ! そこまでしたのー? メイスってばやるー!」
「私は遠くから見てましたが、ルイスの劣化版みたいなことやってましたよ」
「本当にやるなら、見に行けば良かったー。3年はそれでメイスをからかえたのにぃ」
「お前らがやれって言ったんじゃねーか」

 今日も今日とて取り巻きーズは騒々しいが、リリアンヌのために彼等なりに動いていた。

「メイス、お手柄よ! ありがとう!」
「リリアンヌのためなら、どうってことねーよ」
「そうですね。それくらい、リリーのためなら当然ですよ」
「それに、メイルード嬢を追い詰めたところでとかげの尻尾しっぽ切りされるだけだろうしねー」

 カミンの声に皆が頷く。男爵令嬢の彼女の立場は弱い。きっと簡単に切り捨てられ、全ての罪を着せられるだろう。彼女に指示を出した反リリアンヌ派の令嬢によって。


 反リリアンヌ派とは、学園内の3大派閥のうちの一つ。現在の派閥はというと──。

 もともとイザベルが性悪だった、社交界の頃からあるイザベル派。
 オカメ装備のイザベルとリリアンヌの仲が良いことでリリアンヌ派が合併した、オカメイザベル派。
 そして、まだ規模はイザベル派、オカメイザベル派には及ばないものの、着々と増えている新派閥の反リリアンヌ派だ。

 この反リリアンヌ派はリリアンヌのみの名前をあげているが、イザベルへの反対派閥でもあったりする。


「今回の主犯、反リリアンヌ派のアザレア・ミルミッド。偶然にも俺が潰す予定のミルミッド侯爵家の娘だ。
 喜べ、フォーカス嬢。加勢してやる。
 爵位を剥奪はくだつした上で、国外追放にしてやろう……と言いたいところだがイザベル次第だな」

「ベルリン次第って、どういうことですか? ベルリンには関わらせたくないって言いましたよね」
「イザベルがやる気を出してるからには、俺はサポートに徹する。邪魔するなよ」
「そんなこと言ったって、相手はアザレア・ミルミッドですよね? ベルリンが嫌な思いをするに決まってるじゃないですか!」


 リリアンヌが警戒するアザレア・ミルミッドはというと、リリアンヌへの嫌がらせを主導してきた人物で、真っ赤な髪が特徴的な侯爵令嬢である。
 イザベルとアザレアは、ルイスを巡り争ったこともある。当然、ルイスがイザベルを溺愛していたことでアザレアは惨敗した。
 だが、父親の侯爵は娘がルイスの婚約者になることを未だに狙っているために、ルイスにとって邪魔な存在だ。

 侯爵とアザレアのやり口はイザベルとは違い、一切自身の手を汚さず、立場の弱い者ににやらせた上でいざとなったら切り捨てるため、明確な証拠を残さない。断罪しようと思えばできたが、イザベルへの実害もないため、面倒だからとルイスは放っておいた。

 だが、最近になってイザベルとの婚約破棄をさせる計画を立てている様子があり、ルイスは本気で潰す算段を立て始めていたのだ。


「嫌な思いをするなんて、決めつけるな。イザベルはしたたかだぞ?
 それに、いざとなれば俺が断罪する。面倒で放っておいたが、これから害になる予定の者はイザベルに遊ばせた後で、必ず潰す」

 悪い顔をして笑うルイスに、リリアンヌはミルミッド侯爵家の終わりが近いことを悟った。
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