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ドM……じゃない?

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「エリザベート? そんなに急いでどうしたんだ?」

 ぶつかった拍子に転びそうになったところを支えてくれたのは、シュナイパーだった。
 これは、ナイスタイミングなのだろうか。いや、頼るのは良くない。お礼を言って、一先ず逃げ──。

「うふふ。つっかまーえたー」

 歌でも歌い出しそうな声で言いながら、髪を引っ張られる。
 こっちの様子はちょうど角だから見えていないのかもしれない。
  
「手間をかけさせられた分、ズタボロにしてあげるか……ら…………」
「誰が何をズタボロにするんだ?」

 聞いたこともないような低い声。それと共に引かれていた髪の痛みは消えた。

「え? シュナイパー様?」
何を・・ではなく、誰を・・と聞いた方がいいかな?」

 これは、御愁傷様としか言いようがない。この状況での言い逃れは無理というものだろう。例えヒロインでもゲームオーバーだ。

「ち、違うんです。私、エリザベート様にみんなの前でこうやれって命令されて……。本当はやりたくなんてなかったんですぅ」

 嘘だろ! いくらなんでも、それは無理がある!!

 驚きのあまり彼女の方を向こうとしたが、いつの間にかシュナイパーの胸に顔があり、抱き込まれた状態になっていた私からは声の方がまったく見えない。

「言い訳は牢で聞こう」

 今日は指を鳴らすことなく、わらわらと涌き出た護衛に彼女は連れて行かれたみたい。よく見えなかったけど、シュナイパーに助けを求めて、私を呪うような言葉を叫んでた。


 二人きりになり静かになると、シュナイパーは私の髪に触れた。

「髪を切られてしまったんだね。すまない」
「なぜ、シュナイパー様が謝るのです? 悪いのはリリス様ですよ」

 そうなんだよね。だから、そんな情けない顔をする必要なんてない。
 ……これは、あれかな? 罵れば元気になるやつなのかな?

「私は髪を少し失ったからといって、美しさを損なうようなことはございませんわ。まさか、シュナイパー様は私が惨めに見えているのかしら? これだから、あなたは駄目なのですわ」

 どうだ! これで元気が……って更に落ち込んでる。なんでよぉ! こういうのが好きなんでしょ? ドMなんでしょ!? 
 まさか、罵りが足りなかったの?

「私は、こんな時にまでエリザベートに無理をさせるのか……」
「……はい?」

 無理? 何の話をしているの?

「エリザベートは私を悪く言うときと普段で口調が違うだろ。私に発破をかけるためにやってくれていたんだよな? 幼い頃から私より影で努力して、私がやる気を出すようにと悪役を買って出てくれていたじゃないか」
「そんなことな──」
「本当は優しいエリザベートが、こんなにも私のことを思ってくれているんだと嬉しかったんだ」
「だから、勘違いで──」
「でも、もうそんな無理はさせない。今度こそ守るよ」

 まっっったく、話を聞いてくれない! しかも、既に何を言っても遅いんじゃないかと思うほど勘違いをしている。
 これって、手遅れなんじゃ……。

 いやいやいや、ここからあのヘンテコヒロインに頑張って……もらいたくはないな。あんなのが王妃になったら国が滅ぶ。
 もしかしなくても私の今の状態って、自分のために国が滅ぶのをみているか、諦めて自分がシュナイパーと結婚するかの二択ってこと?

 気がつきたくなかった事実に血の気が引いていく。

 そんな私を見て、シュナイパーは怖かったのだろうと勘違いをしてくれたおかげで屋敷まで丁重に送ってくれた。
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