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10月24日
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「凪沙ちゃんテーブル席にお願い」
「わかりました」
私はトレーにコーヒーとケーキを乗せてテーブル席に座るお客様の前に「お待たせいたしました」と静かに置いた。女性はありがとうと優しく微笑んでまたノートパソコンに視線を向けた。
最近また常連のお客が増えたみたいで夜遅い時間でもお客様がいることが増えてきたみたいだ。
「そろそろ涼も来る時間だし凪沙ちゃん上がっていいわよ」
「はい」
バイト終わりに涼ちゃんが私を送ってくれるのも少し慣れてきた。美月さんにも涼にちゃんと送ってもらいなさいと言われているので断れなかった。
更衣室兼休憩室に入り着替えをしていると美月さんがコンコンとノックをして入ってきた。
「そう言えば凪沙ちゃん!この間涼に一週間分のお昼代渡そうとしたらいらないって言われちゃって、そんな事今までなかったから問い詰めたのよ」
私は少し身構えた。勝手にあなたの娘さんにお弁当を作って持っていってるなんて何を言われるか……
「凪沙ちゃんが涼のお弁当作ってきてくれてるんだって?」
「はい……そうです」
美月さんは少し申し訳なさそうにして話を続けた。
「ごめんね。私がもう少し家の事ちゃんとできたら涼にもお弁当作ってあげられるんだけど…涼っていつもおにぎりばかりでしょ?夕飯だけはと思って作ったりするんだけど毎日って訳には行かなくて…凪沙ちゃんが作ってくれるお弁当バランスも良くて毎日美味しいって嬉しそうに言ってて…」
「私も美味しいって言って食べてくれるのは嬉しいです」
私はお弁当を美味しそうに食べてくれる涼ちゃんを思い出し少し笑った。
「それでね!毎日お弁当を作ってくれるのは非常に有難いんだけど!こう言うのはちゃんとしないといけないと思って!」
急に真面目な表情をして美月さんは私に詰め寄ってくる。その瞳は涼ちゃんと親子なんだなってくらいそっくりな瞳で私は引き込まれる。
美月さんは近くの戸棚の引き出しから白い封筒を取り出し、私に差し出してきた。
「え……」
「材料費とか手間賃だとかあるでしょ?」
「いやいや!!いただけません!!バイト終わりに毎回涼ちゃんには送ってもらったりしてるんですし!そのお礼みたいなものです!」
「………って断られると思って」
「え?」
美月さんが封筒の中から2枚の紙を取り出した。
「映画のチケット?」
「凪沙ちゃんなら断るだろうなぁって思って、これなら受け取ってくれる?期限もあるから貰ってもらわないと私が困っちゃうんだけど……」
美月さんがにこりと微笑んで私にチケットを見せてくる。
「それなら…わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、貰ってくれてありがとう。涼のお弁当もありがとね」
「いえ…」
私は白い封筒を受け取って眺める。
「彼氏とか誘って楽しんできてね」
「え!?いや…彼氏とかいないですよ」
「そうなの?こんな可愛いのに?」
そう言って私の頭にポンと手を乗せて微笑んできた。大人の美人なお姉さんに見つめられてタジタジしてしまう。
――コンコン
「凪沙?」
涼ちゃんが扉を開けて覗き込んできた。頭に手を乗せられた私と目が合い一瞬にしてムスッとした表情に変わる。
「涼おかえり」
美月さんは何事もなかったように、私から手を離して涼ちゃんの方に手を振る。
涼ちゃんは美月さんとそっくりな瞳を細めて睨みつけた。そんなに睨まないでよと美月さんは今度は涼ちゃんの頭をポンと軽く撫でてそのまま休憩室を出て行った。
「涼ちゃ――」
「凪沙準備できた?」
さっきの不機嫌そうな顔から一転してニコニコしながら近づいてくる。
「あ、うん。ちょっと待ってね」
カバンに白い封筒を入れてから肩に掛けた。
「じゃあ、行こうか」
いつもの様子に戻った涼ちゃんは扉を開けて更衣室兼休憩室を出た。
