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一
しおりを挟む公爵令嬢のカーリンは婚約者の王太子殿下と共に中庭を歩いていた。
傍目から見れば仲の良さそうな婚約者同士にみえるだろうが、二人の会話の内容は堅苦しい政務の事ばかりだった。
そこへ、令嬢の叫びが二人の注意を引いた。
「カーリン様!もうお止めになってください!」
「?あら、貴方は」
カーリンの行く先々で待ち伏せている男爵家の令嬢がどこからともなく現れ立ちふさがる。
彼女といえば、突然目の前で派手に転び、「カーリン様ひどいですぅ」と泣きながらどこかへ去っていく変わり者なのだ。
「止めるとは、なんのことでしょうか」
「しらばっくれないでください!」
生粋の貴族令嬢のカーリンには、しらば…なんとかという言葉の意味が理解ができなかった。
「私のドレスを見て、顔を見ても何も思わないのですか!」
男爵令嬢のドレスの裾から破けている。
ヒールで踏んだあともしっかり残っているので、踏まれて破れたのだろう。
深くやぶれているので、太ももまで見えてしまっている。
早く召し替えれば良いのに。
あのような格好で歩き回るのは些か破廉恥がすぎる。
「私を妬んで嫌がらせをしているのでしょう!王太子殿下、私の訴えをお聞き届けください。
そこの女は酷い女なのです。私を転ばせ背中を踏みつけるなど日常茶飯事。『この豚が』と顔を叩かれ罵られる日々なのです。彼女のような人間を国母に据えるのですか!
どうか今一度お考え直しを!」
男爵令嬢の頬は赤かった。
チークを塗り込んだような赤は、叩かれたと言うには不自然な形をしていた。
あんなに指先までくっきり手形が残るものかしら。
「っ…!それは、本当の事か…?」
王太子殿下がカーリンを見下ろす。
その顔は真剣なものだった。
「…長く婚約しておりますが、私をそのような人間だとお思いですか?」
即座に否定してくれると思うくらいには信頼関係があると思っていた。
恋愛感情はなくとも。
「っ本当です!殿下!信じてください!」
瞳を潤ませ、男爵令嬢は媚びた。
王太子殿下は男爵令嬢のその姿に興奮していた。
「カーリンっ!君はっ!」
王太子殿下のその様子に不敬だが、きっと睨みつけてしまった。
ますます顔を真っ赤にして、殿下は叫んだ。
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