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最終章 溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい
第73話 ヒールの踵にご用心
しおりを挟む(われに、われに触らないで。──ルイス様っっ!!)
イザベルは唇を噛みしめて耐えているうちにドサリと乱雑に下ろされた。
「リク。女性には、きちんと紳士的に対応すべきだ」
「そうだよ。女の子に何するんだよ。アザレアちゃん、イザベルちゃん、大丈夫?」
二人を面倒くさそうにリクはあしらうとリーダーへと頭を下げる。そのお辞儀が綺麗な30度であることを、未だに触られたことに対する悪寒が治まらないながらもイザベルは見逃さなかった。
(どこかで訓練を受けたか、育ちが良いのか……。口調や態度を見るに前者のようじゃが)
「あー、イザベル様? 悪いがそのヘンテコな面は外させてもらう。偽物って可能性もあるからな。クウ、外してくれ」
「ヤですよ。僕、女の子には嫌われたくないですもん」
「カイ、頼む」
「女性の顔に触れるのは、俺には荷が重すぎます」
「ナナセさん、俺がやります」
「リク……。いや、俺がやる。いつも悪いな」
ナナセは溜め息を吐きながらイザベルに近付くと、暴れるイザベルの抵抗などまるでないかのようにオカメを外した。
だが、その下から出てきたものは、例のあれである。
「………………お嬢ちゃん、頭は大丈夫か?」
沈黙の後、ナナセは声を震わせた。いや、声どころではない体も震えている。その理由はオカメinオカメ。
以前、リリアンヌに全てをバカらしく思えるようにしたあれである。
暫く笑った後、ナナセは真剣な顔でイザベルを見た。
「なぁ、お嬢ちゃん。俺の女になれ」
意味が分からないとばかりにイザベルが首を傾げれば、ナナセは楽し気に喉を鳴らす。
「これからミルミッド侯爵に報復したら、その足で国外に逃げる。
お前は面白い。絶対に俺が守ってやるから、一緒に来い」
ナナセの言葉に、半仮面の下の形の良い唇は半開きとなり、面の下の目は見開かれた。
(国外……逃亡……?)
まさかの誘いに、ルイスから逃げるには国外逃亡しかないと言っていたリリアンヌの言葉が頭を過る。
イザベルの瞳は揺らいだ。突如、国外逃亡が現実味を帯びた。またとないチャンス。一人で計画するよりも成功率は上がるだろう。
「落ち着いた頃に実家に手紙を出してもいい。必要であれば人を呼ぶのも構わん」
まるでイザベルの心を読んだかのような誘惑。だが、瞳を閉じれば、ルイスの甘やかな紫の瞳がイザベルの脳内で鮮明に映し出される。
すると、胸の中が温かくなり、冷えた指先まで血の気が行き渡ったように感じた。
イザベルは少しぽってりとした唇で扇情的に笑う。
「お断りしますわ」
静かにハッキリと言えば、ナナセは「だよなー」とあっさりと引き下がる。それと同時に額から鼻までを隠していたオカメの半仮面が取り除かれた。
開かれた視界の明るさにイザベルは目を細めたが、それでもイザベルの美しさは変わらない。
「やはり、マッカート公爵家のお嬢ちゃんか。一緒に来ないなら、協力してもらうぞ」
にんまりと笑うナナセはイザベルの腕と足を縛っていた縄を小型のナイフで切った。だが──。
「協力を仰ぎたいのであれば、誘拐などするべきではありませんわよ!」
イザベルがダンッと強く地面を踏みつけたことで、太めのヒールの踵からは小さなナイフのような刃が飛び出した。そして、そのまま右足を振り上げる。
ナナセの左腕に小さな一筋の赤い線が走った。
「「「ナナセさんっっ!!」」」
叫んだリク、クウ、カイをナナセは手で制す。
「とんだじゃじゃ馬だな。ますます欲しくな……あ゛?」
地面へと片足を着いたナナセは不敵な笑みを浮かべながら、イザベルを見る。
「なに、しやがった?」
「毒を少々? あなた達、この男の解毒をしたいのだったら、大人しくなさることね。おーほほほほほ……」
高笑いを響かせながら、イザベルはリクに縄を取りに行かせた後、一人ずつ縛り上げていく。
(われに試して効いたのが、せいぜい半刻。体格差もある。動けない時間はもっと少ないじゃろう。じゃが、これで形勢逆転じゃ)
※半刻:およそ一時間のこと
鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌にイザベルは全員を縛り上げた後、アザレアへと視線を向ける。
(縄を解くと面倒そうじゃし、あのままで良かろう。
さて、これからどうするかの。馬車に皆を積むのは無理じゃろうし。何より、われは御者のやり方は分からぬしな)
イザベルは落ちていたオカメを大事そうに拾い上げ、ハンカチで汚れを落として装着すると、ナナセがかけていた椅子へと腰をおろす。
「暇ですし、ミルミッド侯爵家に復讐をしたい理由や誘拐した理由でも聞くことにしましょうか」
転がされた彼等とアザレアに向かって、オカメが言った。
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