もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

036:聖女のAIはとまらない

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「「飽きたから」」

 そう言うと、二人は笑いあう。
 なにがそんなにおかしいのか、狂ったように笑った後に真乃依は戦極の落ちた左腕を蹴りあげる。
 そして戦極のそばまで左腕ソレを転がすと、戦極へと一言。

「拾えよパイセン。アタシがその汚ねぇ腕くっつけてやってもいいんだけどぉ」
「ぐぅ……真乃依おまえ……」
「ちょっとさぁ、前から思ってたんだけどぉ、気安く呼ぶのやめてくんない? アタシ、そんなに安くないんでぇ。で、どうするん? 付けてほしければぁ……頭下げろボケ!」

 俺の腕がもとに戻る? マジかよ、ならなにも迷うことはない。
 簡単なことだ。俺が真乃依に頭を下げて、泣いて懇願こんがんするだけでいい。
 お願いします、俺の腕をもとに戻してくださいって。
 
 この激痛から開放されるなら安いものだ、こんな頭何度でも下げてやる。
 頼む真乃依様、俺の腕を――。

「――寝言は寝てから言えよ。たかが左手一本を無くした? だからどうした。こちとら創業三百年だボケェ!!」
「ヒィィッ!? な、なんなのよ! アンタ左腕なくしているつーの分かっているのかよ!!」
「残念ながら右手も足も首もまだあるもんでな。左腕がなければ、右手で殴る。右手が無けれれば右足で蹴る。それも無ければ左足で蹴る。それもなくなれば――噛みつき殺すまでだ」

 真乃依はあまりの気迫に押され、その場に尻もちをつきながら背後へと後ずさる。
 そして師匠へと助けの視線をむける、が。

「あら、ずいぶんと勇ましいのですわね。その気迫に免じて今日はここまでにいたしましょうか」
「し、しっしょ~! アイツにあんな事言わせておいてもいいの!?」
「気に食わなくて? それならマリエ、貴女がどうにかなさい。面白いじゃない、わたくしを正面に見据えて、ここまで啖呵たんかをきるなんてね」

 そう言うと聖眼のエカテリーナは去っていく。
 真乃依は涙目で戦極を睨むと、そのままエカテリーナの後を追う。
 やがて二人の姿が見えなくなり、緊張が解けたと同時に戦極は前かがみに倒れる。

「見栄……はっちまったかなぁ。やっぱ痛てぇな、左腕が無いってのは。異怪骨董やさんに帰れたら、しめに義手でも作ってもらおうか……」

 やばいな……もともと血を流しすぎた。
 それに徐々に体温が下がっていくのを感じる。
 止血しなきゃならんが、体が動かない。

 さむい……くそ、意識がとぶ。
 何でもいい、口を開いて意識を持たせろ。

「異世界……か……ここで俺は死ぬのかな……はは……あぁやっぱダメだ……これは」

 戦極は静かに、重くなったまぶたを閉じる。
 あたりはすっかりと暗くなった頃、戦極を呼ぶ声が遠くからする。
 声の主は二人であり、若い男女の声が噴水の向こう側から聞こえた。
 その様子は相当焦っており、なりふり構わず叫ぶ。

「戦極さーーーーん!! どこですかーーーー!?」
「せ、戦極さん! いたら返事お願いします!」
「だめだよ剛流くん、戦極さんは返事ができないんだよ」
「だ、大丈夫だよ。さっき真乃依ちゃんが言っていたろ? まだ生きているはずだって」

 桜は両手を力いっぱい握りしめると、悔しげに表情を歪ませる。
 その怒りはツメが手の平に食い込むほどであり、もう少しで血がでる勢いだ。

 剛流も桜と同様であり、同じクラスの女子がそんな事――戦極の腕をちぎったまま、放置しただなんて信じられない思いだった。

 だが現実は残酷だ、目の前に戦極が片腕をなくして転がっていたのだから。

「「戦極さん!?」」
「な、なんて酷い……桜ちゃん!」
「うん分かっている。まずは腕をここに置いて……」

(だ、大丈夫のか桜ちゃん。腕も血の気がなくなっているし、壊死しているんじゃ? それに戦極さん自体がもう……)

 そう剛流が内心で思うのも無理はない。
 ちぎれた腕は血色が悪く、戦極も顔面蒼白だ。
 そんな状態で回復魔法をしても無駄なのでは? そう剛流が思った次の瞬間、桜は魔気を両手にまとい戦極のちぎれた腕の部分へと両手でそっと手を添える。

 そして天へとむけて静かに。だが力強く神へ祈るかの如くスペルを詠唱。
 ただそのスペル、これまでとは違って力強くもあり、とても安らぎを感じる。
 
「お願い神様、戦極さんを癒やして――神の御手よりこぼれ落ちる奇跡の光よ、この者を癒やしたまへ! ハイヒール!!」

 桜の頭上二メートルほどより降り注ぐ奇跡の光。
 それが桜の手をつたい、戦極のち切れた腕へと集約。
 次の瞬間、筋組織同士がお互いを求めあう。
 さらに皮膚が形成され、骨も緑色に光ながら、あっという間に元に戻っていく。

「す、すごい……」

 桜は「まだだよ!」と言うと、さらにハイヒールを重ねがけをした。
 あれほど血色が悪く、腕が壊死寸前だったが徐々に血色がよくなっていく。
 次第に戦極の顔色も良くなっていき、表情が和らぐ。
 さらに呼吸が浅かったが、やっと通常に戻ったことを確認した桜はその場にへたり込むのだった。
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