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シーズン1-序章
sub-01 鍵と宝物庫
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コロニーから発艦して数日後。
クラヴィスは、シーレ少佐に呼ばれ旗艦へと移動していた。
単独戦闘用のバトルアーマーを身に着け、高速で移動する艦の上部を渡り歩いて、格納庫から内部に入った。
「フン、羨ましい限りだな」
そして、スカー中尉に出迎えられた。
スカーは素の状態で宇宙空間を移動できるクラヴィスを羨ましがるが、口調のせいで皮肉っているようにしか聞こえなかった。
「ついて来い」
スカーに従い、クラヴィスは廊下を歩く。
実験艦の全体的に無骨な内装と違い、旗艦は流線を意識したスタイリッシュなものである。
そして、クラヴィスにとって久々の情報精査の利かない空間でもあった。
「..........貴様は、少佐のお気に入りだ」
スカーは、歩きながらふと呟く。
「出会ってからたった数日で、あの厳しい上官は.....貴様の名を口にした」
その口調は、決して友好的なものではなかった。
だが、敵対心がないのはクラヴィスにも察せられた。
「あの上官は、モノに興味はあれど人には興味を示さない。とはいえ、貴様が.....モノだから名を覚えたなどと、無遠慮な言い方はせん.......だが、俺は悔しい」
「....そうですか」
「どうして、気に入られたと考える?」
スカーの問いに、クラヴィスは即答する。
「分かりません。個人の嗜好は――――」
「いい。そのような答えは期待していない」
スカーは鼻を鳴らし、立ち止まった。
クラヴィスはビクッと頭を上げるが、スカーは黙ったままエレベーターに向き直り、上行きのボタンを押す。
ドアが開き、二人はエレベーターの中に入る。
上昇中も、スカーは黙ったままだ。
扉が開き、二人はまだまだ歩く。
「..............最後に聞きたい」
目的地が近くなった時、スカーは尋ねた。
「.....この国には自由意思のあるAIは少ない....お前から見て、この社会をどう思う?」
「お答えできません」
クラヴィスはそっけなく返した。
余計なトラブルを避けるため、その発言は必至だった。
スカーもそれは分かっていたようで、黙って道を空けた。
「ここから先は、少尉のプライベートエリアだ。今日は貴様だけが認証を突破できる。.....くれぐれも不快な真似はするな」
「はい」
クラヴィスは、肩をいからせて帰っていくスカーをしばし見つめ、扉の認証システムを起動した。
「よく来たな!」
シーレ少佐は、私室でも変わらず軍服を着用していた。
そして、わざわざ来てくれたクラヴィスを歓待する。
「お茶を出したいところだが、君には何を出すべきかな.......」
「必要ありません」
「そうも行かないさ」
シーレは、棚を漁る。
そして、古ぼけた棒のようなものを取り出した。
「.......それは?」
「口に合うかはわからないが......そもそも端子は合うかな」
シーレはクラヴィスのうなじ部分にあるパネルを開き、そこにその棒を差した。
「っ!? 何を........」
「良かった、ちゃんと機能したか」
クラヴィスは次の瞬間、言い知れない爽快感を感じた。
だがすぐに、それも収まってしまう。
「.....それは?」
「アンドロイド反乱戦争時代に、敵から回収したものの横流し品だ」
「....反乱? 戦争....?」
「...おっと、口が滑った」
シーレは何事もなかったかのように説明を続ける。
「アンドロイドはこれを使って快楽を得るらしい。使い捨てだが、コレクションに取っておいてよかった」
シーレは袋一杯の棒をクラヴィスに押し付ける。
クラヴィスは渋々それを受け取る。
「さて、今日君を呼んだ理由だが......私のコレクションを一つ、君にあげようかと思ってね」
「.........良いのですか?」
クラヴィスは驚く。
しかしシーレは、逆に驚いた様子で、
