過去に戻った筈の王

基本二度寝

文字の大きさ
8 / 8

しおりを挟む
「殿下は倒れられて記憶が混乱しているのだろう。退出して休んだほうが良い」

父にしかみえない男は、ホボロンを会場から追い出そうとしている。

「いや、私にはまだやることがある。シェラティエラと話をせねば」

彼女に向き直る。
青緑の瞳の男に縋りついたままの彼女に。

「君には酷いことをした。申し訳ない。
子爵令嬢にうつつを抜かして君と婚約破棄などしてしまうなんて。
心を入れ替えるからどうか、もう一度婚約をしてもらえないだろうか」

きちんと謝罪し、もう一度とシェラティエラを願う。
周りはざわつき、戸惑う声も上がっていた。
王族が謝罪をするという事はそれほどまでに珍しい。
だから、ホボロンは周囲の声を気にも留めなかった。

こちらを真っ直ぐ見つめるシェラティエラに怯えの色は消え、隠れていた男の背から横へと移動する。

「…殿下。訂正したい箇所がいくつかございます。
私と殿下は婚約を結んだことはいままで一度もありません。私は幼い頃に婚約したのは現辺境伯様です」

「なにを言う。婚約していたのは私のはずだ」

「いいえ。私が愛するのは昔から旦那様一筋です。
それに、人妻は王妃にはなれません。殿下がいくら望んだとしても」

「っ…ならば側妃に」
「側室については、現在廃止になっています。現国王がお決めになられました。ご存知のはずですが」

父に似た男が横槍を入れる。

「そんなわけ、」

母が側妃を望んでいたのだから、そんなはずないのだが。

「前国王が、ずっと側妃にと望んでいた令嬢がいたせいで、王太后は心を痛めていました。国王は王太后の姿を見て側室制度を廃止しました」

「お祖父様にそんな人物が…」

いたのだろうか…?

「ええ。若くして過労で亡くなりましたので私の記憶も薄いのですが、確か…よく呟いていた名は…『シェラ…ティエラ』…と、?」

大公は記憶を辿りながら、口にした名前にはっとした。

「殿下、先程まで誰の名を呼んでいましたか」
「…」

ホボロンは理由がわからない嫌な感じを覚えた。

「辺境伯夫人を、ラフィテア殿をなんと呼ばていましたか」

ぐちゃぐちゃに絡まっている糸が少しずつ解けていく。

「ラフィテア、…とは誰だ」

口の中が乾く。青緑の瞳の男は先程なんと言った。

『私のラフィ』

ホボロンが声をかけたのはシェラティエラだ。

事の成り行きを見つめていたシェラティエラが、一歩前に歩み出た。

ああ。なんだろう。
すごく嫌な予感がする。

凛としたその姿はシェラティエラによく


「『シェラティエラ』は私の祖母です」

ホボロンは、目眩を起こし思考を放棄した。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

出て行けと言われた私が、本当に出ていくなんて思ってもいなかったでしょう??

睡蓮
恋愛
グローとエミリアは婚約関係にあったものの、グローはエミリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、グローは自身の機嫌を損ねたからか、エミリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてエミリアはグローの前から失踪してしまうこととなるのだが、グローはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はエミリアの味方をすると表明、じわじわとグローの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢

恋愛
  『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』  王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。    この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。 ※ご都合主義でゆるい設定です。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

知らぬが花

鳥柄ささみ
恋愛
「ライラ・アーデ嬢。申し訳ないが、キミとの婚約は破棄させてもらう」 もう何度目かわからないやりとりにライラはショックを受けるも、その場では大人しく受け入れる。 これでもう婚約破棄と婚約解消あわせて十回目。 ライラは自分に非があるのではと自分を責めるも、「お義姉様は何も悪くありません。相手の見る目がないのです」と義弟であるディークハルトにいつも慰められ、支えられていた。 いつもライラに親身になって肯定し、そばにいてくれるディークハルト。 けれど、ある日突然ディークハルトの訃報が入ってくる。 大切な義弟を失い、泣き崩れて塞ぎ込むライラ。 そんなライラがやっと立ち直ってきて一年後、とある人物から縁談の話がやってくるのだった。

【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す

干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」 応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。 もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。 わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。

処理中です...