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序章

020-新たなる旅立ち

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それから数日後。
アドアステラは修理を完了し(流石にナノマシンによる高速修復では、本来の硬度の材質にはならないため)、希少鉱石の船体のいくつかをこの世界での高価な素材に置き換えての船出となった。

「御主人、各部点検が終わりました」
「チェックリスト通りにか?」
「はっ!」

タコ頭.......ノルスと、狼みたいな人間のファイスは、元奴隷の中で最も精神の成長速度が速かった。
この数日で、簡単な確認項目などのチェックを完遂できるようになった。
忠誠心も高くて、これなら船員として雇える。
もう少し賢くなったら、給料を出す旨を伝えてみようかな。

「あっ...それから、主人...」
「どうした?」
「二番カーゴベイに、見慣れぬ荷物が入っております、危険性はなさそうなので、ご確認を」
「分かった、すまない」
「ありがたき幸せ」

ファイスは忠誠心が一番高いと言っても過言ではない。
この世界のインターネットのようなもので調べた結果によれば、ロートラ星の固有種である狼人という種族らしく、上位者を重んじ敬う種族だという。
ノルスはクローリア星人で、途轍もなく賢く哲学を重んじる長命種なのだそうだ。
ノルスが忠誠を誓ってくれているのは、合理的に考えて私の元にいた方が利益があるからだろう。
もし彼らが一人の人間として生きていける事があるのなら、その時は改めて聞いてみることにしよう。

「ごしゅじんさま、ぜんぶおわりました!」
「偉いぞ」

金髪イケメン...しかし中身は幼児...のケインは、私に褒めてもらおうと頑張っている。
でも分別はあるようなので、かなり賢い部類ではないだろうか?

「よしよし」
「ふぎゅ」

私は彼の頭を撫でてやる。
精神が幼いとはいえ、大人の男を跪かせて撫でるこの構図はかなりアブノーマルな気がしてきた。

「さぁ、全員ハイパードライブ起動準備!」
「「「「「「了解!!」」」」」」

基本的な命令はわかるようになってきたので、全員が全員それぞれの姿勢でハイパージャンプに備える。

「今回私たちは身分証を持っているから、スターゲートが使えるんだよね」

今私たちがいる星系はアルキネストで、ここから二日かけてハイパースペースで移動し、アルキネストの端にある「スターゲート」を使う。
古代の遺物で、干渉も停止も出来ないが、検問所があって無法者には使えない設備で、星系と星系を結ぶ重要なインフラだ。

「ハイパースペースに移行!」

窓の外が極彩色に染まり、シャッターが閉じて視界を守る。

「さて、到着の48時間後まで、自由時間とする!」
「「「「「「了解(はーい!)!」」」」」」

ブリッジに、歓声が満ちる。
ジムのある場所に私が設けた遊び場か、食堂に行くのだろう。

「.........」

私はマスクを外し、ブリッジを見渡した。
そして、無言で艦長室に上がる。

「......お兄ちゃん」

艦長席に座って、コンソールを操作する。
そして、古い古いログを漁る。

「.......やっぱり、あった」

6年前。
私がメイルシュトロームに入るまでお兄ちゃんから受け継いだプレイヤーコンソーシアム連合の集合写真を呼び出す。

「..........きっと、この船で....お兄ちゃんみたいに格好良くなるから」

画面にある写真は、お兄ちゃんのアバターが他のプレイヤー達と肩を組んで、笑っている写真だった。
アドアステラは、お兄ちゃんが彼らと共に出場したConsortium Tournament(コンソーシアムトーナメント)の景品だ。
たった一人にしか与えられないそれを、仲間たちは惜しげもなくお兄ちゃんに進呈した。

「.......」

アドアステラのほかにも、CT船はたくさんある。
お兄ちゃんは何度もCTに出たので、私に託してくれた船もたくさんあった。
その中でこの船に転移したんだから、それには特別な意味がある。
それに......

『コウケツナ タマシイ ニ ワガイノリヲ ササゲヨウ』

あの「影」も。
考えることはたくさんある。
私は席に腰掛けたまま、目を閉じた。






――――ブライトプライム、第三惑星5番ステーション。
そこで、一人の男が大きな声を上げていた。

「修理費、三千万MSCだと.....?」
「はい、船体の損傷が激しく........」

その男は唇を噛む。
胸にはシルバーランクを表す銀の傭兵バッジが着けられ、「アルゴ・ヴェンタス」という名が刻まれていた。
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