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第二章

一転

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 一方その頃。

何故なにゆえこんな場所に来たのだ」

 マウトはたどり着いた島国が小さいことに不満を漏らす。

「こんな場所では国が創れぬ! 既に我々とは異種の人間が居るぞ。それも、どうやら病弱な様子。何もこんなに遠くに来る必要はないのではないか」
「この場所に、母の器に適した人間がおるのだ」

 アンクの言葉に、マウトは渋々納得する。

「こんなへんぴな所になあ……」



 アンクは嘘をついていた。

 ヌトの器になれる人間など存在しない。創造主はマウトやセト『死神』に消されたが最後、その再生方法などアンクには知る由もないのだ。ヌトの魂は現在ニフティが持っている。だがそれは、ニフティが『器』を担う神だから出来た、ただそれだけのこと。定着先をなくせば、ヌトの魂は冥界に逝く運命さだめ。イシスにかけた言葉は、せめてもの気休めだった。

「アンク様。ニフティはもう二度と、意志を発さないのでしょうか」
「そんなことはない。そうだシエル、ここでそなたの花を育ててもらいたい」
「それは……」

 シエルは辺りを見回す。ネズミや虫が這う土地を見て、顔をしかめた。

「厳しいだろうが、頼む。この土地に邪魔する以上、最大限の誠意を見せたい。彼らの病を治し、これから生まれるであろう子供が健やかに育つよう、そなたの花の力を借りたいのだ」

 アンクの気持ちに応えるように、シエルは笑顔を作って頷いた。

 先住民たちは一塊にまとまって距離をとる。好奇と不安の眼差しで、アンクたちを眺めていた。

「いきなり邪魔してすまない! 我々はそなたたちとは異種の存在だ。だが危害を加えるつもりなど決してない! まずは病を治す。その後で我らがこの土地に腰を据えることを、考えてみてはもらえぬだろうか!」

 このアンクの謙虚な叫びに、先住民たちは徐々に心を開くようになる。
 


◇◇◇


 
「アンク様! 今日はこんな石を見つけたよ!」

 紅色の石を手にした男の子が、アンクの元に駆けて来る。

「これ、ナオ。鉱山は危ないから勝手に入るなと、父上に言われていただろう」
「……ごめんなさい」

 俯くナオの頭を、アンクは優しく撫でた。

「綺麗な石だな。これを私に?」
「うん! 本当はアンク様の瞳の色に似た石を探していたんだけど、なかなかなくて」
「そうか。でも嬉しいよ」
 
 アンクの言葉に、ナオは嬉しそうに笑う。

「ねえ、アンク様の目は緑色? 青色?」
「そうだな、碧色かな」
「へき……しょく?」

 ナオが聞きなれない言葉に首を傾げていると、向こうから男性がやって来た。その形相に、アンクはフっと笑う。

「ナオ。怒られるぞ」

 ギョッとしたナオは、アンクの後ろに身を隠した。

「ナオ、また鉱山へ行ったな? いくら怪我の治る身体だとて、危険なことはするなと申しておろう! シエル様の花のおかげで得た丈夫な身体、大事にせねば罰が当たるぞ!」
「まあまあ、ナオも悪気はないのだ。デンにも土産があるのだろう?」
「……ない」

 ナオの言葉にアンクは目を丸くし、デンは頬をひきつらせた。

「ま、まあ。石はそんな簡単に見つからんしな」

 アンクのフォローに、デンは一つ咳払いをする。

「全く……父はアンク様に話がある。ナオは家に戻っていなさい」
「えー。まだアンク様とお話したい」

 ごねるナオ。アンクは視線を合わせるように腰を落とし、そっと微笑む。

「ナオ、次は森の池で魚を釣ろう。釣り竿が使えるよう、準備しておいてくれるか?」
「うん!」

 ナオは走って家まで戻る。その後ろ姿を見ながらデンが口を開いた。

「すまないな。随分、懐いてしまって」
「構わぬ。ナオはその名の通り、真っ直ぐで素直ないい子に育っておる。それでデン、話とはなんだ」

 デンは懐から紙を出した。そこに書かれた地図を見て、アンクは驚いて小声になる。

「なんと。遂に黄泉の国への行き方を見つけたのか?!」
「すまんが、確かな情報だとは断言はできかねる。そもそもアンクような神の存在自体が絵空事なゆえ、情報自体も尾ひれが付いていたり、定かではないのだ。ただ今回のこれには、多少の信憑性がある」
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