【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

文字の大きさ
42 / 129

11月17日(2)

しおりを挟む
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」

2人でお弁当を食べてお弁当箱に蓋をした。お弁当を食べている最中も特に話すことはなく静かに食べていた。食べながら喋るのも行儀が良い行為ではないので、静かに食べるのは別に嫌ではなかった。

沈黙する気配が近寄ってこようとしている時、涼ちゃんが躊躇いつつも口を開いた。

「凪沙。この間はごめん。その―――無理やりしちゃったこと…」
「ううん。それは大丈夫だから気にしないで」

実際嫌だった訳ではない。そりゃ驚いたし、どうして急に?とは思ったけど、涼ちゃんの言っている事は理解している。

私が涼ちゃんを恋愛対象として意識していなかったからで、それをちょっと強引だけど意識してもらう為に涼ちゃんは私にキスをしたんだ。

多分それは涼ちゃんの思惑通り成功したんじゃないかなとは思っている。あれから涼ちゃんの事を考えることが増えたし、キスの事を思い出してしまうことも多い。

でも、その後涼ちゃんはすぐ走って帰ってしまったし、次の日のバイト終わりはいつも送ってくれるのに喫茶みづきにも姿を現さなかった。

私は隣にいる涼ちゃんを見る。ちょっと暗い顔をした涼ちゃんは少しだけ目を動かしてこっちを見た。

「涼ちゃんは――」
「ん?」

「涼ちゃんは好きでもない人にキスして嫌じゃなかった?」
「え?」

「だって次の日、喫茶みづきにも来なかったでしょ?ホントは嫌だったけど無理したんじゃないの?涼ちゃんが嫌な思いまでしてがんばる事ないよ?私はそこまでしてがん―――」

「違う!」

涼ちゃんが少し大きめに声を上げて、驚いて体がビクッと震えた。

「ご、ごめん。違うから……嫌だったら最初からしてない。でも、あそこまでするつもりはなくて……凪沙が嫌な思いをしたんじゃないかって…嫌われたかもって……」

「さっきも言ったけど大丈夫だよ。涼ちゃん」

私は子供をあやすようにできるだけ優しい声で話す。

「私も女の子とキスするの初めてだったし、ビックリはしたけど嫌じゃなかったよ?それに―――あ、いやなんでもない」

危うく変なことまで口走りそうになって慌てて口を閉じた。

「それに?なに?」

涼ちゃんが不安そうに見つめてくる。
あのキスでお互いが思い悩んでいて、涼ちゃんはきっと私よりも不安だったのかもしれない。
目を逸らさずにずっと見つめられて、これは言わないと後々シコリのようなものを残してしまうような気がした。
あまり言いたくはないんだけどな……

「えっと……涼ちゃんって――キス上手だね?」
「…………っ!!」

半分開いた口がパクパクと動いて徐々に顔に血が登っているのか顔が真っ赤に染まっていく。人ってこんな風に顔色が変わっていくんだなぁって少し驚いた。

「なんか慣れてる?感じがしたかな?あ、デート中も自然と手を繋いできたり、会ってすぐ服装褒めてくれたり?」

「な!!慣れてない!!!違うよ!?結構噂とかで色んな女の子を泣かせてきたみたいな事言われてるの知ってるけど違うからね!?」

両手をブンブンと振り回して必死に否定してくる。
でも実際すごくスマートにデートが進んだし色んな経験してきたのかなぁ?って思っちゃうじゃん。

「多分告白してきた女の子を振って泣かせてしまったりしたから、そういうのが噂になったりしてるんだろうけど……デートなんて数えられる程度しかしたことないし、キスだって―――」

「ん?」

涼ちゃんは両手で顔を覆ってしまった。横から見える耳は真っ赤に染まっている。

「―――キスだって………はじめてだった……」

「…………」
「…………」

「…………えぇぇ!!!」

「…………」

「ま、まさか……私……ファーストキスだったの!?えっ!?良かったの!?もっとこう――好きな人とか……大事にした方が良かったんじゃないの?」

涼ちゃんからしてきたとはいえ、ファーストキスをまさか私が奪ってしまう形になってた。ファーストキスで手慣れた感じ出さないでほしい……確かにあれはやりすぎだ。初めてのキスは軽く唇に触れるくらいで終わりそうなものを――

涼ちゃんが恥ずかしそうに瞳を潤ませながら睨んできた。

「私からしたんだからいいでしょ?ファーストキスくらいで大袈裟だよ」
「で、でも――」

「いいの!!それに凪沙は私の事落としてくれるんでしょ?これから好きになるんだったらいいじゃん。好きな人とファーストキスになりました!ってなるじゃん!」

そんな不確かな好きな人じゃなくて、好きになってからキスするんだよぉ。落とせなかったら責任重大だよぉ。人気者の涼ちゃんのファーストキスを奪ってしまった女が私だなんて………

「よし!!こうしよう!!涼ちゃんと私は女の子同士の友達同士!ノーカン!ノーカウント!!」

「無理でしょ。そんなの私の気持ち次第でカウントに入れちゃえばノーカンにはならないし……もう私はカウントに入れちゃってるから!」
「うっ!!」

鋭く切り捨てられ、無事に?涼ちゃんのファーストキスを奪った女になった。


「ねぇ。凪沙……」
「な、なに?」

涼ちゃんのはじめてを知らないうちに奪ってしまったことへの罪悪感に打ちひしがれていると、ちょっと落ち着いたらしい涼ちゃんが私の心臓めがけてショットガンを打ち込んできた。


「また………キス……してもいーい?」


「…………えっ!!な、なんで!?」
「凪沙に意識してもらうなら続けた方が効果的だと思う」

涼ちゃんが隣に座る私に詰め寄ってきた。

「い、一回でも効果的だったよ!?!?もう、十分意識しちゃってると思うけど!?!?」

寄ってきた分私は少し後ろにのけぞった。

「嫌じゃないんでしょ?」
「うっ……ま、まぁ」

「上手だって思ったって事は――気持ちよかったって事だよね?」
「っ!!!」

涼ちゃんが口の端を上げて微笑みかけてくる。さっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてたのが嘘みたいに余裕そうな顔つきをして、私の頭をサラッと撫でてくる。

優しい手つきで髪を梳きながら、徐々に下がってくる涼ちゃんの右手は私の耳の外側をツーと形をなぞる様に通って顎のラインを撫でていく。

見つめてくる黒い瞳はどこまでも優しげな雰囲気を漂わせていて、私を捕らえて離さない。そのまま吸い込まれていくような感覚に陥っていると、気づけば鼻先が触れ合いそうなほど近づいていた。

柔らかな感覚が唇に伝わってきてすぐに離される。


「今日はこれだけにしておくね?」

「だから手慣れすぎだよぉ~」

私は襲いかかってくる羞恥の感情で机に突っ伏した。


優しい手つきで撫でてくる涼ちゃんの手が好きなのも、優しげな瞳に吸い込まれそうになる感覚も、どうして私がそんな感情を抱いてしまうのか今の私にはわからなかった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...