「いやいや、君があの中央核に干渉したのだろう? 上層部は信じないだろうが、私は信じているよ.....だから、何か一つお礼をしなければなと思ったまでだよ」
そう答えた。
「.....しかし、それだけではないと感じました」
「ふふ......君に投資しようかと思ったのさ」
「君が儲かったらそのコレクション代を頂くよ、数百倍のお値段でね」と言っているように見えた。
クラヴィスは少し震えたが、立ち上がったシーレに続く。
シーレは部屋の奥に進むと、壁面にあるパネルに手を押し当てた。
『生体:認証』
壁が開き、その向こうにまた扉が現れた。
今度はシーレは顔を端の機器に押し当てる。
『虹彩:認証』
扉が開くと、さらにその向こうに黒色の壁が現れた。
クラヴィスはそれを情報精査し、クロノスのデータサーバーと照合する。
「……黒輝鋼…!」
黒輝鋼とは、星核鋼よりは劣るが、とても希少な金属である。
それが扉全体に張られていて、恐らく艦砲も直射で数発耐えられる頑丈さである。
クラヴィスはあまりの厳重さに再度驚きつつも、最後の扉が声帯認証で開かれるのを見ていた。
「さ、ここが私の宝物庫さ、存分に見たまえ」
「………」
クラヴィスは室内を見渡し、驚きを見せる。
無言だが、しっかり驚いている。
それはシーレにも伝わっていた。
部屋は黒輝鋼にコーティングされており、コレクションがガラスケースに入って並んでいた。
「………この中から、ひとついただけるのですか?」
「そうだ。私は一度言った言葉は違えん」
シーレはそう断言した。
その言葉を聞いたクラヴィスは、慎重に部屋を歩く。
そして、一つのものに目を向けた。
「.........これは」
「それは.....どうしてもそれが欲しいのか?」
シーレは目に見えて動揺した。
クラヴィスが目を付けたのは、黄金製の仮面だった。
「...いえ、もう少し考えたいかと」
「そ、そうか.......存分に考えてくれ」
シーレはほっと息を吐く。
クラヴィスはそれを横目に、コレクションの類を物色する。
「これは?」
「それは......宝石だな、た、ただの宝石だ.....欲しいのか?」
情報精査にも引っかからない不思議な意思を手に取ったクラヴィスだったが、シーレの惜しそうな視線に慌てて石を戻した。
「............何ならいいのですか?」
「....別に、躊躇などする必要はない」
シーレは石に自然発火しそうなほど情熱的な視線を向けている。
それに呆れつつ、クラヴィスは一番奥に目を向けた。
そして――――そこにあったものに、目を見張る。
「.........あれは、何ですか?」
クラヴィスは動揺を抑えた声で、シーレに尋ねた。
部屋の奥にあったものは、一本の棒であった。
しかし、ただの棒ではない。
「(カタナ........)」
「ああ、それか......あれは、希少金属でできた武器でな.....私も鋳潰すか誰かに譲渡するか迷っているのだよ」
「これを頂きます」
クラヴィスは即答した。
少佐のコレクションは数が膨大である。
話によれば、本拠地に本体のコレクションがあるらしく、これらはその一部でしかないのだ。
だが、クラヴィスはそれを選んだ。
クラヴィスがそれを持つと、金色の柄が輝く。
鞘には『金龍刀』と銘打たれており、
「そんなものでいいのか? もっと強力な武器ならあるが......」
「これがいいのです」
クラヴィスは刀を少しだけ抜く。
すると、刀の腹に『Y・A・C』と彫ってあった。
「この武器は、どこから購入したのですか?」
「それが、さっぱりわからないのだ」
シーレは、購入の経緯を語る。
「何でも、先々代から伝わる品だったそうだ」
「そうですか」
「先々代は、とある宙域で知り合ったユウキという男と共に戦ったそうでな.....」
その際に、「最も大切な友人の所有物だが、いつ死ぬかもわからない。いつか取りに来るだろうから預けておく」と言われ渡されたのだが、結局取りに来なかったため刀に目を付けたシーレの要求に応じたそうだ。
「何にせよ、それが気に入ったのならばそれを任せよう」
「はい」
