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最終章 溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい
最終話 溺愛?執着?転生悪役令嬢は逃げ出したい
しおりを挟む「木蔦様、小夜だった頃の私の好物は何だったか覚えてらっしゃいますか?」
「……アケビだろ?」
唐突に聞かれ、ルイスは目を瞬かせながらも答えた。小夜がアケビの木によじ登っていたことを思い出しながら。
だが、それは木蔦が持つ記憶ではない。
(木蔦様がアケビが好きなことを知る訳がない。表向きには椿餅が好物としておったのじゃから。ということは、やはり──)
懐かしい狐の面の少年。素顔を見ることは一度もなかった。
(まさか痩せて小さかったコノハが、一年であれほど大きくなるとは思わぬ。何より、骨が浮き出た童が後の帝とは誰も思うまい。いや、父上は知っておったのであろうが……)
遠い記憶に想いを馳せ、懐かしい気持ちになるが、今はそれどころではないとイザベルは気持ちを切り替える。
(つまり、ルイス様は木蔦様で、木蔦様はコノハであったと……。頭では理解できるが、気持ちが追い付かぬ)
うんうんと唸るイザベルにルイスは小さく笑う。少しだけだが、気持ちにゆとりが出てきたのだ。
ルイスはイザベルの手を取り、包むように握る。
「ずっとずっと、好きだった。俺と共に生きてくれないか?」
イザベルの翡翠の瞳を紫の瞳が見詰めた。
翡翠の瞳は大きく見開かれ、ドクンッと強く心臓が脈を打つ。真っ赤に顔を上気させ、イザベルは固まった。
「……イザベル?」
返事がないため、ルイスは名前を呼んだが、全く反応はない。包むように握った手を揺すっても、顔の前で手をヒラヒラと振っても駄目である。
(これは、今までにない反応だな。キャパオーバーか? ……はぁ、今日も可愛い。絶対に手離さない、手離せない。何と思われようとも……)
「イザベルは、俺が嫌いか?」
きっと今のイザベルならば答えないだろう、とルイスは話しかける。普段であれば、答えが怖くて絶対に聞かないことを。
だが、すぐに反応はないながらも、しっかりとイザベルの耳にはルイスの声が届いていた。
(ん? イザベルは、俺が嫌いか? 嫌うとは……? われがルイス様を嫌いだと思われておるのか?)
「私がルイス様を嫌うわけがありませんわ」
まだぼんやりする思考のなかでイザベルは答える。
「じゃあ、好きか?」
「それは、もちろんで……」
しまった、とイザベルは口を押さえたが、もう遅い。ルイスの耳にはしっかりと届いている。
「そうか。イザベルは俺が好きか……。両思いなのか……」
噛み締めるように言うルイスに、イザベルは声も出ないほどの恥ずかしさで逃げ出したくなる。
(何故じゃ。何故こうなったのじゃ。われは、婚約解消を……。それなのに、うぁぁぁぁぁ)
「イザベル、絶対に二人で幸せになろう」
「いや、あの。婚約解消を……」
「両思いなのだから、その必要はないだろう? 大丈夫だ。罪は既に俺が償っている。きちんと相手と話し合い、賠償も済ませている」
「えっ!? ルイス様が話し合われたのですか? ですが、それでも償わなければ──」
「イザベルが気になるのであれば、これから良い国を共に築いて償えば良い。そのことを相手も望んでいる」
「そうは言いましても、私に后妃は──」
「サポートする。そうと決まれば、早速、父上のところに行って婚姻の日取りを決めよう」
「婚姻!? そうと決まればって、何も決まっていませんわ!!」
イザベルをお姫様抱っこし、ルイスは早足で歩き出す。
「えっ! ちょっと、待ってくださいまし!!」
廊下をお姫様抱っこで歩かれることで、皆からの視線が注がれる。お姫様抱っこもだが、皆にその姿を見られることも恥ずかしくて、イザベルはオカメをつけた。
それが、絶世の美女であるイザベルの美貌が隠せることで独占しやすくなり、ルイスにとっては好都合でしかないことをイザベルは知らない。
「イザベル、一生離さないからな」
満面の笑みでルイスは言う。これは、溺愛だろうか、執着だろうか。はたまたその両方か。
「ゆっ、許してくださいまし……」
イザベルは消えそうなほど小さく抗議の声をあげ、体をよじって逃げようとするが、ルイスは笑みを深めて腕に力を込める。その力加減は絶妙でイザベルに痛みは全くない。
「駄目だ。逃げるなんて許さない。これからはずっと一緒だ」
(にっ、逃げたい!!)
きっと、イザベルはこれからも逃げ出したいと思うことはあるだろう。むしろ、その方が多いかもしれない。だが、それでもイザベルは思うのだ。
友がいて愛する人がいる人生はなんて素晴らしいものか、と。
ルイスに抱かれたまま昇降口を出れば、強い風が吹き抜けた。
「「藤の香り……」」
どこからともなく、再び強くなった懐かしい香りに二人の声が重なった。
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木蔦《きづた》の花言葉
永遠の愛、破綻のない結婚、不滅、不死、死んでも離れない
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