74 / 129
12月24日(5)
しおりを挟む
ちさきちゃんが電話をしている。
大きなツリーのある所に戻ってきたと思ったらちさきちゃんの携帯に着信があったらしく、ここで待ってろと言われベンチに座って待っている。
一体誰と電話をしているんだろう。離れたところで電話をしているから内容もわからない。
ただちさきちゃんはニヤと笑いながら電話をしている。
涼ちゃんは今頃どうしているだろうか……
あんなあからさまに逃げるんだから私と会いたくないのは確実だろう。けど、それでも、私は涼ちゃんに会いたかった。このままお別れだなんてしたくなかった。
「お待たせ凪沙」
通話を終えたらしいちさきちゃんがニコニコと笑いながら近づいてきた。
「うん」
「それじゃ、行こうか」
――悠木涼の所へ
「りょ、涼ちゃん見つかったの?」
「あぁ、もうバッチリ。今度は逃げられないから」
逃げられない?涼ちゃんは一体どこにいるっていうんだろう。
ちさきちゃんの先導でエレベーターの方へ向かっていく。
エレベーターに乗って上の階へ行き、降りた先はホテルのロビーだった。
「勝手に入っても大丈夫なの?」
「言ったろ、龍皇子家が経営もしてるって。話はもう通ってるから大丈夫だよ」
ホテルの受付にいる女性は私たちを見て丁寧にお辞儀をした。大勢のお客が利用するホテルでお客一人一人の顔なんて覚えてないだろうから、要ちゃんが事前に何かしたのかもしれない。制服を着た女子高生がこんなところにいるなんて不釣り合いでしかない。
ロビーを抜けてさらにエレベーターに乗り込んだ。
ホテルの利用者しか使わないエレベーターに乗って上の階を目指す。本当に涼ちゃんの部屋まで乗り込むのだろうか。
エレベーターが止まり扉が開いた先は、ソファやテーブル、自動販売機などが置かれていて想像していた宿泊用の部屋が並ぶ階とは違っていた。
ちさきちゃんがエレベーターから降りて私も後に続いた。
「あれ?龍皇子家の人がいるって聞いてたんだけどな」
キョロキョロと周りを見渡して人を探している。
廊下の角から遠くからでもわかるほどの大柄な人が現れてこちらに向かってきた。
「あれ?あの人――」
「うぉ!でけぇ……」
私たちの前まで来ると立ち止まり見下ろしてくる黒いスーツの人。
前に元彼から助けてくれた人だ。
「あ、あの!前に助けていただいてありがとうございます!」
「え?知り合い?」
「要ちゃん家の護衛さんだよ」
「龍皇子家の人か」
黒いスーツを着てサングラスをかけている大柄な人は、少し考えるそぶりを見せ口を開いた。
「………多分。人違いです。凪沙様を助けたのは私の兄だと思います」
どう見ても同一人物にしか見えない。
「双子なのでよく間違われるんです」
「あ、そうなんですね。失礼しました」
軽く頭を下げると、気にしないでくださいと護衛さんは軽く口を柔らかくした。
「こちらです。凪沙様、高坂様」
護衛さん(弟)の後を2人で付いていく。
“STAFF ONLY“と書かれた看板の横を抜けていき、奥の方まで進んでいくと護衛さん(弟)が扉の前で止まって振り返ってきた。
「凪沙。あたしここで待ってるから」
「えっ……」
「ちゃんと2人っきりで話してこいよ」
ちさきちゃんは“あたしの役目はここまでだぜ“みたいな表情をして親指をたて数歩後ろに下がった。
「凪沙様。よろしいでしょうか?」
上から声がかけられる。私は護衛さん(弟)を見上げて頷いた。
コンコンと扉が叩かれる。
少し待つと扉が静かに開いた。
隙間から見えたのは黒。室内が真っ暗なのかと思ったけれど、よく見ると黒のスーツ。見上げれば扉いっぱいに護衛さん(弟)とそっくりな護衛さんがいた。はち切れそうな黒のスーツとサングラスにオールバックにされた黒髪。見間違えても仕方ないと自分で納得してしまった。
「凪沙様。お待ちしておりました。中へどうぞ」
護衛さん(兄)がゆっくりと扉を開けて体をずらしていく。
