【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

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10月15日(1)

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どうしてこんな事になっちゃったんだろう!?

スマホを見ると悠木涼という名前と“これからよろしくね“という文字その下にイケメンな猫が“ヨロシク“とポーズをとっているスタンプが送られてきていた。私からの返信は“よろしくお願いします“という土下座した犬のスタンプを送るだけだった。

「はぁぁぁ………」

自室のベッドの上私は頭を抱えながら盛大にため息をついた。

『頑張るだけ無駄』だという彼女の発言で否定して頑張ってみたらどうかと言ったのは私だけど…
まさか頑張る方向が“恋“だなんて誰がわかるだろうか…

私たちはまだ知り合って間もないのに彼女だって私の事が好きってわけじゃないのにお互いを恋に落とすなんて…しかも私も彼女も女の子同士…今の時代女の子同士だって普通だと思うけど、まさか私が当事者になるなんて思わなかった。

今まで女の子を好きになったことはないし、これからもないと思っている。それは今も変わらない。
じゃあ、彼女は頑張っても報われないのではないのか?
でも、彼女の頑張りが報われてほしいとも思うのも本心だけど…

「私を巻き込まないで欲しかったなぁ!!」

頭まで布団を被り今日もまた眠れない夜になりそうだった。



「全然眠れなかった・・・」
流石にまだ誰もいないか…普段よりも一時間以上早く着いっちゃったし、朝練している部活の生徒くらいしか登校していない時間帯だよね。
教室で少し仮眠をしようと机に突っ伏した。冷たい机が気持ち良くウトウトしているとガラガラと教室の扉が開く音がしたけど、クラスメイトか誰かだろうと顔を上げることはしなかった。

靴音が近づいてきて私の机の近くで止まった…?

「凪沙?」
「……え!?!?」

その声を聞いてガバっと起き上がる。

「朝練中に見かけたら追いかけてきちゃった。今日は早いんだね?何か用事でもあったの?」

そういう涼ちゃんは上下ジャージ姿だけど朝から煌びやかな笑顔を振り撒いている。昨日の今日でどういう心境で私のところに来たんだろう…本気で私の事を落としに来たのかな?

「全然眠れなくて、早めに来てちょっと仮眠しようかなって思って……」
「え?大丈夫?ごめんね仮眠の邪魔しちゃって」
「元々涼ちゃんのせいだよ!?昨日の事色々考えちゃって全然眠れなかったんだから!」

怒ってるわけじゃないけど、ちょっと責めた言い方になってしまったかもしれない…ほっぺを膨らませて抗議の意を示してみた。

「あはは…それもごめんね。でも、私は本気だからね。本気で凪沙のこと落とそうと思ってるから」

猫目な瞳をまっすぐこちらに向けて真剣な表情をして私を見つめてくる。

「私の事落とそうとしてるのに私の事別に好きじゃないんでしょ?とんだ悪女ですね涼ちゃんは」
「……そうだね。でも、凪沙が私の事を落としてくれたら両思いになるんだからいいじゃん」

私は涼ちゃんに落とされてませんけどね!とほっぺを再度膨らませて抗議した。
ふふーんと、涼ちゃんはちょっと口の端を上げて悪い顔をしているけどそういう表情も似合ってる……

「それで、涼ちゃんは朝練サボって追いかけてきちゃったの?」
「あ!そうそう!朝練ってバスケの方じゃなくってバレーの方なんだよね。B組は時間がある人は球技大会の練習で朝から集まろうって事になっててさ。今日は無理でも明日からとか凪沙もどう?って思ったんだけど」
「私も?」

B組の練習に敵チームの私が参加するってどうなんだろう?

