もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

028:希望

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 ◇◇◇

 ――ジョルジュとの修行を終えて戦極はマイホームうまごやへと帰る。
 帰る前にジョルジュから朝・昼とごちそうになり、夕飯もこれまで食べたことのない異世界料理を堪能たんのうする。
 それに満足し、桜に馬小屋まで送ってもらう事に情けない気持ちになりながらも、戦極は無事に帰宅した。

「戦極さん……今日はその、残念でした……」
「気にしないでくれよ桜、俺の力量不足ってだけの事だからな。なに、明日の楽しい修行の結果で俺・超・覚☆醒!! ってなるかも知れねぇだろ?」
「ふふ、どんな時でもまっすぐで尊敬しちゃいます」
「そんな男になりたいと常々願っているよ。ありがとう桜、帰りは気をつけてな?」
「はい。おやすみなさい戦極さん。また明日」
「はいよ、また明日」
 
 桜と分かれた戦極は、下を向きながら帰宅する。
 その様子に全てを察したフェリスが、静かに近寄って話し出す。

「そっか……残念だったけど、まだ方法はあるから」
「ただいまフェリス。その方法もジョル爺から聞いてきたよ」
「うん。命……がけだね」
「あぁそうだな。だが俺の――いや、俺たち一族の生き方は常に命がけソレだから、今更と言えば今更だな」
「本当に変態さんったら……。せめて今夜はゆっくりと休んでね。絶対に安眠を守ってみせるからね」
「信頼しているよフェリス。おやすみ、いつもありがとう」
「おやすみ変態さん。せめて良き夢を」

 良き夢を、か。
 今が夢か幻かは知らないが、痛みだけは本物だ。

 結局あれから色々と試したが、やはり俺には魔力の適正は無いようだ。
 分かっていたが、俺にとってはかなりこたええる。

 なにせこの世界では魔力=力を表してんだからな。
 それが使えない以上、俺の価値は路傍ろぼうの小石程度ってわけだ。
 マジでやってられん。

 美琴……今お前はどこにいるんだ?
 寂しくて泣いてはいないだろうか? お前と分かれてからというもの、俺の心が落ち着くことはない。
 早くあの美しい刀身とお前の笑顔を、俺にまた魅せてほしい……。

「あら? 今日はもう寝ちゃったのね。なんとか生き残ってね変態さん」

 赤い月明かりが差し込む馬房ばぼうに、戦極の半身が照らされる。
 朱色の月は戦極の明日をどう見るのか……それは天上の双子しかわからないのかもしれない。


 ◇◇◇


 ――翌朝。

 濃霧がデュロック城をおおい隠し、周囲を陰鬱いんうつな空気が呑み込む。
 その中から四人の影が現れる。
 一人は生粋きっすいの勇者〝虎ノ威とらのい昇司しょうじ〟であり、その隣に並ぶのは聖女の〝伊集院いじゅういん真乃依まりえ〟だ。
 その後ろから大戦士の〝山田やまだ剛流たける〟がおどおどと付き従い、それを呆れるように見る、大魔法師の〝田中たなかさくら〟がつづく。

 四人の行き先はいわずもがな、古廻こまわり戦極せんごくのステキな悪臭ただよう馬小屋スイート・ホームだ。

「チッ、またあんな臭せぇ場所までいくのかよ。マジ面倒すぎるだろう」
「だから~アタシは昇司に譲るって言ったっしょ? なんであんな臭っせぇ場所にいかなきゃならないのよ~。マジテンサゲ~」
「ふ、二人とも。同じ日本人なんだから、もっと優しくしてもいいんじゃないかな?」
「「はあああああ??」」
「剛流ぅぅ、いいかテメーの平和脳に刻んどけや。俺らと違ってアイツは規格外ゴミムシだ。魔力が使えねぇ時点で、俺らより格下なんだよ」
「あんな汚物と一緒にしてほしくないですけどぉ? アタシら勇者だっつーの。アレはただの汚物っしょ。人権なしっしょ」
「二人ともいい加減にして! どうしてそんなに戦極さんを嫌うのよ!! 確かに魔力はないけど、巻き込まれた仲間じゃないの!!」
「うわ~桜ったらなに? 戦極あんなんが好みなわけぇ? マジドン引くわ~」
「ち、違う! そんなんじゃないもん!」
「おぅおぅ、なに顔真っ赤にしてんだよ。チッ、ムカつくやろうだぜ」
「…………あ、あのそのくらいでやめようよ。ほら、もうすぐ戦極さんの所につくから。桜ちゃんも落ち着いて、ね?」

 雰囲気最悪のまま戦極の馬小屋の前まで来る四人。
 相変わらずの悪臭が鼻を刺激し、桜いがいの全員が顔をそむけた。
 あまりの悪臭に苛立った昇司が、大声で戦極を罵倒するように叫ぶ。

「チッ、オイ! 糞溜くそだめめ野郎!! とっとと出てきて訓練いくぞ!!」
「ウルサイ……死にたいの?」

 いつの間にか背後に立っているフェリス。
 その存在に気が付かず、昇司と真乃依は腰を抜かすように尻もちをつく。
 だがその下には……。

「「ひゃああああ!! 馬糞!?」」
「お? 迎えに来てくれたのか。ありがとうみんな。って、あぁすまないその場所な、馬糞のすてる場所にしてたんだよな。よかったらこれで拭いてくれよ」

 戦極は手に持っていたわらを渡すと、にこやかに微笑む。
 昇司と真乃依は顔を真っ赤にして、それを奪い取り馬糞を落とす。
 その仕草に桜はクスリと笑い、剛流は冷や汗を流す。

 やがてある程度とれたのか、涙目になりながら戦極へと命令調に昇司は話す。

「ッ、このクソヤロウ。いいか、今日は俺のところか真乃依のところへ来るんだ。これは絶対だ! 分かったらさっさと来い規格外ウスノロが!!」
「今日アタシむり~。もう帰って風呂はいるしぃ~」
「じゃあ今日は昇司のところへ行こうかな。ヨロシクな昇司パイセン」
「マジでムカつくヤロウだ……。いいかヴェネーノ師匠は城の南にある、バラの庭園にいるから、お前もとっとと来い」

 バラの庭園? そんな場所もあるのか。ヤロウに似合わない場所だが、まぁ行くしかないか。
 さて、今日一日生き延びることが出来るかだが……。

「せ、戦極さん。二人が行っちゃいましたよ?」
「あぁそうだな。じゃあ行ってきますかね……二人とも、よく覚えていてくれ。希望はある、必ずな。だからあきらめないで信じて待っていろ」
「戦極さん、それは一体どういう意味なんです?」

 桜の問に戦極は答えず、背中を向けながら左手のひらを振って返事とする。
 その意味に桜と剛流は困惑するも、なにか期待ができる。そんな予感で胸があつくなるのであった。
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