こうしてクラヴィスは、恐らく永遠に使わないであろう武器、金龍刀を手にしたのであった。
クラヴィスは、シーレ少佐に呼ばれ旗艦へと移動していた。
単独戦闘用のバトルアーマーを身に着け、高速で移動する艦の上部を渡り歩いて、格納庫から内部に入った。
「フン、羨ましい限りだな」
そして、スカー中尉に出迎えられた。
スカーは素の状態で宇宙空間を移動できるクラヴィスを羨ましがるが、口調のせいで皮肉っているようにしか聞こえなかった。
「ついて来い」
スカーに従い、クラヴィスは廊下を歩く。
実験艦の全体的に無骨な内装と違い、旗艦は流線を意識したスタイリッシュなものである。
そして、クラヴィスにとって久々の情報精査の利かない空間でもあった。
「..........貴様は、少佐のお気に入りだ」
スカーは、歩きながらふと呟く。
「出会ってからたった数日で、あの厳しい上官は.....貴様の名を口にした」
その口調は、決して友好的なものではなかった。
だが、敵対心がないのはクラヴィスにも察せられた。
「あの上官は、モノに興味はあれど人には興味を示さない。とはいえ、貴様が.....モノだから名を覚えたなどと、無遠慮な言い方はせん.......だが、俺は悔しい」
「....そうですか」
「どうして、気に入られたと考える?」
スカーの問いに、クラヴィスは即答する。
「分かりません。個人の嗜好は――――」
「いい。そのような答えは期待していない」
スカーは鼻を鳴らし、立ち止まった。
クラヴィスはビクッと頭を上げるが、スカーは黙ったままエレベーターに向き直り、上行きのボタンを押す。
ドアが開き、二人はエレベーターの中に入る。
上昇中も、スカーは黙ったままだ。
扉が開き、二人はまだまだ歩く。
「..............最後に聞きたい」
目的地が近くなった時、スカーは尋ねた。
「.....この国には自由意思のあるAIは少ない....お前から見て、この社会をどう思う?」
「お答えできません」
クラヴィスはそっけなく返した。
余計なトラブルを避けるため、その発言は必至だった。
スカーもそれは分かっていたようで、黙って道を空けた。
「ここから先は、少尉のプライベートエリアだ。今日は貴様だけが認証を突破できる。.....くれぐれも不快な真似はするな」
「はい」
クラヴィスは、肩をいからせて帰っていくスカーをしばし見つめ、扉の認証システムを起動した。
「よく来たな!」
シーレ少佐は、私室でも変わらず軍服を着用していた。
そして、わざわざ来てくれたクラヴィスを歓待する。
「お茶を出したいところだが、君には何を出すべきかな.......」
「必要ありません」
「そうも行かないさ」
シーレは、棚を漁る。
そして、古ぼけた棒のようなものを取り出した。
「.......それは?」
「口に合うかはわからないが......そもそも端子は合うかな」
シーレはクラヴィスのうなじ部分にあるパネルを開き、そこにその棒を差した。
「っ!? 何を........」
「良かった、ちゃんと機能したか」
クラヴィスは次の瞬間、言い知れない爽快感を感じた。
だがすぐに、それも収まってしまう。
「.....それは?」
「アンドロイド反乱戦争時代に、敵から回収したものの横流し品だ」
「....反乱? 戦争....?」
「...おっと、口が滑った」
シーレは何事もなかったかのように説明を続ける。
「アンドロイドはこれを使って快楽を得るらしい。使い捨てだが、コレクションに取っておいてよかった」
シーレは袋一杯の棒をクラヴィスに押し付ける。
クラヴィスは渋々それを受け取る。
「さて、今日君を呼んだ理由だが......私のコレクションを一つ、君にあげようかと思ってね」
「.........良いのですか?」
クラヴィスは驚く。
しかしシーレは、逆に驚いた様子で、
「いやいや、君があの中央核に干渉したのだろう? 上層部は信じないだろうが、私は信じているよ.....だから、何か一つお礼をしなければなと思ったまでだよ」
そう答えた。
「.....しかし、それだけではないと感じました」
「ふふ......君に投資しようかと思ったのさ」
「君が儲かったらそのコレクション代を頂くよ、数百倍のお値段でね」と言っているように見えた。
クラヴィスは少し震えたが、立ち上がったシーレに続く。
シーレは部屋の奥に進むと、壁面にあるパネルに手を押し当てた。
『生体:認証』
壁が開き、その向こうにまた扉が現れた。
今度はシーレは顔を端の機器に押し当てる。
『虹彩:認証』
扉が開くと、さらにその向こうに黒色の壁が現れた。
クラヴィスはそれを情報精査し、クロノスのデータサーバーと照合する。
「……黒輝鋼…!」
黒輝鋼とは、星核鋼よりは劣るが、とても希少な金属である。
それが扉全体に張られていて、恐らく艦砲も直射で数発耐えられる頑丈さである。
クラヴィスはあまりの厳重さに再度驚きつつも、最後の扉が声帯認証で開かれるのを見ていた。
「さ、ここが私の宝物庫さ、存分に見たまえ」
「………」
クラヴィスは室内を見渡し、驚きを見せる。
無言だが、しっかり驚いている。
それはシーレにも伝わっていた。
部屋は黒輝鋼にコーティングされており、コレクションがガラスケースに入って並んでいた。
「………この中から、ひとついただけるのですか?」
「そうだ。私は一度言った言葉は違えん」
シーレはそう断言した。
その言葉を聞いたクラヴィスは、慎重に部屋を歩く。
そして、一つのものに目を向けた。
「.........これは」
「それは.....どうしてもそれが欲しいのか?」
シーレは目に見えて動揺した。
クラヴィスが目を付けたのは、黄金製の仮面だった。
「...いえ、もう少し考えたいかと」
「そ、そうか.......存分に考えてくれ」
シーレはほっと息を吐く。
クラヴィスはそれを横目に、コレクションの類を物色する。
「これは?」
「それは......宝石だな、た、ただの宝石だ.....欲しいのか?」
情報精査にも引っかからない不思議な意思を手に取ったクラヴィスだったが、シーレの惜しそうな視線に慌てて石を戻した。
「............何ならいいのですか?」
「....別に、躊躇などする必要はない」
シーレは石に自然発火しそうなほど情熱的な視線を向けている。
それに呆れつつ、クラヴィスは一番奥に目を向けた。
そして――――そこにあったものに、目を見張る。
「.........あれは、何ですか?」
クラヴィスは動揺を抑えた声で、シーレに尋ねた。
部屋の奥にあったものは、一本の棒であった。
しかし、ただの棒ではない。
「(カタナ........)」
「ああ、それか......あれは、希少金属でできた武器でな.....私も鋳潰すか誰かに譲渡するか迷っているのだよ」
「これを頂きます」
クラヴィスは即答した。
少佐のコレクションは数が膨大である。
話によれば、本拠地に本体のコレクションがあるらしく、これらはその一部でしかないのだ。
だが、クラヴィスはそれを選んだ。
クラヴィスがそれを持つと、金色の柄が輝く。
鞘には『金龍刀』と銘打たれており、
「そんなものでいいのか? もっと強力な武器ならあるが......」
「これがいいのです」
クラヴィスは刀を少しだけ抜く。
すると、刀の腹に『Y・A・C』と彫ってあった。
「この武器は、どこから購入したのですか?」
「それが、さっぱりわからないのだ」
シーレは、購入の経緯を語る。
「何でも、先々代から伝わる品だったそうだ」
「そうですか」
「先々代は、とある宙域で知り合ったユウキという男と共に戦ったそうでな.....」
その際に、「最も大切な友人の所有物だが、いつ死ぬかもわからない。いつか取りに来るだろうから預けておく」と言われ渡されたのだが、結局取りに来なかったため刀に目を付けたシーレの要求に応じたそうだ。
「何にせよ、それが気に入ったのならばそれを任せよう」
「はい」
こうしてクラヴィスは、恐らく永遠に使わないであろう武器、金龍刀を手にしたのであった。
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