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12月11日 Side涼3
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部活からの帰り道。
最寄り駅の改札を出たところで、昨日のことを思い出していた。
『随分大きくなったじゃないか』
『うん』
『バスケやってるのか?』
『……うん』
『………』
『………』
会話が続かないからか、父さんは頭をボリボリかいた。
何年も会っていないし連絡すらなかった父に話すことなんて何もない。
楽しく会話なんてできるはずない。
『何しにきたの?』
ただ、私に会いにきたなんてことはないだろう。
最後に記憶しているあの頃より随分老けた顔をしている父を見る。
『あぁ。涼………俺のところに来なさい』
『え?』
何のことを言っているのかわからなかった。
『俺は今アメリカにいてね。生活も落ち着いている。向こうの学校もここよりレベルが高いが涼ならついていけるだろう。バスケだって本場だ。今よりもずっといい暮らしができる』
『え、いや……だって……』
急にそんなことを言われてもどうしたらいいのかわからない。
父さんのところに行く?アメリカ?
母のこともあるし、今決められるような話ではない。
『お前の将来のことを思ってのことだ。近々迎えに行くから準備しておきなさい。こっちでの仕事が残っているからそれが終わったら、俺と一緒にアメリカに行くんだ』
『で、でも……母さんが……』
『美月にはもう話してある』
『……母さんはなんて……』
『返事は貰えなかったが、どっちの暮らしがいいかなんて決まっているだろ』
連絡すると言って父はその場から立ち去った。
呆然と立ち尽くして、しばらくその場から動けない。久しぶりに会った父は私を連れてアメリカに行くという。
今よりも良い暮らしができる?私は別に今の暮らしに不満なんてない。
将来のことを思って?私の将来は私が決めるんじゃないの?
それからずっと昨日のことを考えてはいたが、学校ではできるだけ普通に振る舞っていた。誰にもこんな話なんてできるはずもなかった。
家に着いて、玄関のドアを開ける。
「ただい……ま」
家の中は電気がつけられ、リビングの扉から灯りが漏れていた。
今の時間はまだ母さんはお店にいる時間で私の他にこの家に誰かがいるなんて事あるはずがない。
できるだけ足音を立てずに静かにリビングの扉を開いた。
ソファに長い髪を下ろして座っている母さんがいた。
電気だけつけて、テレビや音楽もつけず頭を押さえて座る母さんは疲れた様子を見せている。
扉の開く音がしたからか母さんが振り返ってきた。
「涼………お帰りなさい」
「ただいま。母さんお店は?」
「ちょっと……体調が悪くて早めにしめたのよ」
「大丈夫?」
「うん。少し疲れてるだけだから、休めば大丈夫よ」
はぁっと息を吐いて、母さんは長い髪を払って片手で目元を覆った。
背負っていたリュックをダイニングテーブルの椅子に乗せて、冷蔵庫からお茶を取り出し2つのコップに注いだ。母さんの前にあるローテーブルにお茶を置いて私は床に座った。
「あの人……」
小さく母さんの口からこぼれるように呟いた。
「涼のところにも行ったの?」
父さんのことを言っているんだとすぐにわかった。
「うん。昨日会った」
「………なんて言われたの?」
「俺のところに来いって」
「………そう」
「でも、私行かない。アメリカなんて遠いし、今更父親の元に行きたいなんて思わない」
「…………」
ずっと母さんは片手で目元を覆ったまま俯いている。
はぁ……と母さんは深く息を吐いた。
「涼。あの人のところに行きなさい」
「え………」
「私のところにいるよりずっと良い暮らしができるわ。家のこともやらなくて良くなるし、バスケだって思う存分できるわよ」
「え、いや、私バスケできなくても良いし別に今の暮らしでも―――」
「疲れたのよ。もう……最近さらに忙しくなってきちゃったし、ここまで大きくなるまで育てたんだから十分じゃない。私も好きに遊びたいわよ。でも、あなたがいると頑張って働かないといけないじゃない?ずっとやってきたんだからもう私も休もうと思うのよ子育て。解放されたいのよ」
母さんの口からスラスラと出てくる言葉を私は静かに聞いていた。
疲れた。遊びたい。解放されたい。
それはそうだ。母さんだって人間だ。好きに遊びたいし、休みたい時だってある。幼かった私をここまで女手一つで育ててくれたんだ。
私のワガママでこれ以上母さんを苦しめるのは違う。
「………わかった」
それでも、込み上げてくるものがあって私は立ち上がると、椅子に乗せてたリュックを手に取り自分の部屋に入った。
母さんはずっと俯いたまま片手で目を覆っていた。
部屋に入った瞬間ポタポタと溢れてくる涙が止まらなかった。
リュックがドサッと床に落ちる。
フラフラと歩いてベッドに顔を埋めた。ベッドが涙を吸い取って、布団が私の声を抑えてくれる。
声を上げて泣くなんて何年もしていなかった。
それほどまでに母さんとの生活は満足していた。お店が休みの日には一緒に買い物だって行ったし、たまに作ってくれる料理も大好きだった。
お店に行けば、母さんが笑って迎えてくれるし、たまに揶揄ってくることがあっても最後は愛情があるって感じていた。
両手で布団を強く握りしめた。濡れていくベッド、顔を押し付けて止まらない涙を止めようとする。声も抑えつけるが引き攣った声が喉から漏れる。
泣いたって仕方ない。母さんの為だ。母さんにここまで育ててくれてありがとうと言わないといけない。
でも、今だけは………流れる涙をとめられない
最寄り駅の改札を出たところで、昨日のことを思い出していた。
『随分大きくなったじゃないか』
『うん』
『バスケやってるのか?』
『……うん』
『………』
『………』
会話が続かないからか、父さんは頭をボリボリかいた。
何年も会っていないし連絡すらなかった父に話すことなんて何もない。
楽しく会話なんてできるはずない。
『何しにきたの?』
ただ、私に会いにきたなんてことはないだろう。
最後に記憶しているあの頃より随分老けた顔をしている父を見る。
『あぁ。涼………俺のところに来なさい』
『え?』
何のことを言っているのかわからなかった。
『俺は今アメリカにいてね。生活も落ち着いている。向こうの学校もここよりレベルが高いが涼ならついていけるだろう。バスケだって本場だ。今よりもずっといい暮らしができる』
『え、いや……だって……』
急にそんなことを言われてもどうしたらいいのかわからない。
父さんのところに行く?アメリカ?
