64 / 129
12月22日(1)
しおりを挟む
ちさきちゃんがお弁当の卵焼きを箸で摘んで一口食べた。
「今日も凪沙のお弁当は美味いなー」
あまり感情がこもってるように聞こえないお世辞を言ってくる。
「………」
「………」
目の前にある自分のお弁当を眺める。まだ一口も手をつけていない綺麗に整った中身。
今日のメインは一口ハンバーグで涼ちゃんが1番最初に食べた手作りだ。笑顔で美味しいと言ってくれた。
「……もうお弁当作ってこなくていいんじゃないのか?」
「………」
「はぁ……あいつ毎日この量食べてたの?おかずの他におにぎり二つ。毎日食べてたらあたしが太りそうなんだけど……」
「………ごめん」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくて……はぁ」
「………」
ちさきちゃんは困ったようにポリポリと頭をかいた。
遊園地のダブルデートは楽しかった。涼ちゃんと手を繋いで食べ歩きして、ちさきちゃんと亜紀ちゃんと楽しくおしゃべりしながら色んな乗り物に乗って……2人きりになった時には私の気持ちを伝えるんだというドキドキもあった。
2人きりの観覧車は絶好のタイミングだと思っていた。
最後に乗った観覧車の中で涼ちゃんに告げられた。
――お互いを恋に落とす事やめよう
その日から私と涼ちゃんはただの友達になった。
ダブルデートが終わった次の月曜日から涼ちゃんはお昼休みに教室に来なくなったし、廊下ですれ違った時は挨拶を交わす程度になった。
バイト終わりに家まで送ってもらっていたそれも、あの日から何だかんだ理由をつけられては喫茶店にも来なくなった。美月さんも特に涼ちゃんのことで何か言うこともなかった。
「亜紀ちゃんも図書委員の人たちのところに行っちゃったし……ごめん」
「そんなのはいいんだって!」
亜紀ちゃんもあれから図書委員の人たちのところでお昼を食べるようになった。
私たちも自分たちのクラスでお昼を食べるようになったし、涼ちゃんと知り合う前のような状態に戻っていて、余計私は沈む気持ちを抑えきれなかった。
それでも毎日お弁当を作ってくるのは、ちょっとでも涼ちゃんが戻ってきてくれるんじゃないかという自分勝手な気持ちからだろう。
それで結局お弁当はちさきちゃんに食べてもらっている。
「すぐに忘れろとは言わないけどさ……あまり落ち込みすぎるなよ?」
「だ、だって……」
私だって驚いている。好きだと自覚してフラれてこんなにも気持ちが沈んで、辛い気持ちになるなんて思わなかった。
こんなに涼ちゃんの事が好きだったなんて思わなかった。
「ちょっ!!泣くのは無し!泣くのは無し!!」
気づいたらポタッと机に水滴が落ちていた。
「あーーーもう!!ほら!!」
ちさきちゃんがティッシュで目元を押さえてくれる。
涼ちゃんもタオルで押さえてくれたなって思い出して余計涙が出た。
「なんで!?」
増えた涙に慌ててティッシュを増量してくれたちさきちゃんはずっとアワアワしてて申し訳ない。
クラスメイトの人も私たちの様子に驚きを隠せていなかった。
「ホント一発殴りに行こうかなー」
多分冗談なんだろうけどちさきちゃんが呟いていてちょっと笑った。
「大丈夫?凪沙さん」
「あれ?亜紀」
気づけばすぐそばに亜紀ちゃんがやってきていた。図書室でもうお昼を済ませてきたんだろうか?お弁当箱は持っていない。
「もう戻ってきたのか?いつもより早いな」
「うん。今日涼さん来てなくて」
「ん?別のところで食べてるのか?」
「そうじゃなくて、お休みしてるみたい」
「休み?また体調不良?」
「そこまではわからないけど……」
涼ちゃんが休み……
今度こそお見舞いとか行けないかな……
涼ちゃんと話がしたかった。涼ちゃんの顔が見たかった。涼ちゃんの声が聞きたかった。
友達でもお見舞いに行っても普通だよね。
今日はちょうどバイトもある。美月さんに聞いてみようかな……
「凪沙」
笑みを浮かべながらちさきちゃんが言う。
「悠木涼とちゃんと話してこいよ」
お見舞いに行こうかなどと考えているのは筒抜けだったらしい。
「うん……」
私は頷いた。
喫茶みづき
「美月さん!」
「あ、おはよう。凪沙ちゃん」
笑顔で振り返ってきた。美月さんに単刀直入にお願いした。
「涼ちゃんのお見舞いに行きたいんです」
私の圧に目を丸くして驚く美月さんは、すぐに苦い顔になった。
「お見舞いは大丈夫だから」
「で、でも、涼ちゃんが学校休むなんて……2回目だし」
「本当に。心配しなくて大丈夫よ。凪沙ちゃんに移しちゃっても悪いし、それでバイト休まれちゃうのも私が困っちゃうもの」
「移されないようにマスクもします!だから……」
美月さんは私の肩に手を置いた。
「ホントに大丈夫だから」
私を見つめる美月さんは普段と違って少し悲しそうで、困ったような表情をしている。
私の言動で美月さんを困らせているんだと気付かされる。
「わ、わかりました……」
お見舞いじゃなくてもいい。
明日涼ちゃんが学校に来た時に2人きりになって話せば良い。
私は美月さんの言葉に従うしかなかった。
バイトの帰り道は寂しかった。1人で帰るのは心細かった。
涼ちゃんと2人で帰るのがあんなに楽しかったのに、あんなに心強かったのに。
私の携帯がバイブする。
携帯の画面を見ると久しぶりの人からの着信だった。
「今日も凪沙のお弁当は美味いなー」
あまり感情がこもってるように聞こえないお世辞を言ってくる。
「………」
「………」
目の前にある自分のお弁当を眺める。まだ一口も手をつけていない綺麗に整った中身。
今日のメインは一口ハンバーグで涼ちゃんが1番最初に食べた手作りだ。笑顔で美味しいと言ってくれた。
「……もうお弁当作ってこなくていいんじゃないのか?」
「………」
「はぁ……あいつ毎日この量食べてたの?おかずの他におにぎり二つ。毎日食べてたらあたしが太りそうなんだけど……」
「………ごめん」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくて……はぁ」
「………」
ちさきちゃんは困ったようにポリポリと頭をかいた。
遊園地のダブルデートは楽しかった。涼ちゃんと手を繋いで食べ歩きして、ちさきちゃんと亜紀ちゃんと楽しくおしゃべりしながら色んな乗り物に乗って……2人きりになった時には私の気持ちを伝えるんだというドキドキもあった。
2人きりの観覧車は絶好のタイミングだと思っていた。
最後に乗った観覧車の中で涼ちゃんに告げられた。
――お互いを恋に落とす事やめよう
その日から私と涼ちゃんはただの友達になった。
ダブルデートが終わった次の月曜日から涼ちゃんはお昼休みに教室に来なくなったし、廊下ですれ違った時は挨拶を交わす程度になった。
バイト終わりに家まで送ってもらっていたそれも、あの日から何だかんだ理由をつけられては喫茶店にも来なくなった。美月さんも特に涼ちゃんのことで何か言うこともなかった。
「亜紀ちゃんも図書委員の人たちのところに行っちゃったし……ごめん」
「そんなのはいいんだって!」
亜紀ちゃんもあれから図書委員の人たちのところでお昼を食べるようになった。
私たちも自分たちのクラスでお昼を食べるようになったし、涼ちゃんと知り合う前のような状態に戻っていて、余計私は沈む気持ちを抑えきれなかった。
それでも毎日お弁当を作ってくるのは、ちょっとでも涼ちゃんが戻ってきてくれるんじゃないかという自分勝手な気持ちからだろう。
それで結局お弁当はちさきちゃんに食べてもらっている。
「すぐに忘れろとは言わないけどさ……あまり落ち込みすぎるなよ?」
「だ、だって……」
私だって驚いている。好きだと自覚してフラれてこんなにも気持ちが沈んで、辛い気持ちになるなんて思わなかった。
こんなに涼ちゃんの事が好きだったなんて思わなかった。
「ちょっ!!泣くのは無し!泣くのは無し!!」
気づいたらポタッと机に水滴が落ちていた。
「あーーーもう!!ほら!!」
ちさきちゃんがティッシュで目元を押さえてくれる。
涼ちゃんもタオルで押さえてくれたなって思い出して余計涙が出た。
「なんで!?」
増えた涙に慌ててティッシュを増量してくれたちさきちゃんはずっとアワアワしてて申し訳ない。
クラスメイトの人も私たちの様子に驚きを隠せていなかった。
「ホント一発殴りに行こうかなー」
多分冗談なんだろうけどちさきちゃんが呟いていてちょっと笑った。
「大丈夫?凪沙さん」
「あれ?亜紀」
気づけばすぐそばに亜紀ちゃんがやってきていた。図書室でもうお昼を済ませてきたんだろうか?お弁当箱は持っていない。
「もう戻ってきたのか?いつもより早いな」
「うん。今日涼さん来てなくて」
「ん?別のところで食べてるのか?」
「そうじゃなくて、お休みしてるみたい」
「休み?また体調不良?」
「そこまではわからないけど……」
涼ちゃんが休み……
今度こそお見舞いとか行けないかな……
涼ちゃんと話がしたかった。涼ちゃんの顔が見たかった。涼ちゃんの声が聞きたかった。
友達でもお見舞いに行っても普通だよね。
今日はちょうどバイトもある。美月さんに聞いてみようかな……
「凪沙」
笑みを浮かべながらちさきちゃんが言う。
「悠木涼とちゃんと話してこいよ」
お見舞いに行こうかなどと考えているのは筒抜けだったらしい。
「うん……」
私は頷いた。
喫茶みづき
「美月さん!」
「あ、おはよう。凪沙ちゃん」
笑顔で振り返ってきた。美月さんに単刀直入にお願いした。
「涼ちゃんのお見舞いに行きたいんです」
私の圧に目を丸くして驚く美月さんは、すぐに苦い顔になった。
「お見舞いは大丈夫だから」
「で、でも、涼ちゃんが学校休むなんて……2回目だし」
「本当に。心配しなくて大丈夫よ。凪沙ちゃんに移しちゃっても悪いし、それでバイト休まれちゃうのも私が困っちゃうもの」
「移されないようにマスクもします!だから……」
美月さんは私の肩に手を置いた。
「ホントに大丈夫だから」
私を見つめる美月さんは普段と違って少し悲しそうで、困ったような表情をしている。
私の言動で美月さんを困らせているんだと気付かされる。
「わ、わかりました……」
お見舞いじゃなくてもいい。
明日涼ちゃんが学校に来た時に2人きりになって話せば良い。
私は美月さんの言葉に従うしかなかった。
バイトの帰り道は寂しかった。1人で帰るのは心細かった。
涼ちゃんと2人で帰るのがあんなに楽しかったのに、あんなに心強かったのに。
私の携帯がバイブする。
携帯の画面を見ると久しぶりの人からの着信だった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる