【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

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12月24日(5)

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ちさきちゃんが電話をしている。

大きなツリーのある所に戻ってきたと思ったらちさきちゃんの携帯に着信があったらしく、ここで待ってろと言われベンチに座って待っている。

一体誰と電話をしているんだろう。離れたところで電話をしているから内容もわからない。
ただちさきちゃんはニヤと笑いながら電話をしている。

涼ちゃんは今頃どうしているだろうか……
あんなあからさまに逃げるんだから私と会いたくないのは確実だろう。けど、それでも、私は涼ちゃんに会いたかった。このままお別れだなんてしたくなかった。

「お待たせ凪沙」

通話を終えたらしいちさきちゃんがニコニコと笑いながら近づいてきた。

「うん」
「それじゃ、行こうか」


――悠木涼の所へ


「りょ、涼ちゃん見つかったの?」
「あぁ、もうバッチリ。今度は逃げられないから」

逃げられない?涼ちゃんは一体どこにいるっていうんだろう。

ちさきちゃんの先導でエレベーターの方へ向かっていく。
エレベーターに乗って上の階へ行き、降りた先はホテルのロビーだった。

「勝手に入っても大丈夫なの?」
「言ったろ、龍皇子家が経営もしてるって。話はもう通ってるから大丈夫だよ」

ホテルの受付にいる女性は私たちを見て丁寧にお辞儀をした。大勢のお客が利用するホテルでお客一人一人の顔なんて覚えてないだろうから、要ちゃんが事前に何かしたのかもしれない。制服を着た女子高生がこんなところにいるなんて不釣り合いでしかない。

ロビーを抜けてさらにエレベーターに乗り込んだ。

ホテルの利用者しか使わないエレベーターに乗って上の階を目指す。本当に涼ちゃんの部屋まで乗り込むのだろうか。

エレベーターが止まり扉が開いた先は、ソファやテーブル、自動販売機などが置かれていて想像していた宿泊用の部屋が並ぶ階とは違っていた。

ちさきちゃんがエレベーターから降りて私も後に続いた。

「あれ?龍皇子家の人がいるって聞いてたんだけどな」

キョロキョロと周りを見渡して人を探している。
廊下の角から遠くからでもわかるほどの大柄な人が現れてこちらに向かってきた。

「あれ?あの人――」
「うぉ!でけぇ……」

私たちの前まで来ると立ち止まり見下ろしてくる黒いスーツの人。
前に元彼から助けてくれた人だ。

「あ、あの!前に助けていただいてありがとうございます!」
「え?知り合い?」

「要ちゃん家の護衛さんだよ」
「龍皇子家の人か」

黒いスーツを着てサングラスをかけている大柄な人は、少し考えるそぶりを見せ口を開いた。

「………多分。人違いです。凪沙様を助けたのは私の兄だと思います」

どう見ても同一人物にしか見えない。

「双子なのでよく間違われるんです」
「あ、そうなんですね。失礼しました」

軽く頭を下げると、気にしないでくださいと護衛さんは軽く口を柔らかくした。

「こちらです。凪沙様、高坂様」

護衛さん(弟)の後を2人で付いていく。
“STAFF ONLY“と書かれた看板の横を抜けていき、奥の方まで進んでいくと護衛さん(弟)が扉の前で止まって振り返ってきた。

「凪沙。あたしここで待ってるから」
「えっ……」

「ちゃんと2人っきりで話してこいよ」

ちさきちゃんは“あたしの役目はここまでだぜ“みたいな表情をして親指をたて数歩後ろに下がった。

「凪沙様。よろしいでしょうか?」

上から声がかけられる。私は護衛さん(弟)を見上げて頷いた。
コンコンと扉が叩かれる。

少し待つと扉が静かに開いた。
隙間から見えたのは黒。室内が真っ暗なのかと思ったけれど、よく見ると黒のスーツ。見上げれば扉いっぱいに護衛さん(弟)とそっくりな護衛さんがいた。はち切れそうな黒のスーツとサングラスにオールバックにされた黒髪。見間違えても仕方ないと自分で納得してしまった。

「凪沙様。お待ちしておりました。中へどうぞ」

護衛さん(兄)がゆっくりと扉を開けて体をずらしていく。
中に涼ちゃんがいるんだと思うと、急に現実に引き戻されて心臓がバクバクと激しく鼓動を開始した。

開けられた扉を覗くと椅子に座り不機嫌そうな表情をしている涼ちゃんの姿が見えた。
中に入ると護衛さん(兄)は外に出て扉を閉めた。

私と涼ちゃん2人きりにされた室内。
涼ちゃんは私に気づいているはずなのにこちらに振り向きもしない。

やはり涼ちゃんは私のことを嫌いになって会いたくなかったんだ。胸が締め付けられる。どうしてこうなってしまったんだか私にはわからない。

「涼ちゃん」

涼ちゃんの方へ一歩近づいて呼びかける。少し涼ちゃんの体がこわばったような動きをした。それ以上近づいてはいけないと警告が頭のどこかで感じ取った。

「涼ちゃん……ごめんね。こんな無理やり」
「………」

俯いて何も言ってこない涼ちゃんに私は1人で話し始める。答えてくれなくても、私の声が届くのなら伝えたい。

「どうしても……このままお別れしたくなくて……涼ちゃんが……私に会いたくないのはわかったけど……でも、私は涼ちゃんにちゃんと伝えておきたいこともあって……」

俯いた涼ちゃんの表情はよくわからないけど、口元がぎゅっと力を込めたように見えた。

「私ここに来る前に美月さんと少し話してきたよ。美月さんに言われたから涼ちゃんはアメリカに行くの?」
「…………」

「私は………私は…涼ちゃんと離れたくないよ……」

涼ちゃんの膝の上に乗せられた拳が力強く握りしめられた。
数メートル離れた場所にいる涼ちゃんとの距離はいまだに近づけない。私を見てくれない涼ちゃんは何を考えているんだか私にはわからない。

「これは私の我儘だってわかってるけど……アメリカに行ってほしくない……だって……だって……」

私の視界が歪んだ。昂った感情がいつの間にか目元に涙となって現れた。


「私…涼ちゃんに落とされたから………」



――私、涼ちゃんに恋に落ちたから








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