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序章

003-試行錯誤

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「ひ、広すぎる.....」

アドアステラ、その大きさは全長約300m、全高80m。
乗員は最大200人を想定しているその艦内は、あまりに広すぎた。
そもそも、私がさっきまで座っていたあの席も、「艦長席」だ。
機関室に降りるときに通り過ぎただけで、議事堂みたいな大きさのブリッジがあった。

「そういえばこの船、長距離航行ができるんだっけ」

グローリー級襲撃型重巡洋艦は、メッツライ級高速巡洋艦とインペリオ級長距離巡洋艦が合体して、そこに一個上のエレオノーレ級襲撃型戦艦の能力を一部受け継いだ夢の船だ。
だからこそ、この船は.......お兄ちゃんに贈られた、SNOで数少ない船なのだ。

「お兄ちゃんに相応しい船だよね」

でもお兄ちゃんはSNOを引退したから、その遺志は私が引き継いだ。
この船はそういう過去を持つ。

「食糧はあってよかった....」

食糧は食堂の冷蔵庫にあった。
士官食堂では本来料理が食べられる設定のはずなんだけど、素材がそのまま置いてあって、残念ながら私は料理ができない。
お兄ちゃんができるから、それに胡坐をかいていた自分が恥ずかしい。

「どうしたものかな」

とりあえず、当面のやる事は決まった。
まず、シールドリペアモジュールを使ってしまったのでその修理。
お兄ちゃんのやってるSSCだと、モジュールは使ってもなくならないけれど、こっちでは違う。
モジュールを使用すればするほど、耐久力が激減していく。
耐久力ギリギリまで使うことはできるけど、回復量が下がる。

「それから、あいつらの拠点を探さなきゃ」

とにかく今は物資が足りない。
それと、あいつらの拠点を襲って、メモリから星系図を解析する。

「サーマルステルスが燃え尽きるまで48時間......やる事は多いね」

流石にこうなるとは思ってなかったので、多分倉庫にもサーマルステルスモジュールの替えはない。
あれは材料が特殊で、作るのにも1週間を要する。
修理はできるが、どうもこの星系はほとんど海賊勢力のコントロール下にあると思う。
すぐに広域スキャンで引っかかってしまうだろう。

「一人で動かす船じゃあないんだけどなぁ…」

ゲーム中では一人で動かしていたとはいえ、こっちでは全設備の維持は全部自分でやらないといけない。
私は伸びをして、倉庫から台車を持ってこようと意気込むのだった。



結果として、数時間の重労働で準備はほとんど終わった。
やる気を出しすぎた結果、筋肉痛でほぼ動けなくなっちゃったけど。

「まさか砲台の修理にあんなに手間取るなんて…」

格納して直すって言うのは簡単なモノだけど、慣性制御を切らないと部品が重すぎて持てなかった。
勿論リペア缶っていう便利なものはあるけど、個数限定で作るのもナノマシンの自己増殖待ちなため、戦闘中などもっと急ぎの時に使いたい。

「何にせよ、これで十分戦える」

モジュールの修理も終わったし、危険宙域航行用から戦闘特化の組み合わせへの切り替えも終わった。
それから、ドローンのチェックも。
この船は五つのレーザー砲と二つのパルスレーザー、左右翼八発ずつのスマートミサイルで戦うが、どうしても素早く小さい船相手だと厳しいものがある。
コンピューターの演算領域が足りなくなるまで無限に射出でき、敵を追い詰めるドローンの存在は大きい。
もっと高性能な兵装として戦闘機もあるけれど、こっちはパイロットがいないと動かせない。

「モバイルセントリーが使えればよかったんだけどなぁ」

宇宙空間に静止して、その場で固定砲台と化すモバイルセントリー。
あれは射程内であれば理不尽なパワーを持つドローンのようなモノで、基本的に機動戦以外ではよく使われるものだ。
残念ながら、今回は拠点から拠点への移動中だったので積んでいない。
艦内工場で作ることはできるけど、当然時間が全然足りない。

「お兄ちゃんなら、この事態を予知して積んでると思うけれど、私じゃまだまだみたいだね」

反省する点は多い。
私は就寝するために、お風呂へと向かうのだった。
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