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序章

014-新『乗組員』たち

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――――屈辱。
それは、人によって基準が異なるモノ。
プライドを傷つけられ、地に這いつくばり辱めを受ける事。

「くっ!」

私はコンソールを叩く。
戦果はコルベットとフリゲート、合わせてたったの3隻だけ。
あそこでフリーズしてなかったら、せめてアフターバーナーに点火して回避行動に移行していたら、もう少し長く戦っていられたのに。

「お兄ちゃんの船に、あともう少しで傷がつくところだった....」

この船はシールドよりアーマー戦闘に重きを置いているけれど、基本的にアーマーまで攻撃を受けるのはシールド教信者の私のプライドが許さない。
お兄ちゃんだって、「アーマーを過信してシールドを無駄に削る奴はアホだ」っていつも言っていた。
今はサーマルステルスで隠れているものの、いつもの如く制限時間は存在する。
一応、あちこちを逃げながらダミーのビーコンをばら撒いているので、相手はこっちが見つかるまで移動ができない。
どちらにしろ周辺の星系はTRINITY.の巡回路だから、今アドアステラが居る方に逃げるなら、速攻で捕まえて沈めるつもりでいる。
勿論向こうはそれを警戒していて――――――

「あー......頭痛い....」

冷蔵庫からトマトジュースを出して、喉を潤す目的以外、頭をすっきりさせるためにラッパ飲みする。
ジャンプ疲労のせいで、ワープ後雲隠れしてから二時間は動けなかった。

「早急に動かないと」

もしあのままの戦力が残った状態でTRINITY.が到着したら、まず間違いなく彼らは全滅する。

「この世界で唯一の窓口が無くなるのはまずいだろうし.....それに、私の評判も、ひいてはお兄ちゃんの評判も.....」

許されない。
私はともかく、お兄ちゃんの評判を悪くするのは.......万死に値する。
自分を処刑するギロチンを用意しなければならない。

「いや、それじゃ償いきれない.....」

恐ろしい。

「やっぱり今すぐ行こう!」

私はいつもの服装に着替える。
最初はロールプレイのつもりで始めたけど、この格好でお兄ちゃんエミュレーターを始動させると......

「さあ、行こう! サーマルステルスモジュール、非アクティブ!」

不思議と勇気が湧いてくる気がする。
それに、今回少しだけ考えがあるので、それを試してみることにした。






轟音と共に、アドアステラは停止する。
超光速航行の停止の反動を外側に流す事で、完全な停止を実現している。

『さっきの糞野郎だ!』
『やっちまえ!』

待ってましたと言わんばかりに、ストラクチャーの中から船が飛び出してくる。
アドアステラ側も、無慈悲に遮蔽ドローンのリーパーと高機動ドローンのシュラッシャーをそれぞれ8機展開し、直後に加速を開始する。

『な、なんだァ!?』
『速すぎる、追えねえ!』

その速度はアフターバーナーのものとは一線を画するモノであった。
アドアステラの左右のウィングについた噴射ノズル、そこにはアフターバーナー以外の役割を持つ、Micro Sublight Drive......通称MSDと呼ばれる装置があった。
初速でアフターバーナーの最高速の四倍の速度に達したアドアステラは、レーザー、ミサイル、センサージャミングの一切合切を振り切り、拠点の端にまで到達する。

『逃げるだけかよ!』
『いや待て兄貴、違うぞ!』

端に達したアドアステラは、その状態で静止した・・・・

「では、アデュー」

仮面を被ったカルは、冷徹にコンソールに触れた。
直後、一斉にアドアステラへと接近していたコルベットとフリゲートの艦隊のど真ん中に、アドアステラが現れた。

『やべぇっ――――』
「.......じゃあな」

頭を押さえながら、カルはそれを起動した。
その名を、『TP-22――――――

『何だこの攻撃は!』
『シールド消失、旋回間に合わねぇ! 助けてくれ!』

――――Pulse Bomber』といった。
荷電粒子を分子の崩壊レベルにまで加速させ、電磁エネルギーを纏わせ全方向に射出する兵器である。

「.......その分、電力消費も大きいがな」

第二波が放たれ、シールドを剝がされて回避行動に移行中だったコルベットとフリゲートは纏めて薙ぎ払われる。
だが、第三波は放たれず、アドアステラはアフターバーナーを吹かし、ボロボロの残存艦隊を振り切って加速する。

「今の攻撃で.......少なくとも11隻は殺ったな」

つまり――――残存するコルベットとフリゲートは、合わせて11隻。
レーダーに映る熱源低下対象は6隻のため、実質的に無事な小型艦は5隻であった。
足の遅い巡洋艦と、まだ隠されている大きな熱源反応。

『お、お前ら.....』
『こうなったら協力し合うしかねーな! 糞が!』

アドアステラはコルベットとフリゲートの艦隊に包囲されつつあった。
速度で大きく劣るはずの5隻は、ストラクチャーからの巡航ミサイルの射線を確保するために立ちふさがっているのだ。

「全く.....愉しませてくれる」
「あ......あの....」

仮面の下で歪んだ笑みを浮かべるカルだったが、その時服の裾を掴む何者かによって、現実に引き戻された。

「どうした?」
「ごしゅじん....さま、次はどうすれば、いいですか」

カルの傍にいたのは、カルよりも大きな背の、しかし少年のような無垢さを纏った男だった。

「ああ、ドローンを戻したんだな。....なら次は、あれが全部白色になったら、黄色の場所を触るんだ」
「.....は、い」

そう。
カルは多すぎる処理を、匿った元奴隷に任せたのだ。
といっても、複雑すぎる操作は、まだ幼い彼ら彼女らには無理だ。

「”人を育てるのは、実地から”......忘れないよ、お兄ちゃん」

アドアステラから放たれたスマートミサイルが、ネオエッタ級を執拗に追随し、至近距離で爆発した。
シールドが低減していたネオエッタ級は、その長所である旋回速度を生かしきれずに粉々に吹き飛ぶ。

「.....さぁ、見せてもらおうじゃないか、戦闘陣形の正しい例を.....!」

格好良さげに、カルは呟く。
その後ろ姿を、先程の男はじっと見つめていたのだった。
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