中に涼ちゃんがいるんだと思うと、急に現実に引き戻されて心臓がバクバクと激しく鼓動を開始した。
開けられた扉を覗くと椅子に座り不機嫌そうな表情をしている涼ちゃんの姿が見えた。
中に入ると護衛さん(兄)は外に出て扉を閉めた。
私と涼ちゃん2人きりにされた室内。
涼ちゃんは私に気づいているはずなのにこちらに振り向きもしない。
やはり涼ちゃんは私のことを嫌いになって会いたくなかったんだ。胸が締め付けられる。どうしてこうなってしまったんだか私にはわからない。
「涼ちゃん」
涼ちゃんの方へ一歩近づいて呼びかける。少し涼ちゃんの体がこわばったような動きをした。それ以上近づいてはいけないと警告が頭のどこかで感じ取った。
「涼ちゃん……ごめんね。こんな無理やり」
「………」
俯いて何も言ってこない涼ちゃんに私は1人で話し始める。答えてくれなくても、私の声が届くのなら伝えたい。
「どうしても……このままお別れしたくなくて……涼ちゃんが……私に会いたくないのはわかったけど……でも、私は涼ちゃんにちゃんと伝えておきたいこともあって……」
俯いた涼ちゃんの表情はよくわからないけど、口元がぎゅっと力を込めたように見えた。
「私ここに来る前に美月さんと少し話してきたよ。美月さんに言われたから涼ちゃんはアメリカに行くの?」
「…………」
「私は………私は…涼ちゃんと離れたくないよ……」
涼ちゃんの膝の上に乗せられた拳が力強く握りしめられた。
数メートル離れた場所にいる涼ちゃんとの距離はいまだに近づけない。私を見てくれない涼ちゃんは何を考えているんだか私にはわからない。
「これは私の我儘だってわかってるけど……アメリカに行ってほしくない……だって……だって……」
私の視界が歪んだ。昂った感情がいつの間にか目元に涙となって現れた。
「私…涼ちゃんに落とされたから………」
――私、涼ちゃんに恋に落ちたから
大きなツリーのある所に戻ってきたと思ったらちさきちゃんの携帯に着信があったらしく、ここで待ってろと言われベンチに座って待っている。
一体誰と電話をしているんだろう。離れたところで電話をしているから内容もわからない。
ただちさきちゃんはニヤと笑いながら電話をしている。
涼ちゃんは今頃どうしているだろうか……
あんなあからさまに逃げるんだから私と会いたくないのは確実だろう。けど、それでも、私は涼ちゃんに会いたかった。このままお別れだなんてしたくなかった。
「お待たせ凪沙」
通話を終えたらしいちさきちゃんがニコニコと笑いながら近づいてきた。
「うん」
「それじゃ、行こうか」
――悠木涼の所へ
「りょ、涼ちゃん見つかったの?」
「あぁ、もうバッチリ。今度は逃げられないから」
逃げられない?涼ちゃんは一体どこにいるっていうんだろう。
ちさきちゃんの先導でエレベーターの方へ向かっていく。
エレベーターに乗って上の階へ行き、降りた先はホテルのロビーだった。
「勝手に入っても大丈夫なの?」
「言ったろ、龍皇子家が経営もしてるって。話はもう通ってるから大丈夫だよ」
ホテルの受付にいる女性は私たちを見て丁寧にお辞儀をした。大勢のお客が利用するホテルでお客一人一人の顔なんて覚えてないだろうから、要ちゃんが事前に何かしたのかもしれない。制服を着た女子高生がこんなところにいるなんて不釣り合いでしかない。
ロビーを抜けてさらにエレベーターに乗り込んだ。
ホテルの利用者しか使わないエレベーターに乗って上の階を目指す。本当に涼ちゃんの部屋まで乗り込むのだろうか。
エレベーターが止まり扉が開いた先は、ソファやテーブル、自動販売機などが置かれていて想像していた宿泊用の部屋が並ぶ階とは違っていた。
ちさきちゃんがエレベーターから降りて私も後に続いた。
「あれ?龍皇子家の人がいるって聞いてたんだけどな」
キョロキョロと周りを見渡して人を探している。
