もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

017:天と地と

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「チィッ逃げたか。もっと細部まで見せてほしかったが……」

 約束の月は二つ昇り、無事に三百年前と同じ世界に来れた。
 が……ここは一体どこなんだよ。

 はぁ、それにしても俺は本当に異世界へと来たんだな。
 まさかの空想上の生物、マンティコアといきなり遭遇とか、普通は死んでいるな
……ハハ、笑えねぇ。

 俺が目指す場所じゃないのは間違いないし、何より周りは敵だらけだ。
 さっき桜たちが話していた内容が、うっすらと頭に残っている。

「どうやら敵も一枚岩じゃなさそうだ」

 そうすると、俺たちをどう利用するつもりだ?
 絶対にろくなことでは無いのは確定だし、バーゲンの野郎の言葉……〝最大戦力〟ってのが気になる。

 戦力って言うからには武力を背景に悪さ・・をするんだろうが、ライオンマンライオスと爺さんがそれを食い止めている感じではあったか……。
 
「ふぅ……ココの国民も俺も、塗炭とたんの苦しみ確定……か……」

 そう戦極はつぶやくと、眠りに落ちてしまう。
 その様子を、そっと柱の陰からフェリスは見守るのであった。


 ◇◇◇


 ――そのころ。

 宮中晩餐会きゅうちゅうばんさんかいの会場では勇者たちが貴族たちに囲まれ、異世界の話を得意げに話す。

「なんと!! 眠らない町にジドウシャと言う、馬がない馬車が走っているのですか!?」
「あぁ~だから何度言っても分からねぇオッサンだなぁ。もうそれでいいわ」
「お待ちになって! そうすると、その目の化粧は普通にできるものなのですか?」
「そそ~、誰でも簡単に出来るつ~の。アタシそれの動画配信してたしぃ」
「おお~その顔の魔具が強さの秘密ですかな?」
「あ、い、いえ。その僕目が悪いもので……」
「まぁまぁ。ふっくらとした体型がまた可愛らしいですなぁ。どうです勇者様。うちの息子は勇者様のような体型が好み。ぜひともおすすめですぞ?」
「え!? い、いえそんな……ん? って、私そんなに太っていません! ……太っていないよね?」

 勇者たちが貴族たちに囲まれているころ、豪勢な皿は際限なしに増えていく。
 一枚一枚が高価だとひと目でわかる皿には、見たことのない料理が色とりどり並ぶ。
 その料理は味はむろん、見た目でも勇者たちを魅了した。 

 見た目はなにも入っていない琥珀色こはくいろスープをさらに上品に仕上げ、のんだ瞬間驚くほど素材の旨味で口が喜ぶ魅惑のスープ。
 見た目はスイカのような、丸い野菜。それにナイフを入れると、バラリと繊維がほどけるようにサラダになるビックリ野菜。むろん味は苦味もなく旨味だけが残る。

 身がひきしまった白身の魚に、ルビーのような光り輝く赤いソースがかけられたもの。
 豚肉よりも上品なさしが適度に入り、肉自体から恐ろしく食欲をそそる香りを放つ、薄く切られたパンチェッタ。
 
 そして、何かの動物だろうか。全長五メートルほどのワゴンに載せられ、会場に運び込まれた巨大な肉塊に会場はざわつく。

「お、おい。アレはまさか……」
「間違いない、見てみるがいい。あの雷がほとばしったような角を。そう、あれは雷牛だ!!」
「「「オオオオオオオ!!」」」

 先程みた料理や、その他の料理のインパクトが一瞬で吹き飛ぶ。
 そのくらい強烈な存在感と、香ばしい香りを放ち会場の視線を釘付けにした。

「す、すげぇな……あんな牛とかいるのかよ。やべぇ世界だってのは良くわかったぜ」
「アンタ復活するの早すぎぃ。耳治ってんじゃん? 魔法やばたーん」
「うっせぇ……クソ、戦極の野郎マジで許せねぇ」
「昇司君、もうそう言うのはやめようよ」
「黙れメガネ! 次はテメェと模擬戦してやんよ」
「ひぅ、ご、ごめん」
「そ、それよりみんな。ほら、雷牛が解体されるよ」

 無邪気に喜ぶ二人と、微妙な表情の剛流。
 そんな三人のやり取りを見て、これから桜は不安になる。
 
 やがて勇者たちや、会場の全員に雷牛が給仕きゅうじされると会場がどよめく。
 薄いピンク色の肉に、真珠色のふしぎなソースが添えられて、厚さ四センチの大きな肉が目の前に置かれる。
 
 ナイフを入れた瞬間、外皮が〝パリッ〟とはじけ、内部からあり得ない量の肉汁が吹き出す。
 そのなんとも言えないスパイシーな香りに全員が酔いしれると、国王のセルドが話を始める。

「みなの者、今日はよく集まってくれたぶふぅ。食べながらでいいから聞くぶふぅ。みなも知っての通り、勇者が我が国に降臨したぶふぅ!」

 会場は割れんばかりの拍手と声援で満たされる。
 それを満足気に見たセルドは鷹揚おうようにうなずく。
 手に持つ王笏おうしゃくを雷牛へと向け、その出処をこれでもかと自慢。

「そんな記念すべき日に間に合うように、先日発見されたダンジョンを下民の部隊を送りこみ、一階のボス部屋にいた雷牛を討ち取らせておいたぶふぅ!」

 湧き上がる会場。それもそのはず、雷牛を討伐するには上位の冒険者のパーティーが最低二つ。
 それが一般人がしたとなれば……阿鼻叫喚あびきょうかんである。

「「「オオオオ!!」」」

 その意味がわかる貴族たちは、目を輝かせその様子を思い浮かべる。
 だからこそ、この貴族が口を開くのは当然。

「陛下! それはまた楽しい余興でございましたなぁ。して、勇敢に散った・・・・・・者たちは何名ほどで?」
「ふふふ、そちも好きぶふぅ。聞いて驚けよ? なんと……大きめの村一つの住民を使ったぶふぅ。だから数は知らぬぶふぅ」
「「「オオオオオオ!!」」」
「当然そんな事では狩れるはずもなく、後ほど城の騎士がトドメをさしたのは……秘密だぶふぅ」
「「「ハッハッハッハ!!」」」

 割れんばかりの拍手と、村人への侮蔑ぶべつの表情。その後の結果に恍惚こうこつとする貴族たち。
 その意味をやっと理解した桜と剛流は、震える唇をなんとか開く。

「う、ウソでしょ。この料理を作るためにそんな……」
「剛流くん、私もう吐きそうかも……」

 昇司と真乃依はそんな事に興味なく、最高の肉を口いっぱいにほおばる。
 そんな二人の「マジでうめぇ!!」「これマジやばたにえん!!」と、楽しむ声を聞くだけで気分が悪くなるのだった。
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