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異世界の残酷な洗礼編

029:絶望

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 たく、昇司のやつどこまで行く気だよ。俺は生身の一般人だぜ?
 そんなに早く走ったら、それなりに早く・・・・・・・走らないと追いつかないだろう?
 戦う前に疲れたらどうするよ。いっそ、このまま歩いてみるか。

「っと、着いたかな」
「ここだ。この先に師匠が待っている」
「……らしいな」

 おいおい、いきなりバッドでギュットなフレンドリー感満載の、プレッシャーをぶつけてくるかよ。
 薔薇バラそのにふさわしくなくてよ?
 もっとお上品に行こうぜ、ヴェネーノの旦那。
 
「ふっ、よく来たなショウジ。そして――規格外ゴミクズ
「ククク。師匠、まんまじゃねぇっすかそれ」
「おはようございますヴェネーノ師匠。ステキなあいさつ痛み入ります」

 嫌だねぇ、弟子が下品でいけない。
 師匠の顔を見てみたいと思うが、きっと陰キャだからやめておこう。
 さて、ここからだが……どうくる?

「ふっ、その減らず口もここまでだろう。今日は二人に先日の再戦をしてもらう」
「待ってたぜ師匠! 今日こそは規格外ペテンヤロウをブッコロす!!」
「お手やわらかに頼みますよミスター」
「ふっ、ショウジは素手でやってみろ。剣は使用禁止だ」
「ええええ!? そりゃないぜ師匠! せっかくぶった斬ってやろうと思ったのによ~」
「ふっ、そしたら確実に死ぬだろう? それよりも長くいたぶる事ができるぞ?」

 おい、なに嬉しそうに目を輝かせている。
 俺はサンドバッグじゃねーのよ? たくッ……だがそうなりそう、か。

「ふっ、センゴク。貴様はそれがしのコレクションから好きなのを選べ。なに遠慮はするな、死出しで手向たむけだ」
「それはご丁寧にありがた~いですが、その剣はどこに?」
「ふっ、今出そう――魔剣招来まけんしょうらい!」

 ヴェネーノがそう強く言い放つ。
 次の瞬間、地面に魔法陣が出現すると、十本ほどの剣が出現する。
 その剣からはどれも異常な力が出ており、そのうちの一本が戦極の目にとまる。

 形は剣の幅が厚いファルシオンとよく似ており、斬るというより〝叩き切る〟というナタが大型化したような物だった。
 バランスは限りなく悪いが、防御重視の戦いとなるだろうと予想した戦極は、それを迷わず選ぶ。

「ふっ、やはりそれを選ぶか。貴様、やはり戦士だな?」
「戦士かどうかは分からんが、剣道くらいは出来ると自負しているぜ?」
「ふっ、剣の道か……その言葉に似合った動き、某がしに魅せてみよ。規格外ゴミクズらしくな」
「あがいて見せるさ、規格外ゴミムシらしくな」
「しっしょ~! 俺もう飽きたよ~、さっさと殴らせてくれよ~」
「ふっ、ならば双方構え。ルールは死ななければ何をしてもいい。では……はじめ!!」
「まぁってましたああああ!!」

 昇司は赤い魔力の塊を右腕にグローブのようにまとう。
 この現象こそ、先日ジョルジュより学んだ一つである〝魔気〟だと戦極は理解。
 その際のジョルジュの言葉を戦極は思い出す。

  ――よいかセンゴクよ。魔気とは魔力を体に纏わせて防御力と攻撃力をあげる。
  ――じゃがショウジには一つ弱点がある。それは……。

「なぁ~にを狙っていやがる規格外ゴミムシ! オラ、ぶっとべよおおおお!!」

 戦極は魔剣の恩恵で、重さが半分にまで減った剣先・・を、昇司の拳の中央へと突き立てる。
 いくら防御が高く、その程度では傷一つ付くワケもないと、昇司も理解はしているが。

「ひぃッ!?」

 相手はド素人の昇司である。しかもビビリだ。
 思わず拳を左にそらし、体の横が見える状態になる。

「チャンス! まずは一つ!」

 魔気が明らかに薄い、右わきの下を思い切り剣で叩く・・
 その衝撃は昇司を先日の悪夢を、思い出させるのに十分であった、が。

「ヒッ――」
「ショウジ! その程度で怖気づくな! 規格外ゴミムシが頭を狙っているぞ!!」
「なッ!?」

 戦極はそのまま背後まで進むと、バク転しながら頭を狙う。
 その一連の動作に昇司はついてこられるはずもなく、思い切り頭を叩きこまれる。
 いくら防御力が並外れているとはいえ、背後から剣の重みと遠心力を載せられた斬撃は、昇司を容赦なく吹き飛ばす。

「グアアアアアアア!!」
「そのまま寝ていてくれよ昇司……」

 ……って甘い夢は夢のまま、か。
 だが少しはダメージが通ったか? かすかに頭部から出血しているようにも見えるが。
 これで判断が甘くなりゃ、俺の生きる見込みも見えてくるんだがなぁ。

「こ、こんの規格外クソゴミやろうがああああああ!!」

 ナイス。頭に血が上ったようでなにより。
 ジョル爺のアドバイスに感謝だな。〝ビビリと魔気の不慣れを突け〟か。
 ここからは綱渡りだ。一つのミスも許されない、命がけのサーカスの開始だ!

「クソガアアア!!」

 昇司は右拳の大ぶりで戦極の頭を狙う。
 それを左足を半歩ずらすことで、戦極はかわしたと同時に、剣でまた同じように斬り叩く。
 相変わらず防御が薄いようで、そのまま軽く殴られたようなダメージが昇司へと蓄積ちくせき

 イラつく昇司は強引に左回し蹴りを戦極の腹へと当てるが、それもギリギリで見切り半歩後ろへと下がることで躱す。
 そこから右と左の両腕より、高速パンチを繰り出すが、戦極は器用に上半身の動きのみで紙一重で躱す。

「ヴァハァハァ、クソ! なんで当たらねぇぇ!! テメェ! 魔法を実は使えるんじゃねえのかよ!!」
「そんなファンタジーは俺の辞書には載っていない。なぜ当たらないかって? それは運がいいからだッ!!」
「ふ、ふっざけんな!! クソオオオオオ!!」

 このままなら昼まで躱せそうだな、後はミスらないで集中を――ッ!?

「ぐぅッ、なんだ!?」
『ゴリヨウ、アリガトウ、ゴザイマス。計三回。イタダキマス』

 突如、戦極の持つ右手の魔剣より激痛が走り、直後に声がした後で何かを吸われる感覚に襲われる。
 驚く戦極は、魔剣を放り投げようとするが。

「な、なんだ離れないぞ!?」
「ふっ、ただより高いものはない。貴様の世界でそんな話を聞いたことはあるか?」
「チッ……そういうワケかよ。笑えねぇぞ陰キャ野郎」
「俺は笑えるけどなあああああああ!!」
「しまッ――グガアアアアア!!」

 激痛と魔剣を手放せないショック。
 そこにヴェネーノの言葉に気を取られた瞬間、戦極は昇司の拳をくらい吹き飛ぶのだった。
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