「もしかして、これも私を落とそうという行動の一つだったりするの?」

ふふーんっと口の端を吊り上げて得意げに
「凪沙のことを落とすなら、できるだけ一緒にいた方がいいでしょ?私は凪沙を落とす事を頑張るって決めたんだから」

隠すそぶりもなく堂々と宣言する涼ちゃんにちょっと笑っちゃうけどホントにこんな感じで私は落とされちゃうのか甚だ疑問だわ。

「わかった。私も涼ちゃんの事を落とさなきゃいけないもんね。球技大会も頑張りたいし、私も練習したかったからいいよ」
「ホントに!?」

パッと笑顔が弾けて嬉しそうにしている涼ちゃんは尻尾があればブンブン振り回してる犬みたいだ。真面目な顔をしていれば猫目な瞳がキリリとしていてイケメンで、笑顔で笑っていれば愛嬌がある。ちさきちゃんの言っていた通りだった。

「でも、私1人だけA組が混ざるのもおかしいから他の子も誘ってみるね」
「それはもちろんだよ。人数いた方が軽く練習試合もできそうだし」

朝練に戻るねという涼ちゃんを手を振り見送って、昨日のことで頭を抱えてた疑問を今は友人としてこの関係を楽しもうかなと少し前向きに捉えることができた気がした。



眠気もすっかり覚めてしまって朝練の事を話そうと2人を待っていると、教室の扉から眠たそうなちさきちゃんと少し心配そうにちさきちゃんをみている亜紀ちゃんが入って来るのが見えた。

「ちさきちゃん亜紀ちゃんおはよぉ」
「おはよう凪沙~」「おはよう凪沙さん」

2人に挨拶をするとちさきちゃんはこっちに向かってきて、亜紀ちゃんは挨拶をしてから自分の席に向かって行った。

「おぉ!?どうしたのちさきちゃん」

こっちに向かってきていたちさきちゃんがそのまま私の背後に回ると後ろから抱きついてきた。割とちさきちゃんはボディータッチが多いけど、亜紀ちゃんもいるのにこんなことして大丈夫なのか私が心配になってしまうんだけど…

「ちょっと寝不足で授業中寝ちゃいそうだから寝ちゃったら起こして……」
「寝不足なの?じゃぁ、寝ちゃわないようにたまにちょっかいかけるね!」

ちさきちゃんにクスッと意地悪っぽい笑みを浮かべて笑いかけてみたら、後頭部をちさきちゃんの頭がグリグリしてきてくすぐったい。なんて思っていたら次はスンスンと風が当たってくる。

「ちょ!ちょっと匂い嗅いでるの!?」

ちさきちゃんが私の後頭部やら首筋とか匂いを嗅ぎ出して流石に恥ずかしいって!

「めっちゃ良い匂いするんだけど…シャンプー何使ってんの?」スンスン
「だ!だから匂い嗅がないでって!」

2人で朝から騒いでいるといつの間にか荷物を置いてこっちに来ていた亜紀ちゃんがちさきちゃんの首筋を引っ張って私から離してくれたけど…あーほら、亜紀ちゃんの瞳が全く光差してないね。

「凪沙さん嫌がってるでしょ…あと、話があるからちょっと来て」
「え?えっ!?」

首筋を引っ張られて連行されていくちさきちゃんに手を振りながら「いってらっしゃい」と見送った。非常にちさきちゃんの視線が助けを求めてきていたけど、これは自業自得だからね。

ちさきちゃんと亜紀ちゃんがいなくなってしまったので、先に他のバレーメンバー3人に朝練の事を伝えに行こうかなと教室を見渡すと3人はいつものようにかたまって談笑をしていた。

朝練してるから来れそうだったら一緒に練習しよ。とお誘いすると
「天城さんのお誘い断るわけないじゃないですか!!」
と山野さんがすごい勢いで迫られた。

元バレーボール部だからか気合いが違うなぁ…

ちさきちゃんと亜紀ちゃんには戻ってきたらお話ししようと思ったけど、戻ってきたのがホームルーム始まるギリギリの時間でちさきちゃんはぐったりしてるし、亜紀ちゃんはなんだか嬉しそうにしてるしこれはお昼休みにじっくり話を聞こうかなと心の中で誓った。
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