廊下の角から遠くからでもわかるほどの大柄な人が現れてこちらに向かってきた。
「あれ?あの人――」
「うぉ!でけぇ……」
私たちの前まで来ると立ち止まり見下ろしてくる黒いスーツの人。
前に元彼から助けてくれた人だ。
「あ、あの!前に助けていただいてありがとうございます!」
「え?知り合い?」
「要ちゃん家の護衛さんだよ」
「龍皇子家の人か」
黒いスーツを着てサングラスをかけている大柄な人は、少し考えるそぶりを見せ口を開いた。
「………多分。人違いです。凪沙様を助けたのは私の兄だと思います」
どう見ても同一人物にしか見えない。
「双子なのでよく間違われるんです」
「あ、そうなんですね。失礼しました」
軽く頭を下げると、気にしないでくださいと護衛さんは軽く口を柔らかくした。
「こちらです。凪沙様、高坂様」
護衛さん(弟)の後を2人で付いていく。
“STAFF ONLY“と書かれた看板の横を抜けていき、奥の方まで進んでいくと護衛さん(弟)が扉の前で止まって振り返ってきた。
「凪沙。あたしここで待ってるから」
「えっ……」
「ちゃんと2人っきりで話してこいよ」
ちさきちゃんは“あたしの役目はここまでだぜ“みたいな表情をして親指をたて数歩後ろに下がった。
「凪沙様。よろしいでしょうか?」
上から声がかけられる。私は護衛さん(弟)を見上げて頷いた。
コンコンと扉が叩かれる。
少し待つと扉が静かに開いた。
隙間から見えたのは黒。室内が真っ暗なのかと思ったけれど、よく見ると黒のスーツ。見上げれば扉いっぱいに護衛さん(弟)とそっくりな護衛さんがいた。はち切れそうな黒のスーツとサングラスにオールバックにされた黒髪。見間違えても仕方ないと自分で納得してしまった。
「凪沙様。お待ちしておりました。中へどうぞ」
護衛さん(兄)がゆっくりと扉を開けて体をずらしていく。
中に涼ちゃんがいるんだと思うと、急に現実に引き戻されて心臓がバクバクと激しく鼓動を開始した。
開けられた扉を覗くと椅子に座り不機嫌そうな表情をしている涼ちゃんの姿が見えた。
中に入ると護衛さん(兄)は外に出て扉を閉めた。
私と涼ちゃん2人きりにされた室内。
涼ちゃんは私に気づいているはずなのにこちらに振り向きもしない。
やはり涼ちゃんは私のことを嫌いになって会いたくなかったんだ。胸が締め付けられる。どうしてこうなってしまったんだか私にはわからない。
「涼ちゃん」
涼ちゃんの方へ一歩近づいて呼びかける。少し涼ちゃんの体がこわばったような動きをした。それ以上近づいてはいけないと警告が頭のどこかで感じ取った。
「涼ちゃん……ごめんね。こんな無理やり」
「………」
俯いて何も言ってこない涼ちゃんに私は1人で話し始める。答えてくれなくても、私の声が届くのなら伝えたい。
「どうしても……このままお別れしたくなくて……涼ちゃんが……私に会いたくないのはわかったけど……でも、私は涼ちゃんにちゃんと伝えておきたいこともあって……」
俯いた涼ちゃんの表情はよくわからないけど、口元がぎゅっと力を込めたように見えた。
「私ここに来る前に美月さんと少し話してきたよ。美月さんに言われたから涼ちゃんはアメリカに行くの?」
「…………」
「私は………私は…涼ちゃんと離れたくないよ……」
涼ちゃんの膝の上に乗せられた拳が力強く握りしめられた。
数メートル離れた場所にいる涼ちゃんとの距離はいまだに近づけない。私を見てくれない涼ちゃんは何を考えているんだか私にはわからない。
「これは私の我儘だってわかってるけど……アメリカに行ってほしくない……だって……だって……」
私の視界が歪んだ。昂った感情がいつの間にか目元に涙となって現れた。
「私…涼ちゃんに落とされたから………」
――私、涼ちゃんに恋に落ちたから
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる