【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

文字の大きさ
18 / 129

10月24日

しおりを挟む
「凪沙ちゃんテーブル席にお願い」
「わかりました」

私はトレーにコーヒーとケーキを乗せてテーブル席に座るお客様の前に「お待たせいたしました」と静かに置いた。女性はありがとうと優しく微笑んでまたノートパソコンに視線を向けた。
最近また常連のお客が増えたみたいで夜遅い時間でもお客様がいることが増えてきたみたいだ。

「そろそろ涼も来る時間だし凪沙ちゃん上がっていいわよ」
「はい」

バイト終わりに涼ちゃんが私を送ってくれるのも少し慣れてきた。美月さんにも涼にちゃんと送ってもらいなさいと言われているので断れなかった。
更衣室兼休憩室に入り着替えをしていると美月さんがコンコンとノックをして入ってきた。

「そう言えば凪沙ちゃん!この間涼に一週間分のお昼代渡そうとしたらいらないって言われちゃって、そんな事今までなかったから問い詰めたのよ」

私は少し身構えた。勝手にあなたの娘さんにお弁当を作って持っていってるなんて何を言われるか……

「凪沙ちゃんが涼のお弁当作ってきてくれてるんだって?」
「はい……そうです」

美月さんは少し申し訳なさそうにして話を続けた。

「ごめんね。私がもう少し家の事ちゃんとできたら涼にもお弁当作ってあげられるんだけど…涼っていつもおにぎりばかりでしょ?夕飯だけはと思って作ったりするんだけど毎日って訳には行かなくて…凪沙ちゃんが作ってくれるお弁当バランスも良くて毎日美味しいって嬉しそうに言ってて…」
「私も美味しいって言って食べてくれるのは嬉しいです」

私はお弁当を美味しそうに食べてくれる涼ちゃんを思い出し少し笑った。

「それでね!毎日お弁当を作ってくれるのは非常に有難いんだけど!こう言うのはちゃんとしないといけないと思って!」

急に真面目な表情をして美月さんは私に詰め寄ってくる。その瞳は涼ちゃんと親子なんだなってくらいそっくりな瞳で私は引き込まれる。
美月さんは近くの戸棚の引き出しから白い封筒を取り出し、私に差し出してきた。

「え……」
「材料費とか手間賃だとかあるでしょ?」
「いやいや!!いただけません!!バイト終わりに毎回涼ちゃんには送ってもらったりしてるんですし!そのお礼みたいなものです!」
「………って断られると思って」
「え?」

美月さんが封筒の中から2枚の紙を取り出した。

「映画のチケット?」
「凪沙ちゃんなら断るだろうなぁって思って、これなら受け取ってくれる?期限もあるから貰ってもらわないと私が困っちゃうんだけど……」

美月さんがにこりと微笑んで私にチケットを見せてくる。

「それなら…わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、貰ってくれてありがとう。涼のお弁当もありがとね」
「いえ…」

私は白い封筒を受け取って眺める。

「彼氏とか誘って楽しんできてね」
「え!?いや…彼氏とかいないですよ」
「そうなの?こんな可愛いのに?」

そう言って私の頭にポンと手を乗せて微笑んできた。大人の美人なお姉さんに見つめられてタジタジしてしまう。

――コンコン

「凪沙?」

涼ちゃんが扉を開けて覗き込んできた。頭に手を乗せられた私と目が合い一瞬にしてムスッとした表情に変わる。

「涼おかえり」

美月さんは何事もなかったように、私から手を離して涼ちゃんの方に手を振る。
涼ちゃんは美月さんとそっくりな瞳を細めて睨みつけた。そんなに睨まないでよと美月さんは今度は涼ちゃんの頭をポンと軽く撫でてそのまま休憩室を出て行った。

「涼ちゃ――」
「凪沙準備できた?」

さっきの不機嫌そうな顔から一転してニコニコしながら近づいてくる。

「あ、うん。ちょっと待ってね」

カバンに白い封筒を入れてから肩に掛けた。

「じゃあ、行こうか」

いつもの様子に戻った涼ちゃんは扉を開けて更衣室兼休憩室を出た。



「もうすぐ球技大会だね」
「もう来週かぁ…B組にまだ勝てた事ないのになぁ…」

土日を挟んですぐに球技大会が迫ってきていた。
あれから涼ちゃんはいつも以上に練習に力を入れていて、バレー部の人達に誘われるほど上達していっていた。私たちのチームはチームワークも上がりB組から1セット取れるくらいには上達はしていたけれど、それ以上の実力をB組は見せていた。

「凪沙とデート楽しみだなぁ」
「まだ球技大会も始まってないのに?」
「負ける気ないし。あ、でもA組には負けてもいいかな」
「なんで?」
「凪沙のお願い聞きたいし」

涼ちゃんは前屈みになって私の顔を覗き込んだ。身長が高くていつも遠かった顔が近くにある。

「ダメ!手を抜いてわざと負けるなんてしたらダメだよ。私も頑張ってB組に勝てるように練習してきたんだもん」
「えー凪沙のお願い聞きたいのになぁ」
「A組にわざと負けて優勝逃したりしたらどうするの?」
「はっ!それはもっとダメ!凪沙とデートいけなくなる」
「だから頑張ってね涼ちゃん」
「うん。頑張る」

涼ちゃんの手が私の頭に乗って優しく撫でてくる。嬉しそうに笑ってナデナデしてたまに髪の感触を確かめるように手に取ったり、髪を私の耳にかけてついでに耳も触ってきたり……くすぐったいのでやめてほしい……そして頭に戻ってまた優しく撫でてくる。あまりにも優しい笑顔で優しい手つきで撫でてくるから恥ずかしくなってきた。それに長くない?

「長くない?」

思ったことがそのまま口に出た。

「え?」

涼ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

「私の頭撫ですぎじゃない?」
「そんなことないよ。凪沙の髪柔らかくて撫で心地いいね」
「撫で心地の感想を聞いてるんじゃないんです~」

私は早歩きで涼ちゃんからの手を振り切って駅までの道のりを急いだ。涼ちゃんも急いで私の隣に並んでくる。

「また凪沙の頭撫でさせてね」

嬉しそうに告げてくる涼ちゃんに私は頭撫でるくらいならいいかとため息をついて頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...