もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

016:わん太郎の冒険🐾~旅立ちの章

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 ◇◇◇

 一方そのころ――。

 戦極が馬小屋へと運ばれている頃、美琴とわん太郎は草原を歩いていた。
 どこまでも続くかのような新緑の絨毯じゅうたんは、月明かりを受けて幻想的に輝きを増す。

 そんな気持ちの良い場所をわん太郎は、可愛らしい小さな頭にコブを三つ盛り・・・・・・・に作り、ちょっぴり涙目であるく。
 少し宙に浮いている悲恋美琴は、わん太郎の背中に乗っていた。

「うぅぅ……痛いんだワン。いきなり殴らなくてもいいと思うんだワンよ!」
『どの口が言うのかな? かな? そんなにご希望なら、サーテ〇ーワンアイスの盛りを超えて、重ねてあげてもいいんだよ?』
「ええ~!? それはカンベンしてほしいんだワンょぅ」

 まあるい青いおめめから、ぽろぽろと涙を落とすわん太郎。
 落ちたそばから凍ってしまうのが不思議な光景だったが、今はそれどころじゃない。
 妖刀の中の人、美琴さんが激怒の最中なのだから。

『それで、わん太郎……どうしてこうなったのかな?』
「だからね、ワレにも分からないワンよ~。異怪骨董やさんに帰って来たらね、いきなり吸い込まれちゃったワン」

 歩くたびに〝ぽむぽむ〟とあざとい足音が聞こえるのにイラっとしつつも、美琴はわん太郎の話を聞く。
 どうやらここからが本題のようだ。

『……それは聞いたけど、私がいいたいのは〝何であの形・・・で突っ込んで来たのか〟って事なんだよ』
「えー? それはワレに言われても知らないワンよ。吸い込まれて『誰かタスケテー』って叫んだら、目の前に女幽霊とあるじが居たんだワン」
『うん、そこまでは理解出来るんだよ。でも……どうして氷の塊になって・・・・・・・ぶち当たって来たのかな? かなぁ?』

 その問に、わん太郎は可愛らしい小さな体を震わせ、顔を青く染める。もともと青白いけど。

「人は……誰でもまちがいをするんだワン」
『人でもないし、異世界送りの途中で、私と戦極様を弾く子狐もいないと思うんだよ?』
「そそそそ、それはアレだワン! 女幽霊の怒りが恐ろしかったから、思わずガードをしただけだワンよ! 俗に言う正当防衛だワン!」
『そう……私と戦極様の、俗に言う正当な怒りを思い知るんだワン』

 そう言うが早いか悲恋美琴は浮き上がり、わん太郎の頭にコブを量産する。
 見事、わん太郎の頭には六つのコブが可愛く鎮座したのを見て、美琴はため息を漏らす。

『ハァ~。あんな氷の塊で突っ込んで来なければ、今頃は戦極様と一緒にいられたものを』
「ぅぁぁぁぁん。痛いワンよ~。ぅぁぁぁぁん」
『その程度ですむだけ、ありがたく思うんだよ! もぅ……戦極様どこに行ってしまったんだよ……』
「ぐすッ……酷い女幽霊だワンよ。でもワレは負けないのです、だってエライんだワンから!!」

 なぜか二本立ちになると、悲恋美琴を頭上に掲げ抜刀する。
 どうやって子狐が抜刀したのか分からないが、そこが不思議エライな存在だからなのだろう。

『もぅ、私で遊ばないでほしんだよぅ……それで戦極様の気配はする?』
「ふふふ……ワレを誰だと思っているワン? とってもエライんだわん! あるじぃの香りは……」

 わん太郎は無駄に両目を、LED仕様のぬいぐるみのように光らせると、抜刀した美琴を道の向こうへと指す。
 その顔は自信に満ちており、美琴も思わず「おおおお!!」と見入る。

「フフン、さぁ行くワン! ワレに着いてくるワンよ~!!」
『わん太郎、期待しているんだよ!! 待っていてね戦極様、今すぐ会いに行くね』


 美琴を背中から出した氷でホールドする。
 だがこれが今の限界であり、大規模な氷の術は今のわん太郎には不可能。
 それでも背中になんとか固定できたのは、二人とも嬉しい誤算だ。
 
 動きやすくなったわん太郎と美琴は、頷くと驚く速さで走り出す。 
 二つの月光を浴び二人は草原をゆく。次こそは戦極に会えると、期待に胸を膨らませて疾走するのだった。
 

 ◇◇◇


 ――戦極は兵士により馬小屋へと放り込まれる。
 そこは糞尿があちらこちらへと落ちている場所であり、悪臭というレベルを超えていた。
 あまりの臭さに顔を歪めながら現実を見る。

「ここは……あぁそうか。俺はあの女の魔法にやられて……」
「お、気が付いたかい坊や」
「あんたは誰だい? すまないが、まだ体がまったく動かせなくてね」

 俺の気配察知でも分からないほどのヤツか……敵だったら死んでいるな。
 だが一体どこから声がするんだ? あちこち反響して何十にも聞こえる感じだ。

「ハハハ、聞いた通り図太い性格のようだ。自分はフェリスと言うここの番人さ」

 番人? それにしてはなんというか、例えるなら野獣のような……。

「獣臭いって顔だね?」

 フェリスはそう言うと、戦極が寝かされている藁山わらやまの向こうからのぞきこむ。
 その圧倒的な姿を見て、戦極は言葉をうしなった。

「ッ――――」
「ハァ~やっぱりキミもかい? この姿を見てみんな怖が――」

 フェリスが残念そうになげくのを、戦極は言葉をかぶせて止める。

「――なんて美しい毛並みと体躯たいくだ……そしてその立髪が実に魅力的だ。月明かりが差し込むそこで見ると、黄金に輝いてみえる」
「え? な、ちょ、ちょっと待っ」
「しかもこの圧倒的な存在感は一体なんだ!! そして何と言ってもベルベッドのような羽が最高だ!」
「お、落ち着いてよ! ねぇ!」

 戦極は動かない体はそのままに、瞳でだけフェリスを見つめる。
 その様子に顔を赤く染め、戦極の言葉に動揺どうようを隠しきれない。

「それにだッ!! その美しい顔はまさに異世界の至宝と言うべきものだろう。ライオンのしなやかで、黄金色の体。黒紫のベルベッドのような羽。そしてそんな体に妙にマッチしている宝顔ほうがん! たまらない……あぁなんて美しい組み合わせだろうか。なぁ、そうは思わないか? 美しいマンティコアのお嬢さん」
「も、もう知らないだから!! 貴方あれでしょ! へ、変態さんだああああ! 馬鹿あああああああ」

 フェリスはマンティコアだった。体長五メートルはある大きさだが、戦極に叫びながら逃げていってしまう。
 それもただのマンティコアじゃなく、言葉を自在に操れるほどの知力を持つレア種。
 そんな事を知らない戦極は〝いつもの悪い癖〟で、見たものが美しければ惚れ込むと言う、どうしようもない美術愛の持ち主でもあったのだった。

 フェリスが言うように十人が戦極を見たら、なぜか二十人が口を揃えていうだろう、骨董狂いの変態だと。
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