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序章

013-弱点

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ハイパーアウトすると同時に、ローカル回線が騒がしくなる。

『おい、今日の客は二時間前ので最後だよな!?』
『TRINITY.か!?』
『いや、たった一隻だぞ....?』

相手が混乱しているうちに、私は事前準備を行う。

「リーパー8、射出! CJD起動!」

リーパーを積載している最大数射出し、Compact Jump Driveと呼ばれるモジュールを起動する。
それが終わると同時に、あちこちの建造物からコルベットやフリゲートが出撃してくるのが確認できた。

「メレッタ級コルベット7、キリオロイト級コルベット4、カリストル級フリゲート5、ネオエッタ級フリゲート9、ジーグベルム級巡洋艦1......流石に数が多いか」

それに、これだけとは思えない。
こちらが一隻だから、戦力を出し渋っているのだと思う。

「まぁ、いい」

あと18秒で、CJDが起動する。
CJDは消費した電力に応じた距離を一気にジャンプするモジュールだ。
これで距離をとりつつ、リーパーによる奇襲で一隻ずつ無力化する。
ドローンに攻撃が行くかもしれないけど、彼らの砲は恐らく対艦隊仕様、高速で動き回るドローンに当たるとは思えない。

『立ち止まってるぞ!』
『やっちまえ!』

敵が一斉に向かってくる。
でも...

「もう遅い」

CJDが起動し、船は一瞬にして敵の眼前に躍り出た。

「ッ、かは!?」

その時。
胸を貫くような激痛が走る。
少しの頭痛もあったが、すぐに治った。

「これ、は......」

まさか、ジャンプ疲労?
SNOでは、連続でジャンプゲートやワームホールをくぐると、パイロットの身体に大きな負担が掛かって動けなくなっていた。
まさかそれがこの世界でも起きるとは思わなかった。

「次からは気をつけないと...ねっ!」

こちらの射程に入ってきた敵艦を一斉にロックオンする。
敵もこちらをロックオンしようとしてくるが、こちらも被弾を減らす準備は無数にしてきてある。

「敵のスキャンは光学スキャンによるものと断定、スキャンキャンセラーを起動」

スキャンキャンセラーによって、敵のロックオンを打ち消す。
なかなかにCPU処理を食うモジュールだけど、まだ余裕がある。

「パルスレーザーにエネルギー充填開始」

敵コルベット、特にキリオロイト級は速度が速く、もうこちらの射程圏内まで到達している。
もともとここから更にジャンプを重ねる予定だったとはいえ、驚異的な速度だ。

「ウェポンシステム、オンライン。センサーブースター起動、ターゲットチップオンライン」

アドアステラの戦闘艦としての側面が、今表に出ようとしていた。

「デュヴァーン5、ロードナイト4射出!」

デュヴァーンとロードナイトを射出し、デュヴァーンで捕まえて攻撃型ドローンのロードナイトでシールドを削る。

『くっ、速度が上がらねえっ』
『あれを撃ち落とせ!』
『ダメだっ、当たらねえ!』

パルスレーザーの照準が、ピッタリと合う。
私は無慈悲にコンソールを操作し、発射を指示する。
流石にあのボロ船と同じとは言えなかったらしく、パルスレーザーを受けたコルベットは素早く射程範囲からの離脱を試みる。

「デュヴァーン、TAL起動!」
『くそっ、引っ張られてやがる! 速度が上がらねえ!』

私はその隙に、一番、二番砲塔をコルベットに向ける。
宇宙でこの距離はほぼ当たらないが、当たらなくてもシールドに損傷を与えることは可能だ。

「仰角よし、発射!」

コルベットがクロスポイントに入ったのを確認し、私は射撃開始の指示を出す。
遠距離用の拡大型クリスタルによって変調されたエネルギービームは、空間を進むにつれその幅を広げ、コルベットを巻き込む。

『クソッ! シールドをやられた、離脱する!』
「WDA起動!」
『なっ、クソ――――』

予想通り、ワープドライブアンカーはワープを中断させるだけではなく、相手の出力系統に異常をきたさせる事が出来た。
足の止まったコルベットに第二射が直撃し、コルベットはその大部分を失って飛散した。

「更にジャンプっ!」

CJDが起動し、直後に一瞬視界がブラックアウトする。
熱いお風呂に長く入ってから出た後みたいだ。

「まだ飛べるよね......?」

流石に次は死ぬかもしれない。
でも、これは最初ファースト・の一撃ストライク
無視できない被害を与え、あちらを逃げられない・・・・・・状況へと持っていくことが大事だ。

「射程内にフリゲート二隻接近、艦種識別.....カリオストル二隻、シップスキャン開始、武装から予想される相手の射程距離は.....」

その時、ミサイルの接近警報が響く。
同時に、ドローンの交戦アラートも。
さっき宙域に放置してきたデュヴァーンとロードナイトがメレッタ級コルベットと戦闘しているのがレーダーに映っていた。

「あー........面倒くさい!」

やる事が多すぎる!
他に船員でもいれば.....というかそもそも、この船って本来一人で動かす設計じゃない!
ゲームの時は手足のように動かせたけど、やっぱり誰か一人でも雇うべきだった。
お兄ちゃんの聖域サンクチュアリに私以外を入れるつもりはなかったけど、無事に帰れたら本当に誰かを雇おう......

「いっ、いつの間に.......ドローン戻って来て!」

シールドの出力が20%まで下がっている。
相手の基地からの巡航ミサイルを、足が止まった隙にもろに受けていたみたいだ。
今回の構成上、爆発系には滅法弱い。
本来は速度で振り切れる想定だからだ。

「ドローン収容完了、ワープイン!」

半ば逃げるような形で、私はアドアステラをワープさせたのだった。
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