母のこともあるし、今決められるような話ではない。
『お前の将来のことを思ってのことだ。近々迎えに行くから準備しておきなさい。こっちでの仕事が残っているからそれが終わったら、俺と一緒にアメリカに行くんだ』
『で、でも……母さんが……』
『美月にはもう話してある』
『……母さんはなんて……』
『返事は貰えなかったが、どっちの暮らしがいいかなんて決まっているだろ』
連絡すると言って父はその場から立ち去った。
呆然と立ち尽くして、しばらくその場から動けない。久しぶりに会った父は私を連れてアメリカに行くという。
今よりも良い暮らしができる?私は別に今の暮らしに不満なんてない。
将来のことを思って?私の将来は私が決めるんじゃないの?
それからずっと昨日のことを考えてはいたが、学校ではできるだけ普通に振る舞っていた。誰にもこんな話なんてできるはずもなかった。
家に着いて、玄関のドアを開ける。
「ただい……ま」
家の中は電気がつけられ、リビングの扉から灯りが漏れていた。
今の時間はまだ母さんはお店にいる時間で私の他にこの家に誰かがいるなんて事あるはずがない。
できるだけ足音を立てずに静かにリビングの扉を開いた。
ソファに長い髪を下ろして座っている母さんがいた。
電気だけつけて、テレビや音楽もつけず頭を押さえて座る母さんは疲れた様子を見せている。
扉の開く音がしたからか母さんが振り返ってきた。
「涼………お帰りなさい」
「ただいま。母さんお店は?」
「ちょっと……体調が悪くて早めにしめたのよ」
「大丈夫?」
「うん。少し疲れてるだけだから、休めば大丈夫よ」
はぁっと息を吐いて、母さんは長い髪を払って片手で目元を覆った。
背負っていたリュックをダイニングテーブルの椅子に乗せて、冷蔵庫からお茶を取り出し2つのコップに注いだ。母さんの前にあるローテーブルにお茶を置いて私は床に座った。
「あの人……」
小さく母さんの口からこぼれるように呟いた。
「涼のところにも行ったの?」
父さんのことを言っているんだとすぐにわかった。
「うん。昨日会った」
「………なんて言われたの?」
「俺のところに来いって」
「………そう」
「でも、私行かない。アメリカなんて遠いし、今更父親の元に行きたいなんて思わない」
「…………」
ずっと母さんは片手で目元を覆ったまま俯いている。
はぁ……と母さんは深く息を吐いた。
「涼。あの人のところに行きなさい」
「え………」
「私のところにいるよりずっと良い暮らしができるわ。家のこともやらなくて良くなるし、バスケだって思う存分できるわよ」
「え、いや、私バスケできなくても良いし別に今の暮らしでも―――」
「疲れたのよ。もう……最近さらに忙しくなってきちゃったし、ここまで大きくなるまで育てたんだから十分じゃない。私も好きに遊びたいわよ。でも、あなたがいると頑張って働かないといけないじゃない?ずっとやってきたんだからもう私も休もうと思うのよ子育て。解放されたいのよ」
母さんの口からスラスラと出てくる言葉を私は静かに聞いていた。
疲れた。遊びたい。解放されたい。
それはそうだ。母さんだって人間だ。好きに遊びたいし、休みたい時だってある。幼かった私をここまで女手一つで育ててくれたんだ。
私のワガママでこれ以上母さんを苦しめるのは違う。
「………わかった」
それでも、込み上げてくるものがあって私は立ち上がると、椅子に乗せてたリュックを手に取り自分の部屋に入った。
母さんはずっと俯いたまま片手で目を覆っていた。
部屋に入った瞬間ポタポタと溢れてくる涙が止まらなかった。
リュックがドサッと床に落ちる。
フラフラと歩いてベッドに顔を埋めた。ベッドが涙を吸い取って、布団が私の声を抑えてくれる。
声を上げて泣くなんて何年もしていなかった。
それほどまでに母さんとの生活は満足していた。お店が休みの日には一緒に買い物だって行ったし、たまに作ってくれる料理も大好きだった。
お店に行けば、母さんが笑って迎えてくれるし、たまに揶揄ってくることがあっても最後は愛情があるって感じていた。
両手で布団を強く握りしめた。濡れていくベッド、顔を押し付けて止まらない涙を止めようとする。声も抑えつけるが引き攣った声が喉から漏れる。
泣いたって仕方ない。母さんの為だ。母さんにここまで育ててくれてありがとうと言わないといけない。
でも、今だけは………流れる涙をとめられない
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