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異世界の残酷な洗礼編

018:料理長

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 狂気の晩餐会ばんさんかいがおわり、勇者たちはそれぞれの部屋へと戻る。
 昇司は終始、戦極へのうらみ節を貴族たちに話しており、その規格外むのうさも喧伝けんでんしていた。
 真乃依も何やら持ち上げられていい気分のようであり、今後の活動に支障が出そうだと桜は思う。

 剛流と桜はそんな部屋から抜け出し、剛流が見張りをかってくれたので、桜が晩餐会の料理をうまく隠し持ち、戦極へと差し入れに向かう。

「じゃあ剛流くん、よろしく頼むね」
「う、うん。僕が彼らの事を見ておくよ。桜ちゃんも気をつけてね?」
「ありがとう、じゃあ行ってくるね」

 先程給仕の人たちが出ていった場所を、桜と剛流は二階の部屋から見ていた。
 そこから外に出られるようで、桜もそれを真似た形だ。
 厨房を抜け、勝手口へと差し掛かった瞬間、背後より声をかけられる。

「おや? 勇者様じゃないですか。どうしてこんな場所へ?」
「え!? あ、あの、その……」

 声をかけた人物、それはこの城の料理長であり、本日の料理の総監督である。
 眼の前の男性に桜は口ごもる。そんな彼女を見た料理長は「ははぁん」と一言もらすと、桜へむけて棚にある袋を差し出す。

「その体じゃ腹も減るでしょう。いいでしょう、この袋の中には携行食けいこうしょくが入っています。日持ちもいいし、不衛生な環境・・・・・・でも長持ちする自慢の一品です」
「え……っと? そ、そうなんです! お腹が減っちゃってアハハ」
「ふふ、素直な事はいいことですね。入り口の鍵は開けっ放しにしておきますので、帰って来たらしめてください」
「え!? まさか、あなたは全てを知って」

 料理長はくるりと桜へ背を向けると、思い出したように話し出す。

「あぁそうそう。ひとり言ですが、本日召喚されたのは五人と聞いています。聞き間違いでしょうが、もし本当に五人目がいたら腹もすかせているでしょう」

 そう言うと料理長は、元に向き直ると左目をウインクする。
 それで全てを察した桜は、お礼をいう。

「あの、私は田中桜と言います。あなたは?」
「おっと、申し遅れました。私はここの料理長を務めるものです。この時間は大抵私一人なので、またお腹が減ったら何時でもきてくださいね」
「ありがとうございます! では外でご飯を食べて来ますね」
「はい行ってらっしゃい。馬小屋はそのまま真っすぐ行って、大木を左に曲がればすぐにわかります。その中では驚かないようにしてくださいね」
「? 分かりました。では行ってきます」

 料理長はそう言うと、桜の後ろ姿を見送る。
 そして今後の事を思うと、このままではダメだと考える。
 まずは携行食の味をよくし、量を増やすことを決めるのだった。


 ◇◇◇


 ――桜は城を抜けると、料理長の言うように大木へとつきあたる。
 そこからのぞく、美しい月夜に心を奪われると同時に、異世界だと思い知り涙があふれ出た。

「ぐすっ……ママ、みんな。今すぐに会いたいよ……って、いけない。戦極さんはもっとひどい目にあっているはず。急いで食事をとどけなきゃ」

 桜は夜道を走る。その時感じた違和感、それはステータスの恩恵で、走るスピードまであがっていた。
 
「なにこれ凄い。私がこんなに早く走れるなんて、うそみたい。ふふ、七海ちゃんが見たらきっと驚くよね。いつも太い体で遅いって馬鹿にしちゃってさぁ……七海ちゃん今頃なにをしているかな……」

 そんな事をつぶやきながら、結構距離がある馬小屋の前につく。
 入る前からとてつもない悪臭で、桜は思わずえずき口をおさえた。

「うっぷ、何ここ。馬がいるから目的の場所だろうけど、酷い臭いだよぅ。戦極さんこんな場所に本当にいるの?」

 恐る恐る中へと入る。外よりなお酷い悪臭が桜をおそい、おもわず可愛らしい鼻がゆがむ。
 内部はランプの炎なのか、薄暗い明かりがメインであり、馬たちは大人しく寝ているようだった。
 桜は馬を起こしてはいけないと迷ったが、結構広い場所なので小声で戦極を呼ぶ。

「戦極さーん。おーい、戦極さーん……いないのかな?」
「おや。もう一人お客とは、今日は馬小屋うちも人気で嬉しいね。もっとも一人は変態さんだったけど」

 ふいに声をかけられて背後を振り向く。
 そこにいたのは、体がライオン・羽がコウモリ・尻尾が謎の生物であり、顔は絶世の美人であった。

「ぇ…………キャアアアアアアアア!?」

 桜の声で一斉に馬たちがいななく。
 あまりの金切かなきり声に眠っていた馬も飛び起きたようだ。
 
「ほら~やっぱりコレが普通の反応だよねぇ。それにひきかえ、あの変態さんは……うぅ恥ずかしい」

 マンティコアのフェリスは顔を赤く染め、なぜか身をよじっていた。
 その様子に桜も落ち着きを取りもどし、目の前の化け物へと質問をする。

「あ、あの。変態さんって言うのは、戦極さんの事でしょうか?」
「彼はセンゴクって言うの? とっても変態だから、変態さんでいいと思うんだよね。うん」
「変態さん? あ、そのですね、その変態さんの所へと、案内をお願いできないでしょうか?」

 フェリスは桜を上から順にみつめ、「ふぅ~ん」と一言。

「いいよ。その袋からは食べ物の臭いしかしないし、変態さんに悪さをする感じもないしね」
「ありがとうございます! えっと、私は桜といいます。あなたは?」
「アハハ、マンティコアに名前を聞くなんて驚きだよね。自分はフェリス、色々あって今はマンティコアやってます! よろしくね、サクラちゃん!」
「はい! よろしくお願いしますフィリスさん」
「じゃあ、こっちこっち」

 フィリスはなぞの生物がしっぽになった物を起用に動かす。
 その動きで戦極の場所へと案内するようだった。

「一応はここで一番まともなわらを、いてある場所なんだけどね……」
「うそ……ベッドですら無いなんて……」

 桜は言葉を失う。
 眼の前にいる戦極が寝ている場所は藁の山であり、その中央に埋もれるように寝ていたのだから。


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