「もうすぐ球技大会だね」
「もう来週かぁ…B組にまだ勝てた事ないのになぁ…」
土日を挟んですぐに球技大会が迫ってきていた。
あれから涼ちゃんはいつも以上に練習に力を入れていて、バレー部の人達に誘われるほど上達していっていた。私たちのチームはチームワークも上がりB組から1セット取れるくらいには上達はしていたけれど、それ以上の実力をB組は見せていた。
「凪沙とデート楽しみだなぁ」
「まだ球技大会も始まってないのに?」
「負ける気ないし。あ、でもA組には負けてもいいかな」
「なんで?」
「凪沙のお願い聞きたいし」
涼ちゃんは前屈みになって私の顔を覗き込んだ。身長が高くていつも遠かった顔が近くにある。
「ダメ!手を抜いてわざと負けるなんてしたらダメだよ。私も頑張ってB組に勝てるように練習してきたんだもん」
「えー凪沙のお願い聞きたいのになぁ」
「A組にわざと負けて優勝逃したりしたらどうするの?」
「はっ!それはもっとダメ!凪沙とデートいけなくなる」
「だから頑張ってね涼ちゃん」
「うん。頑張る」
涼ちゃんの手が私の頭に乗って優しく撫でてくる。嬉しそうに笑ってナデナデしてたまに髪の感触を確かめるように手に取ったり、髪を私の耳にかけてついでに耳も触ってきたり……くすぐったいのでやめてほしい……そして頭に戻ってまた優しく撫でてくる。あまりにも優しい笑顔で優しい手つきで撫でてくるから恥ずかしくなってきた。それに長くない?
「長くない?」
思ったことがそのまま口に出た。
「え?」
涼ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「私の頭撫ですぎじゃない?」
「そんなことないよ。凪沙の髪柔らかくて撫で心地いいね」
「撫で心地の感想を聞いてるんじゃないんです~」
私は早歩きで涼ちゃんからの手を振り切って駅までの道のりを急いだ。涼ちゃんも急いで私の隣に並んでくる。
「また凪沙の頭撫でさせてね」
嬉しそうに告げてくる涼ちゃんに私は頭撫でるくらいならいいかとため息をついて頷いた。
「わかりました」
私はトレーにコーヒーとケーキを乗せてテーブル席に座るお客様の前に「お待たせいたしました」と静かに置いた。女性はありがとうと優しく微笑んでまたノートパソコンに視線を向けた。
最近また常連のお客が増えたみたいで夜遅い時間でもお客様がいることが増えてきたみたいだ。
「そろそろ涼も来る時間だし凪沙ちゃん上がっていいわよ」
「はい」
バイト終わりに涼ちゃんが私を送ってくれるのも少し慣れてきた。美月さんにも涼にちゃんと送ってもらいなさいと言われているので断れなかった。
更衣室兼休憩室に入り着替えをしていると美月さんがコンコンとノックをして入ってきた。
「そう言えば凪沙ちゃん!この間涼に一週間分のお昼代渡そうとしたらいらないって言われちゃって、そんな事今までなかったから問い詰めたのよ」
私は少し身構えた。勝手にあなたの娘さんにお弁当を作って持っていってるなんて何を言われるか……
「凪沙ちゃんが涼のお弁当作ってきてくれてるんだって?」
「はい……そうです」
美月さんは少し申し訳なさそうにして話を続けた。
「ごめんね。私がもう少し家の事ちゃんとできたら涼にもお弁当作ってあげられるんだけど…涼っていつもおにぎりばかりでしょ?夕飯だけはと思って作ったりするんだけど毎日って訳には行かなくて…凪沙ちゃんが作ってくれるお弁当バランスも良くて毎日美味しいって嬉しそうに言ってて…」
「私も美味しいって言って食べてくれるのは嬉しいです」
私はお弁当を美味しそうに食べてくれる涼ちゃんを思い出し少し笑った。
「それでね!毎日お弁当を作ってくれるのは非常に有難いんだけど!こう言うのはちゃんとしないといけないと思って!」
急に真面目な表情をして美月さんは私に詰め寄ってくる。その瞳は涼ちゃんと親子なんだなってくらいそっくりな瞳で私は引き込まれる。
美月さんは近くの戸棚の引き出しから白い封筒を取り出し、私に差し出してきた。
「え……」
「材料費とか手間賃だとかあるでしょ?」
「いやいや!!いただけません!!バイト終わりに毎回涼ちゃんには送ってもらったりしてるんですし!そのお礼みたいなものです!」
「………って断られると思って」
「え?」
美月さんが封筒の中から2枚の紙を取り出した。
「映画のチケット?」
「凪沙ちゃんなら断るだろうなぁって思って、これなら受け取ってくれる?期限もあるから貰ってもらわないと私が困っちゃうんだけど……」
美月さんがにこりと微笑んで私にチケットを見せてくる。
「それなら…わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、貰ってくれてありがとう。涼のお弁当もありがとね」
「いえ…」
私は白い封筒を受け取って眺める。
「彼氏とか誘って楽しんできてね」
「え!?いや…彼氏とかいないですよ」
「そうなの?こんな可愛いのに?」
そう言って私の頭にポンと手を乗せて微笑んできた。大人の美人なお姉さんに見つめられてタジタジしてしまう。
――コンコン
「凪沙?」
涼ちゃんが扉を開けて覗き込んできた。頭に手を乗せられた私と目が合い一瞬にしてムスッとした表情に変わる。
「涼おかえり」
美月さんは何事もなかったように、私から手を離して涼ちゃんの方に手を振る。
涼ちゃんは美月さんとそっくりな瞳を細めて睨みつけた。そんなに睨まないでよと美月さんは今度は涼ちゃんの頭をポンと軽く撫でてそのまま休憩室を出て行った。
「涼ちゃ――」
「凪沙準備できた?」
さっきの不機嫌そうな顔から一転してニコニコしながら近づいてくる。
「あ、うん。ちょっと待ってね」
カバンに白い封筒を入れてから肩に掛けた。
「じゃあ、行こうか」
いつもの様子に戻った涼ちゃんは扉を開けて更衣室兼休憩室を出た。
「もうすぐ球技大会だね」
「もう来週かぁ…B組にまだ勝てた事ないのになぁ…」
土日を挟んですぐに球技大会が迫ってきていた。
あれから涼ちゃんはいつも以上に練習に力を入れていて、バレー部の人達に誘われるほど上達していっていた。私たちのチームはチームワークも上がりB組から1セット取れるくらいには上達はしていたけれど、それ以上の実力をB組は見せていた。
「凪沙とデート楽しみだなぁ」
「まだ球技大会も始まってないのに?」
「負ける気ないし。あ、でもA組には負けてもいいかな」
「なんで?」
「凪沙のお願い聞きたいし」
涼ちゃんは前屈みになって私の顔を覗き込んだ。身長が高くていつも遠かった顔が近くにある。
「ダメ!手を抜いてわざと負けるなんてしたらダメだよ。私も頑張ってB組に勝てるように練習してきたんだもん」
「えー凪沙のお願い聞きたいのになぁ」
「A組にわざと負けて優勝逃したりしたらどうするの?」
「はっ!それはもっとダメ!凪沙とデートいけなくなる」
「だから頑張ってね涼ちゃん」
「うん。頑張る」
涼ちゃんの手が私の頭に乗って優しく撫でてくる。嬉しそうに笑ってナデナデしてたまに髪の感触を確かめるように手に取ったり、髪を私の耳にかけてついでに耳も触ってきたり……くすぐったいのでやめてほしい……そして頭に戻ってまた優しく撫でてくる。あまりにも優しい笑顔で優しい手つきで撫でてくるから恥ずかしくなってきた。それに長くない?
「長くない?」
思ったことがそのまま口に出た。
「え?」
涼ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「私の頭撫ですぎじゃない?」
「そんなことないよ。凪沙の髪柔らかくて撫で心地いいね」
「撫で心地の感想を聞いてるんじゃないんです~」
私は早歩きで涼ちゃんからの手を振り切って駅までの道のりを急いだ。涼ちゃんも急いで私の隣に並んでくる。
「また凪沙の頭撫でさせてね」
嬉しそうに告げてくる涼ちゃんに私は頭撫でるくらいならいいかとため息をついて頷いた。
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